【藤井真治のフォーカス・オン】世界販売わずか50万台「いすゞの生き残り戦略」その実態は

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いすゞ自動車のインドネシア向けトラック『TRAGA(テラガ)』
いすゞ自動車のインドネシア向けトラック『TRAGA(テラガ)』 全 4 枚 拡大写真

50万台レベルのいすゞ自動車の世界販売。国内トップメーカーのトヨタの1000万台と比べると僅かに20分の1。マツダやスバルと比較しても半分以下の水準である。膨大な開発投資や設備投資を伴う自動車産業において販売や生産台数規模は競争力の源泉とも言えるのだが、僅か50万台の販売規模のいすゞが今後の厳しい自動車ビジネスでいかに生き残っていくのか。

東南アジアの商用車戦略にさらなるドライブをかける事が明確になってきた。

◆商用車の新型を発表

いすゞ自動車が4月に日本で記者発表しインドネシアで発売した商用車が東南アジアビジネス業界ではちょっとした話題になっている。

いすゞの発表によるとこの新モデルはキャブオーバータイプの軽量トラックでGVW(車両総重量)は3トン。タイにあるいすゞの開発統括会社のデザインで、インドネシアでは『TRAGA(テラガ)』という名前がつけられている。タイで生産販売しているピックアップトラック『D-MAX』の部品がかなり使われているという。生産拠点はインドネシアで、輸出も考慮されているようだ。

車両総重量3トンのトラック市場は日本では大変小さく、具体的なモデルのイメージがつかみにくいのだが、サイズ的にはちょうどいすゞの『エルフ』とトヨタの『タウンエース』の中間あたりに位置し、もしトヨタの『ハイエース』に荷台のついたトラックがあればちょうどこんなサイズなのだろう。

日本市場は二の次、まさに新興国での市場開拓のために開発/発売されたいすゞのトラックだ。

◆インドネシアの商用車市場
インドネシアのいすゞ販売拠点
このいすゞの新興国向けトラックの生産基地となったインドネシア。自動車市場は108万台と日本の5分の1しかないのだが商用車比率が高く、全体の23%が荷物を運ぶための商用車。25万台の市場規模である。広い国土でトラック以外の物流モードが未整備で都市間物流も都市内物流もまだまだ発展途上であることが背景にある。日本の商用車市場規模は貨客兼用でつかわれる軽トラックを除けば43万台市場であり、インドネシアの25万台は商用車メーカーにとって意外と無視できない市場と言える。

ちなみに隣国のマレーシアでは商用車市場は僅か10.7%。タイはピックアップトラック市場が市場全体の半数近くを占めているのだがその大部分は乗用用途や貨客兼用用途と考ええられるため、純粋な商用用途車としては220%以下と考えられる。

◆いすゞにとっての東南アジア

いすゞの世界販売50万台の中で、中国を除いたアジア地域の販売は約21万台と全体の40%を占める。トヨタの『ハイラックス』と互角に戦いベストセラーカーとなった1トンピックアップD-MAXの好調なタイで16万台を稼ぎ、インドネシアは2万台でしかない。そのインドネシアでの新モデルの生産/販売は経営資源の少ないいすゞのとっては大きなチャレンジだ。その背景には無視できない市場規模だけでなく、三菱の『L-300』というレトロモデルの存在がある。

L-300は三菱がインドネシアで1970代から現地生産/販売を始めた車で、現在このGVW3トンクラスの市場で、事実上市場を独占している。現地生産されてから40年以上大きなモデルチェンジもなく、顧客の声を聞きながら小改良を繰り返し、現在に至っている。日本ではとうの昔に生産販売が終了してしまった『デリカ』の2代目モデルである。そのレトロモデルが現在も顧客の支持を集めて年間2万台以上を売り上げているのだ。

いすゞはこのL-300に真っ向から勝負を挑み「新しいモデルでL-300よりちょっとたくさんに荷物が積めますよ!」というセールストークで三菱の独占市場に攻めに行くようだ。

◆海外での商用車は生産も販売もあきらめたトヨタ?
GVW3トンクラスの市場を独占する三菱 L300
しかしながら、商用車は乗用車と異なってビジネス客が対象。モデルの新しさというのはむしろ障害となる。新しいモデルはメンテナンス部品の入手やインドネシアの隅々にある独立系サービスショップでの修理が難しい。L-300の独占を崩すには販売資金もさることながら、商用車特有の販売プロセスや顧客サービスプロセスの手間暇が課題と思われる。商用車のプロであるいすゞが今後インドネシアでこの商品をいかに育てていくのか、またインドネシアでの生産拠点が内需や輸出台数によってタイの生産拠点につぐ第2の核になるのか注目に値する。

一方王者トヨタのインドネシアにおける商用車市場シェアは僅か4.9%。乗用車シェアは40%を超えているものの、手間のかかる商用車は一部の車種を除いてあきらめたかのように見える。これまで三菱『キャンター』に果敢に挑戦していた2トン車(GVW5トンクラスのダイナ)も今や生産も販売も完全にグループ会社の日野(デュトロ)に任せてしまったようだ。

乗用車とは異なる売り方、使用年数の長い顧客にいかに関与しビジネスとするか?認定販売店のサービス工場に入庫しないサービス顧客をどう支援するか?バリューチェーンを築くためのアフターの仲間作りをどうするか?商用車市場の大きいインドネシアはトヨタにとっても重要な試験場だとも思えるのだが。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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