【MaaSベンチャー】整備業界と個人をつなげたい…Ancar 代表取締役CEO 城一紘氏[インタビュー]

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株式会社Ancar 代表取締役CEO 城一紘(じょう かずひろ)氏
株式会社Ancar 代表取締役CEO 城一紘(じょう かずひろ)氏 全 3 枚 拡大写真

中古車の個人売買アプリ「Ancar」。中古車の流通をオンライン化し、個人と個人を直接結び付けることで中間マージンを廃し、売り手と買い手双方にメリットをもたらす。

実家が整備工場を経営しているという株式会社Ancar 創業者の城一紘(じょう かずひろ)代表取締役CEOは、どのような想いで起業し、何を目指すのか。話を聞いた。

モビリティビジネスをスマートサービス化し、業界を変えようとするMaaSベンチャーの4人の経営者がその目論見を語ります。詳しくはこちら。

整備業界と消費者をつなげたい


---:「Ancar」は中古車を個人間で売買できるサービスということですが、どのような経緯でこのサービスを始めたのでしょうか。

城氏:そもそも僕がこの事業を起こしたのは、実家の整備工場で感じた課題がきっかけです。実家は関西で70年ほど続いている整備工場で、自分自身は社会に出てからはずっと外で働いていたんですが、長男ということもあり、家業を継ぐべく実家に戻りました。

それから整備業界でしばらく働いたのですが、まず、整備業界自体が勢いがなく、景気が良くないということ。それから、現場の整備士さんたちの環境や待遇、社会的地位が評価されていないこと。人の命を守る仕事に対してきちんと評価されていない点に非常に違和感を感じました。

3つ目が情報格差です。(中古車を)売る側と買う側の情報の非対称性が大きいので、悪く言うと騙されてしまうケースもあるので、そこをもっと透明化したいと思いました。もともとIT系の仕事をしていたので、こういった課題に対してITの力で何かしらサポートできるのではと考え起業したという経緯です。

我々の会社が目指しているのは、車の売買を効率化したいということだけではなくて、売った後も、故障や車検などのニーズに対して、整備業界と連携をとって、カーライフをより豊かにしていくということを、ITという側面でサポートしていきたいということです。

ですので、車との出会いと別れをサポートする「Ancar」のほかに、買った後のカーライフをサポートする「Repea」というサービスも展開しています。これによって、カーライフのサイクルをより豊かにまわしていく、ということを目指しています。

高価な車をネットで売買するために


---:「Ancar」というサービスはどのような特徴があるのでしょうか。

城氏:現状の(中古車の)流通は、買い取り屋さんがいて、オークション業者がいて、販売店がいて、という多重構造になっていて、それぞれが利益をとらないといけないので、車の価格はどうしても末端では高くなりがちですし、逆に売る時も安く買い取らざるを得ない。構造上そうなってしまっているんです。

けれども個人間売買であれば、売りたい人と買いたい人を直接繋げば中間マージンはなくなりますし、消費税もかからないので、双方にメリットがあるという状況を実現しようとしているところです。

ただ、今までも個人間売買をやろうとしてきたプレイヤーはたくさんいるんですよ。オークションサイトや、フリマアプリも車を扱っていますよね。ただ車という商品の特性上、なかなか売買が活発にならないんです。特に高価な車においては。

---:個人ではローンが用意できないという問題ですか?

城氏:ローンの問題もありますが、そもそも、中古車のように高価で、命を預けるものでもあり、安全性が重要な商品を、見ず知らずの個人からネットを介して買うことができますか、という話です。オークションやフリマは、場を提供しているだけなので、出品者さんと落札者さん、双方の責任でやってくださいということになります。なのであまり広まらない。

もちろん大手のオークションサイトは、規模が大きいのでそれなりの取引は行われていますが、実は業者が多かったり、あるいは価格帯も非常に安い、数十万円ぐらいの車が目立っています。

---:そういえば確かに、安い中古車が多い気がします。

城氏:我々としては、どうやったら個人間売買を皆さんに広く使ってもらうことができるか、他社とどのように差別化できるかと考えたところ、そもそも僕のバックグラウンドでもある整備工場、彼らに協力してもらうことなんです。

出品された車のチェックを整備工場で行うことによって、第三者のプロの目線で、その車がどういう状態なのかをまずはしっかり見てもらう。それをネット上でしっかり開示をするということをやっています。

---:整備工場でのチェックは全車にしているのですか?

城氏:買い手が車両の点検をリクエストできるようになっています。点検費用は我々が負担して、その結果をきちんと開示することを差別化要素として提供しています。

---:御社が点検費用を負担するんですか?

