初代 ロードスター に新たな命を…マツダのレストア事業の全容

自動車 ビジネス 国内マーケット
横浜で行われた説明会には600人以上のファンが集まった
横浜で行われた説明会には600人以上のファンが集まった 全 20 枚 拡大写真

2017年12月、マツダが初代ロードスター(NA型)のレストアサービスを開始した。その前年、8月に行われたオートモビルカウンシルの会場で、始動することが発表されて1年以上。サービス開始を待つ多くのファンの期待を背負い進行したプロジェクトが、ついに幕を開けた。今回はその気になる事業内容や、事業開始に踏み切ったマツダの想いをレポートする。

『志』を胸にスタートするレストア事業

12月10日。神奈川県横浜市にあるマツダR&Dセンター横浜で、一般向けのロードスターのレストアサービス説明会が開かれた。会場には600人以上の愛好家が集結。注目の高さをうかがわせた。

同13、14日にはメディア向けの説明会も実施。ここにも、自動車メーカーが取り組む新たな挑戦に関する情報を得ようと、多くの取材陣が足を運んだ。著者が訪れた13日は、ちょうどレストアサービスの受付が開始された日。そのせいもあってか、対応してくれた担当者の表情もどことなく安堵感に包まれている、そんな印象を受けた。

ここで説明をしてくれたのは、今回の事業でロードスターアンバサダーという肩書を持つ山本修弘氏。以前はロードスターの主査を務めていた人物とあって、その口から発される言葉の一つひとつが、“NA愛”に満ち溢れたものだった。

「マツダは何かを始める時に、『志』という言葉を使います。想いを込め、高い目標を掲げ、決して諦めないという意味がその言葉には込められています」

山本氏はそう前置きをしたうえで、今回のレストア事業の根底に流れる『志』について説明した。それは「ユーザーとの強い絆の構築」、「車文化への貢献」、「信頼性の高いレストアサービスの提供」、「ショップとの良好な関係の構築」という4項目にわたる。

「私たちは、ロードスターを名車だと思っています。それに新たな命を吹き込みたい」

そう力強く語った山本氏。1989年に登場して30年近くの年月を経た初代ロードスター。2017年現在も、その登録台数は2万2770台にのぼる。この数字が、山本氏の言葉にさらに強い説得力を与える。

開始当初は状態の良い車両に限定

では、ここでサービスの概要を少し紹介する。

今回のレストアサービスを受けるためには、まずWEBで申し込みを行い、その後、書類審査、車両確認という段階が踏まれる。その結果、適用車と判断されて初めて正式な受付を行える。

「手探りの状態のスタート」という山本氏の言葉にも現れるように、現段階ではサービスを享受できる車両にもかなり制約があるなかでのスタートとなる。その見きわめを車両確認などを通じて行うということだった。

では、どんな車両が適用車になるのだろうか?

まず『1993年までに発売された「NA6C」の標準車で、かつナンバー付きの車両』、これが前提条件となる。93年以降の「NA8C」や、限定車はスタート時点では対象外という説明がされた。

また交換できない部品の錆が進行している車両や、溶接修理があるもの、また改造車(カスタムパーツを外せば可)も、今回のサービスを受けることができない。あくまでも、公道を走れる、状態の良い車両に限られる。

これについて山本氏は、「(車両が制限されるのは)申し訳ない」という言葉を何度も口にした。しかし「まだ始まったばかりの事業。最初から大きなことはできないが、小さなことからコツコツやっていき、このプロジェクトを育てていきたい」と、今後の適用車両の拡大にも含みをもたせた。

気になる価格は?

