マツダ コンパクトハッチバックの歴史…ファミリアからアクセラへの系譜は魁コンセプトへと続く

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初代マツダFFファミリア
初代マツダFFファミリア 全 10 枚 拡大写真

8月3日から5日にかけて、幕張メッセで行われたオートモビルカウンシル2018。マツダブースでは“マツダコンパクトハッチバックストーリー”をテーマに多くのコンパクトハッチバックが展示され、デザイナーによるトークショーも開催された。

■ファミリアから魁コンセプトまで

3回目となるオートモビルカウンシル。マツダは最も積極的に出展しているメーカーで、初回から大きなブースを構え同社のヘリテージとデザインを重視したレイアウトを行っている。

今回のテーマは、マツダコンパクトハッチバックストーリー。初代FF『ファミリア』から始まるコンパクトハッチバックは、常にその時代のマツダのクルマ作りの思想を反映し、最新技術を採用したマツダの主力車種。

ブースにはそのFF初代ファミリアをはじめ、モンテカルロラリー出場車両「323 4WD」、『ランティス』、『アクセラ』とともに、昨年の東京モーターショー2017にて発表された『魁コンセプト』も展示し、過去から将来に向けての同社のコンパクトハッチの系譜がわかるようになっていた。

そこでは、全日にわたりFR時代のファミリアのデザインに携わり、アクセラのチーフデザイナーも務めた鈴木英樹氏(2015年に退職し現在はフリーランス)と、初代アクセラのキーデザイナーで、現行アクセラのまとめ役、そして、魁 コンセプトチーフデザイナーの土田康剛氏によるトークショーが開催された。

この二人はいわば師弟関係にもあり、これまでのクルマとともに、魁コンセプトについても意見が交わされた。トークショーの進行は同じくマツダデザイン本部の田中秀明氏が務めた。

■FFファミリアの挑戦は世界の基準に適うコンパクトカー

田中秀明氏(以下敬称略):鈴木さんは、初代FFも含め過去からマツダ・ファミリアをずっとデザインしてきましたが、ファミリアの挑戦という意味で語っていただけますか。

鈴木英樹氏(以下敬称略):最初のプロジェクトはFRの4代目ファミリアでした。このクルマは、『シビック』と『ゴルフ』という世界的なスタンダードを作ったクルマが出た後でしたので、そういったクルマ達に追いつけ追い越せと、FRながらヨーロピアンなハッチバックを作るという挑戦をしました。

その後FRからFFに変わりました。そこではハードウェアとしてFFを獲得しましたので、プロポーションに徹底的にこだわりました。全てのピラーの方向がある一点に収束するプロポーションの構成を、時間をかけて作った思い出があります。それから台形フォルムによるスタンスも良さにもこだわりデザインしました。共通していえるのは世界の基準に敵う、そこに位置づけられるコンパクトカーを作るということに取り組んだのです。

その後様々なファミリアの歴史が続きますが、『アスティナ』や『ランティス』といった派生車も生まれてきます。やはりそこでこだわったのは、単なるコンパクトカーではなくマツダのスポーティな、あるいはダイナミックなクルマを作ることに挑戦してきましたので、それがファミリアのこだわりであり歴史だったと思っています。

■アクセラの挑戦は世界への挑戦

田中:コンパクトハッチバックというのは小さくて、それでいて荷室が使いやすいという非常に合理的な、本来であればど真ん中なクルマといえます。それをスポーティにしていくというところがマツダらしいですね。

その後鈴木さんは1996年にアメリカに赴任し、そこで様々な経験を積まれた後、2000年に帰国してアクセラのチーフデザイナーになりました。そこで土田さんと一緒にデザインをすることになるのですが、アクセラのデザインの挑戦という面ではいかがでしたか。

鈴木:一言でいったらまさに世界への挑戦といえるでしょう。実は9代目のファミリアのデザインを仕上げた後、カリフォルニアスタジオに赴任して、アメリカにおいてその担当したファミリアの市場導入を迎えたのですが、そこで感じたのはもっと強いデザインにしないと世界に通用しないということでした。競合の中で埋没してしまうということを第一印象として感じたのです。

そういう経験もありましたので、アメリカ大陸とか欧州の重厚な建築物などの環境にあっても負けない強いデザインと質の高さ、そして存在感の強さに対してもっと挑戦していかなければいけないということを常に思っていました。

■Zoom-Zoom宣言後初のクルマ

田中:ちょうどフォードモーターの影響がより強くなり、マーク・フィールズ社長のもとで「Zoom-Zoom」宣言をした最初のクルマがまさにそのアクセラでした。その辺りのプレッシャーは相当なものだったと思いますが、いかがでしたか。

鈴木:今考えるとよく受けたなと思います(笑)。当時はマツダの経営がかなり厳しい状況で、フォードの傘下の中で経営再建に取り組むということと同時に、ブランドを再構築しようとZoom-Zoom宣言をしました。クルマの作り方としてはボルボとフォードとプラットフォームを共通化、共用するということもありました。

