メルセデスベンツ CLS…もうドラマチックなものはいらない[デザイナー インタビュー]

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メルセデスベンツ CLS
メルセデスベンツ CLS 全 8 枚 拡大写真

モデルチェンジして3代目に進化したメルセデスベンツ『CLS』(Mercedes-Benz CLS)。このクルマからメルセデスベンツの新たなデザインがスタートするというので、エクステリアデザイン統括に話を聞いた。

◇センシュアルピュリティ1.0から2.0へ

----:メルセデスベンツCLSのデザインを見るとシルエット等を含め大きくは変わっていないようにも見えます。しかしこのCLSから新たなメルセデスベンツのデザインの革新が始まると発表されました。そこで、どういう革新なのかを具体的に教えてください。

ダイムラー社エクステリアデザイン統括のロバート・レズニック氏(以下敬称略):はい、少し昔のことからお話をしましょう。私がメルセデスに入社したのは9年半前のことでした。ボスはゴードン・ワグナーで、彼がこのポジションに就いたのは私がメルセデスに入社する3か月前だったのです。

そして、2008年から2009年まで丸一年かけてこの先のメルセデスのデザインをどうするかについて一緒に考えました。その結果、官能的純粋性、センシュアルピュリティというデザイン哲学が出来たのです。情熱と知性、ラグジュアリーとモダン、官能(センシャル)と純粋(ピュリティ)という異なる両極端な要素を、それぞれのモデルラインナップの性格に合わせ、プロポーションや面構成、ディテールで表現していくというものです。

ダイムラー社エクステリアデザイン統括のロバート・レズニック氏
2009年から3年から4年経った2012年、2013年あたりに『Sクラス』や『Aクラス』をデビューさせました。デザインの考え方は数年かけて完璧にしていくものですから、このセンシュアルピュリティ“1.0”はそこから始まりその後の『Eクラス』で完結したといっていいでしょう。そしていま、センシュアルピュリティ2.0という段階になり、その先頭に立つのがCLS、次いでAクラスなのです。

このポイントはキャラクターラインを大きく減らしてほとんどなくなっていることです。もちろん全てのモデルでこういったラインが全くなくなっているわけではないのですが、CLSのようなクーペというコンセプトを考えると、ラインを取り除いていくことはおそらくやりやすいと思います。

これには少し反省もあるのです。これまでのAクラスや『Cクラス』などはラインがありすぎ、全体的にナーバスなイメージになっていました。2012年当時であれば何か新しいことを行いたかったり、Aクラスでは“ドカン”と目立つイメージでデビューさせる必要がありました。

しかしそこからデザインや細かいディテールも含めてどんどん改善され、同じクルマでも中にはよりクリーンで本当にラインが少なくなったクルマもあります。そういったことを踏まえ、ラインをどんどん取り除いていったのがセンシュアルピュリティ2.0なのです。もうドラマチックなものはいらないのです。

さて現在、他社のクルマを見てみるとその逆をいっているように感じます。エクステリアデザインではラインが増えているクルマが多くなっていますね。これが現状で、誰が勝つかはこれから5年先でしか分かりません。しかし、まさに我々はそこにいるのです。

◇シンプルな未来

----:なるほど、つまりシンプルにしていくことが未来につながるということなのでしょうか。そうであるならばなぜシンプルが未来を思わせるのでしょう。

レズニック:まさにシンプルにしたというのがキーワードです。そこにたどり着くまでには、まず社内でアイディアを出します。そのアイディアを元にして内部で方向性を決めていきました。しかし、それだけでは確実性がないのでカークリニック(外部の人にクルマやスケッチなどを見てもらう評価会)を行うのです。

彼らは何を見せられるのかは知らされていません。そんな彼らに、今回見せた時の最初のフィードバックはラインがなくなって簡素すぎる、単純すぎるというものでした。つまり提供しているものが少なくなったのではないかというイメージなのです。

しかし我々の考えとしてはいまの時代はモノがありすぎて、情報も溢れています。クルマも様々なモデルが溢れていて、そのクルマには色々なラインが入っており、さらに本当に細かいディテールにまでこだわりすぎていますよね。また何にでもアクセスが出来、買おうと思えば何でも買えるという時代でもあります。その中で我々が考えたのは少し落ち着きたい、calm down、静寂性を持つような簡素化をしたいということだったのです。