城氏:はい。その後成約した際に、成約単価の10%を手数料としていただくので、そこで負担しているという考え方です。

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整備済み車両を工場で納車


---:提携の整備工場は、御社独自のネットワークなのですか。

城氏:はい、そうです。整備工場じたいは全国に7万店舗ほどあるんですが、それぞれが独立したオーナー店舗なので、オーナーに提案してご協力をお願いしています。

そのほかに、実は僕の祖父がロータスクラブを作ったうちの一人で…。

---:本当ですか!? それはすごい話ですね!

城氏:そうなんです(笑)。ロータスクラブの皆様にもネットワークに参加していただいて、そのほかにも足で営業をかけた結果、各店舗のオーナーさんにご協力をいただいているという状況です。

---:ネットワークは全国に広がっているのですか?

城氏:そうですね、全国対応です。このスキームによって、Ancarでは比較的高額な車が取引されているんです。

---:そうですよね。私もAncarのサイトを見た時に、高級車が多いんだなと感じました。300万円くらいの車もありますよね。

城氏:そうなんです。

---:工場で検査をしたときに、修理が必要な箇所が見つかった場合はどうなるんですか。

城氏:点検結果はお伝えしたうえで、売り手と買い手の方でどうするかを決めることになります。直してから売る場合や、直さずにその分値引きする場合もあります。

---:掲載されている中には、ポルシェのような、点検にも特別なスキルが必要な車もありますが、そういった車にも対応できる工場があるということですか。

城氏:はい、そうですね。ただ、かなり地方へ行くと、ちょっと離れた工場になる場合もありますが。

---:工場には売り手が持っていくのですか?

城氏:我々が工場を手配して、そこに車を持って行っていただくという形をとっています。その後購入ということになれば、今度は買い手さんの近くの提携工場まで車を輸送し、名義変更や納車前の作業をしたうえで、工場で納車をするという形を採っています。

---:整備工場で納車するんですね。

城氏:そうです。工場を介してサービスを提供しています。

---:御社に入るのは、成約手数料の10%ということですね。

城氏:そうです。ただ、今はその10%も無料でやらせていただいています。

---:そうなんですか。そうすると、販売価格が売り手にそのまま入るということですか。

城氏:そうです。売り手としては、出品価格が丸々手元に残る形になります。いっぽうの買い手は、出品価格プラス、送料や名義変更などの諸費用です。

オーナーと整備工場をマッチングしたい


城氏:もうひとつ当社では「Repear」というサービスを提供しています。こちらは車を買った後のサービスで、ゆくゆくは、カーライフのなかで生じる(修理などの)ニーズに対して、そのニーズに応えられる工場をマッチングできるサービス、という姿を目指していますが、まだ現時点では、どこにどのような整備工場があって、どんな種類の車を扱えます、といった情報がわかる検索サービスです。

---:それだけでもありがたいですよね。それぞれが独立した整備工場の情報がまとまったサービスは少ないですからね。

城氏:整備業界はまだアナログな部分が多いので、ネット上にほとんど情報発信していないんですよね。困った時に検索しても整備工場がヒットしないので、結局ディーラーに持っていったり、カー用品店に行くという消費者行動になります。整備工場がきちんと情報を出していきさえすれば、調べた人がマッチしていくのではないかと思います。

---:利幅の薄い下請けの仕事ばかりではなくて、エンドユーザーから直接仕事が取れれば、利幅を取りながら、お客様にも安くサービスを提供できるということですか。

城氏:単純に言うとそういうことです。お客様をもっと直接取りましょう、ということです。

個人も業者も巻き込んでいく


---:Ancarの今後についてですが、今は成約手数料を無料にしているのは、出品車両を増やすのが目的ですか。

城氏:そうですね。マーケットプレイスとしては商品数が非常に重要だと思っていますので、いかに出品していただけるか、というところにずっとフォーカスしてやってきています。

---:成約手数料が無料だと、個人だけでなくて業者も掲載するかもしれませんね。

城氏:それでも問題ありません。車に関わる消費者だけではなく、産業従事者も巻き込んだ上で、新しい流通を介したカーライフのあり方を提案していきたいと思っています。

最初にお話したように、流通や整備業界のあり方そのものを変えていかないと待遇も改善されません。我々が事業を始めたのは、そこを変えるためでもあったので。

これまでC2Cの点検業務を直接整備工場にお願いする、ということを積極的に進めてきましたが、今までとは違う仕事の取り方が増えて、利益が拡大すれば、整備士の待遇もよくなるのではないか、というところから始まっているんです。

---:出品車両を増やして、マーケットプレイスとしての価値を上げる、その次のステップとして何を想定されていますか。

城氏:出品数を増やしていくことは継続しつつも、今まで手をつけてこなかった“買いやすさ”といった部分に力を入れていきます。車を買いたい方が、より買いやすくなる仕組み、例えば独自の保証制度の開発も含めて、今やろうとしているところです。

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《Koichi Sato / Kazuya Miura》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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