【岩貞るみこの人道車医】自動運転車が雪で立ち往生、そのとき責任は誰にある?

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雪で立ち往生するクルマ(イメージ)
雪で立ち往生するクルマ(イメージ) 全 1 枚 拡大写真

【車】「悪いことは自分には起こらない」わけではない

東京で雪が降った2018年1月22日の月曜日。私は朝から籠城である。雪は苦手だ。ぜったいクルマで走らない。その決意のもとにスタッドレスタイヤも買っていない。

しかし、積雪量は10センチを超えるというのに、東京にはノーマルタイヤのまま走る強者が続出である。いやそれ、無理だって。そしてその結果、坂を上れずに立ち往生するのである。報道によると首都高速道路では、ノーマルタイヤのトラックが道をふさぎ、8時間も身動きとれないクルマが出たとか。

「スタッドレスタイヤを装着しろ」
「ノーマルタイヤのまま走るな」

毎回、そういう言葉が飛び交うのに、絶対に現れるノーマルタイヤのまま走るドライバーたち。きっと彼らの脳内には、「積もらないだろう」「まだなんとかなるだろう」「いまのうちにぱっと行って帰ってくれば大丈夫でしょ」「自分だけは大丈夫」という言い訳で埋まっているのだと思う。

しかし、脳科学的にいうとこれは、めずらしくもなんともないどころか当たり前のことらしい。人間の脳は、悪いことは起こらない、起こるとしても自分には起こらないと思うようになっているそうだ。なるほどね、そりゃそうだよね、怖い、やばい、事故る。常にそう思ってびびりまくっていたら、おちおち運転もできないし、生活そのものも成り立たなくなってしまうもの。

逆に、いいことは自分に起きると思えるようになっているらしい。そうか、争うようにジャンボ宝くじを購入するのは、最高額が当たると信じているからにほかならない。いいことは自分には起き、悪いことは起こらない。まったくもって都合がいい話だけれど、人間が生きていくにはそういう脳の働きが必要なのだろう。だけど、交通事故が自分や自分の家族に起きる可能性は、宝くじで一億円が当たる確率よりもだんぜん高い。それだけは肝に銘じて、住宅街の走行速度を落とし一時停止ではきちんと止まってほしいものだ。

◆雪がふったら自動運転は「無理」だよね

さて、その月曜日の大雪の日、私のまわりの人たちが「スタッドレスタイヤを装着しろ」以外に言っていたことがもうひとつある。「雪がふったら自動運転は無理だよね」だ。

そう、無理。カメラも、センサー類も、雪をかぶっちゃったら機能は果たせない。道全体が雪で覆われたら白線だって認識できないし。歩道と車道の段差もわからないうえ、路肩に雪がつもれば、対向二車線の道路はきゅーっと道幅が狭くなり、ゆずりあわないと行きかえないところだってでてくる。人間なら、対向車のドライバーと阿吽の呼吸でお互いの気持ちを読み取って交互に走れるけれど、「センターラインは超えたらいけません!」と、厳しくすりこまれている真面目な自動運転車両が、雪道でゆずりあえるとは思えない。完全自動運転の世界は、まだまだ遠いのだ。

ところで、完全自動運転の世の中になったあと、自動運転車両が、雪道で立ち往生した場合、だれの責任になるのだろう。おそらく、販売するときは、「雪がふったら、自動運転車両は走らせないでください」と説明するのだろうが、今回の雪でスタッドレスタイヤもなしに走り回ってスタックした楽観的お脳みその持ち主である我々自然人は、間違いなく、「まだ、大丈夫だよねー」と楽観視して雪がふっても乗ってしまうに違いない。自動運転車両の立ち往生は至る所で発生しそうだ。ということは、それを抑止するべく「雪の日は自動運転車両を走らせてはいけません」という法律が必要になってくるのだろうか。

でも、それって、どの時点から違法になるの? 時間によって降雪量は違うよね。場所によっても違うよね。積雪量だって違うよね。住宅街では、除雪をちゃんとやる住民がいる道と、知らんふりする住民ばっかりの道では、残雪量は違うし、日中、日向か日陰になるかで積雪量も違えば、道がバリバリに凍るかどうかもまったく違う。一概に「雪の日は走行禁止」と言ったって、じゃあ、基準になる道はどこになるんだろう? 立ち往生するのは、ドライバーの判断ミスなの? でも、あー、この道じゃなく、一本、早く曲がった道を行けばスタックしなかったのに、なんてことも起こるかも。私ならきっと言っちゃうだろうな。

「除雪しない自治体&住民が悪い!」と。

いままで、人は道交法をうまく解釈して交通社会を作ってきた。なんとなく曖昧にされていたことも多いけれど、融通のきかない自動運転車両は、白黒はっきりさせないと走れない。となると今後は、すべてにおいて白黒はっきりさせ、がっちがちの法律にするのか、それとも、自動運転車両に「曖昧」「融通」「大人の事情」という概念を植え付けるのか。どっちの場合も、問題噴出しそうではあるけれどね。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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