これはメルセデス特有のプロポーションがあったからこそ達成できたものです。世界に自動車メーカーはおそらく200社ぐらいあると思いますが、このプロポーションを提供できるのは3社ぐらいしかないでしょう。具体的にはFR独特のもので、ダッシュtoアクセル(Aピラーの付け根からフロントホイールの中央までの距離)が長く、フロントオーバーハングが短い。そしてキャビンは少し後ろ寄りにセットされます。また、グラスエリアも独特なものです

さて、シンプルにするというのは簡単に聞こえるかもしれませんね。しかし実は余計なものを取り除いて簡素化していくというのは簡単なことではなく、至難の技なのです。それが可能になったのはこのプロポーションがあったからこそ。そこから、いらないものを全て取り除いていくというのが今回の考え方なのです。


◇セダンをベースにベルトラインを高くした

----:CLSが4ドアクーペの市場を切り開いてきた存在といっても過言ではないでしょう。そこで、今回の新型CLSのエクステリアデザインで最も他社が真似できないようなメルセデスらしさはどこにあると思いますか。

レズニック:我々の会社はクルマを発明した会社ですので非常に長い歴史があります。その長い歴史の中で素晴らしいもの、史上初めてというものをたくさん出し、モデルもたくさん出してきました。その中には成功したものもあれば成功しなかったものもあります。

このCLSを最初に出したのは2003年のフランクフルトモーターショーでした。その時に実際に見た人が気に入るかどうかは公開するまで分かりませんよね。ただし、簡単にいえばCLSはスポーティな見た目のメルセデスのセダンなのです。ダッシュtoアクセルの長さやウィンドウグラフィックスというのは典型的なメルセデスで、スポーティなプロポーションの後輪駆動のプロポーションをまとっています。他社の多くはフロントホイールドライブですので、ここが大きく違います。このクルマが出た時は本当に革命的だったと思いますが、実はあまり特別なものではなく、セダンの車高を低くしただけの話なのです。

数値では車体自体はEクラスから比べて2.4cmくらい低いという違いでしかありません。しかし、例えばウィンドウグラフィックに関してはベルトラインが高くなっているので、見た目全体が低くなっているようなデザインマジックを持たせています。

さて、4ドアクーペとして3代続いているのは我々だけですよね。我々に追随してきた競合は2代目が出ているところしかないと思います。そこからいえることは我々のこのデザインを、どこも皆きちんとコピーできていないということです。それが我々の独自のプロポーションやラインなのです。そして、この3代目CLSはオリジナル(初代)をさらに完璧にしたといっていいでしょう。

CLSは我々にとってデザインのアイコンだと考えています。なぜデザインのアイコンになるかというと、それを人々が好きになり人気があるからです。だからこそ3代目まで続いているのです。新車を出しても人気がなければ2代目や3代目が出ませんからね。最終的に人が好きになってくれるのであれば我々はそれで良いと思っています。


----:新型CLSは5シーターになりましたが、そのためにルーフラインなどの部分で影響はありましたか。

A:ない!(と即答)。車内の広さが欲しければEクラスを買って欲しいというのが我々のスタンスで、スタイルを求めるのであればCLSです。クーペを買うというのはより高いお金を出しながらも、クルマ全体としての提供される実用的な価値や、機能面も小さくなります。しかしそれ以上に提供しているものはエモーショナルなもの、感情的、情緒に訴えるものです。

それでなぜ今回4人乗りにしなかったかというと、単に市場からの声として5人乗りが欲しかったというものが多かったからです。とはいえエクステリアのデザインに影響はありませんでした。もし誰かがこのクーペを買ってヘッドルームが少ないというのであればEクラスを試してもらえれば良いですからね。

最も、ほとんどこのクルマで大人5人乗車はないでしょう。通常は大人が前に2人座って後ろに子供が座るという形なのですが、5人乗せられる可能性が出来たということで考えてください。もし4人乗りの場合には5人目の大人が乗るということは不可能です。その可能性がひとつ出来たと考えていいと思います。
メルセデスベンツ CLS 新型…デザインコンシャス[詳細画像]

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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