特に大変だったのが、ライバル達と真っ向勝負をするんだというこのプログラムのタスクです。そのライバルというのは年に40万台も売っているクルマ達ですから、そのクルマと真っ向勝負をするというミッションはとてつもないものだったのです。担当したチーフデザイナーとしてそれが出来るのかというのが、周りも疑心暗鬼であったかもしれませんし、私自身も大変なプロジェクトを受けたなと思っていました。

しかし、世界に通用するデザインをしなければいけないな、とカリフォルニアスタジオでかなり思っていましたので、それに挑戦する良い機会だなという思いがあり挑戦したのです。

田中:ちょうど新人だった土田さんはまさに実際に手を動かす立場でデザインしていましたが、どう感じていましたか。

土田康剛氏(以下敬称略):私が考える初代アクセラの挑戦というのはリアだと思います。日本ではリアよりフロントを重視される傾向にありますが、世界、特にアメリカに行くとフリーウェイではお尻しか見ていません。従って世界で見てもしっかりとした存在感を初代アクセラのリアに込めました。その結果かどうかわかりませんが、アクセラファンにどこがお気に入りかと尋ねるとキュッと締まったお尻が好きというお客様が多くいらっしゃいます。これはデザイナーとして手掛けたものとして非常に嬉しいことです。

■ファミリアからアクセラへ継承したものは80点主義から100点以上主義へ

田中:ファミリアの時代は色々模索をして、そこからデザインやクルマの方向性がだんだん見えてきて世界基準のクルマを作ろうとして、そこで作ったスタンダードがある意味アクセラでした。それがここから脈々と続いていくのです。そのキモは塊感やリアなどですね。

さて今回は、「継承」という部分もこの歴史の流れで少し話したいと思います。鈴木さんがファミリアから初代アクセラに向けて脈々と継承してきたものは何だったのでしょう。

鈴木:いくつかあるのですが、ひとつはいかに80点主義から100点を超えるプロダクトにするかということでした。どうしてもコンパクトカーですし、マツダにとってはコア車種でもあるので、色々な要求もあり、また期待度も高く制約もあるという中で作っていきますと、どうしても80点主義になってしまいます。そうすると没個性にもなってしまうのですね。

世界で戦うデザインを実現しようと思うと、そういったところからどうやってブレイクスルーするか、そこに取り組んでいきました。マツダのスポーティさ、マツダらしさという個性を発揮しつつ、なおかつ5代目のファミリアがお客様のハートをつかんだような、あるいはライフスタイルを作ったような感性に訴えるようなデザインにまで高めていかなければいけない。そういう“志し”や“想い”は継承してきた部分だと思います。

■感性に訴え、人をときめかせる魁コンセプト

田中:ではアクセラから魁コンセプトに継承したものは何でしょう。

土田:感性に訴えかける、人をときめかせるというところを継承しています。魁のデザインコンセプトは色気のある塊としていて、キャラクターラインを一切使わずに、リフレクションだけで見せる生命感を表現しています。

田中:鈴木さんはこの魁をどうご覧になりますか。

鈴木:昨年の東京モーターショーで初めて見た時には、正直“やられたな”と思いました。クルマは理屈ではなく、パッと見た時の印象で決まります。その時にどれくらい訴えかけるものを感じるかです。そういう意味ではものすごく強烈なインパクトがありました。

特にボディデザインの後半のCピラーとリアデザインにかけては、想像していた以上にインパクトのあるデザインで、まさにマツダのコンパクトハッチバックの良さ、エッセンスを維持し、さらに魂動デザインの進化系を見せてもらえたと感じました。

田中:ファミリアからアクセラへの進化と、次の時代にかける先行性を上手く融合したのかなと思っています。実はこの「魁」というネーミングは、土田さんと一緒に考える中で提案したもので。次世代を表現するプロダクトとして、魁(さきがけ)という読みにもなる“魁(かい)”という名前がいいのではないかと話をしたものです。そういう次世代にかける魁や魂動デザインに対しての考え方はどういうものだったのでしょう。

土田:魁コンセプトのボディサイドを見てもらうと、シャープなキャラクターラインは使わず、リフレクションが見せる光の移ろいだけで人の心をときめかせたいという思いを込めて作っています。

これはマツダデザインが取り組んでいる次世代の方向性を示しており、日本生まれのブランドとして、日本の美意識というものを表現したいと考えています。今取り組んでいるのは「引き算の美学」と呼んでおり、要素を徹底的に研ぎ澄ませることで控えめながらも豊かな美しさを作りたいというものです。

近年自動運転であるとかカーシェアリングなどがどんどん広がっていて、人とクルマの繋がりがどうしても希薄になってきています。こんな時代だからこそ人とクルマをより感情的に繋げたい、それが魂動デザインの本質だと思っています。我々マツダデザインはこのように絶えず進化していきます。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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