この段階を経て適用と判断されたクルマは、マツダの広島本社もしくは、R&Dセンター横浜で正式な受付を行う。この際に車両を預け、最終確認を経てレストア作業に入るというのが、手続きに関する一連の流れだ。

メニューは、基本メニューのみの実施で250万円(税込)。車両診断に加え、ボンネット、フロントフェンダーなどの交換、復刻ソフトトップへの張り替え、小ダメージの鈑金作業、全塗装といった作業がここに含まれる。塗装時には、当時は無かったクリアコートと磨きも施工されるなど、「基本メニューだけでも、発売当時の新車よりキレイになります」というほどの充実ぶりだ。

これに加えて、希望や必要に応じてオプションを追加するというのが、メニュー選びの基本となる。オプションは、「インテリア」、「エンジン&、パワートレイン」、「シャシー&サスペンション」、「エアコン」、「アルミホイール&タイヤ」の5項目で、それぞれに値段が設定されている。基本メニュー+全オプションというフルレストアを実施した時は、485万円(税込)の費用を要する。

車両の状況にもよるが、作業期間の見込みは受付から2カ月程度。保証期間は1年/1万キロと規定しているが、「レストアしてくれたお客様とは、その後も長くお付き合いをしていきたい」と柔軟に対応する方針を示している。

世界初!「クラシックガレージ認証」を取得

最初に、今回の適用車両には制限があるという話をしたが、ここには価格へのこだわりも見え隠れする。

「値段をあげればあげるほど、ロードスターというイメージからかけ離れ、ファンも遠ざかってしまいます。できるだけ安いお値段で、提供したい」

修理跡や、錆がある車両を完ぺきな状態にすると、値段はどうしても跳ね上がってしまう。車両の制限は、多くの人に愛されるロードスター像を守るための手段と言える。

「今回の事業は、コレクターを増やすものではありません。元気に走るNAを増やすための取り組みです。ずっと、長く乗ってもらいたい。生涯にわたり乗ってもらうための修理を行っていきます」

これが、今回の事業で目指されることだ。そして、その目標を実現のものにするため、発表から1年4カ月の間、妥協のない準備が行われていた。トライアル車を製作し、そのノウハウを蓄えるのはもちろん、徹底した研究や、意見交換などが繰り返された。またドイツに足を運び、メルセデス・ベンツやポルシェのレストアワークショップでの勉強にも余念がなかったという。

さらに、第三者認証機関のテュフラインランド・ジャパンに監査を依頼し、優れた環境でレストア作業を行っているというお墨付きともいえる、『クラシックガレージ認証』を世界で初めて取得。「マツダとして初めて取り組むレストア作業で、自分達が向かっている方向が正しいのか」を客観的に判断するための措置は、同時にユーザーに安心感を与える材料にもなっている。

自動車メーカーの新たなる挑戦

上記のメニューのほか、レストア工程を記録したフォトブックの配布や、希望者に対して愛車がレストアされていく過程を見学できるサービスなども提供する。

また149の部品を復刻し、その供給も同時にスタートする。なかでも目玉と位置づけられているのが「タイヤ」だ。初代ロードスターに装備されていたブリヂストン製のものを、当時の開発陣が再集結し完全再現。まさに復刻という言葉にふさわしい、こだわりの一品となっている。このファン垂涎のパーツは、スタート時点から発売を開始(ホイールは5月発売予定)。この他、ソフトトップやステアリングホイールなど供給部品のほとんどが、ほぼ当時のまま再現される。

「ロードスターファンの皆様の愛情、そしてマツダのなかで長く愛されてきたクルマを愛でる文化を育てたいという願い。これが両輪となって実現したプロジェクトです。最初は(規模が)小さいけど、1歩ずつ大きくしていきたいですね」

山本氏は最後にこうコメントし、説明を終えた。

愛車に長く乗ってもらうために取り組む自動車メーカーの挑戦。今後、どのような発展をしていくのか、期待を胸に見守り続けたい。今回のマツダの『志』が大輪の花を咲かせた時、きっとクルマ文化に新しい価値観を作り上げることになるだろう。

初代ロードスターに新たな命を!…マツダが開始したレストア事業、その全容を聞く

《間宮輝憲》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る