【ルノー トゥインゴGT 3000km試乗】欠点のオンパレードがすべて「オッケー」になってしまう[前編]

試乗記 輸入車
ルノー トゥインゴGT。鹿児島市郊外の平川にて、桜島をバックに。
ルノー トゥインゴGT。鹿児島市郊外の平川にて、桜島をバックに。 全 21 枚 拡大写真

ルノーのAセグメントミニカー『トゥインゴGT』で横浜~鹿児島を3000kmほどツーリングする機会があったので、ドライブレポートをお届けする。

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「トゥインゴGT」とは


トゥインゴは1992年に登場したベーシックカーで、現行モデルは第3世代にあたる。現行トゥインゴは、それまでのシンプルなFWD(前輪駆動)からリアエンジンのRWD(後輪駆動)へと、クルマの成り立ちに大変更を受けて2014年に欧州デビューを果たした。ダイムラーのボトムエンド『スマート』とエンジニアリングを共用するためだが、商品企画や実際の研究開発はルノー主導で行われたという。

トゥインゴGTはそのホットバージョン。0.9リットルターボはノーマルの90psから109psへと出力向上が図られ、F1マシンから市販スポーツカーまでを幅広く手がけるファクトリー、ルノースポールによってシャシーセッティングが行われたスペシャルモデルだ。真正R.S.モデルのようにアルピーヌの系譜に連なるフランスのディエップ工場で丹念に組まれるわけではないが、ルノースポールの“これでこそグランドツーリング”という思想が盛り込まれていることに変わりはない。

変速機は5速MTと6速DCT(デュアルクラッチ自動変速機)の2種類が用意されており、今回テストドライブしたのは5速MT。ドライブルートは東京~鹿児島間の周遊で、総走行距離は3017.6km。往路は瀬戸内、復路は山陰を経由した。おおまかな道路比率は市街地2、郊外路5、高速2、山岳路1。1~3名乗車、エアコンAUTO。路面コンディションはおおむねウェット3:ドライ7で、路面に水が浮くようなヘビーウェットも頻々と出現した。
トゥインゴGTのフロントマスク。ヘッドランプ上の“まぶた”やボンネットにかかるロザンジュ(菱形エンブレム)など、ルノーのアイデンティティマスクを受け継いでいるが、一方で日産マーチの面影も。
まず、トゥインゴGTの長所と短所を5つずつ箇条書きにしてみよう。

■長所
1. クルマを転がしているだけで嬉しくなる大人のおもちゃ的性格。
2. 調節機構をほとんど持たないのに信じ難いほど疲れ知らずのシート。
3. さまざまな場面で重宝する、定点旋回のごとき小回り性能の高さ。
4. 悪路にやや弱いきらいがあるがダイレクト感抜群なステアフィール。
5. ドライブの緊張感をほぐす素晴らしい視界と車両感覚のつかみやすさ。

■短所
1. ローギヤードな変速比のためか燃費は伸びず。
2. 先進安全システムを持たない。
3. 荷室が狭く、大荷物は後席に積む必要がある。室内収納も不足。
4. タイヤサイズが一般的ではなく代替品探しには苦労しそう。
5. フラット感、高速直進性ではフィアット『500S』に比べてやや落ちる。

3000kmドライブを通じたトゥインゴの印象を一言で表現するならば、「ドライブするのが嬉しくなるクルマ」となろうか。筆者は2013年のホンダ『N-ONE』を皮切りに、自分のクルマではないメーカー貸与のクルマで東京~鹿児島ツーリングを20回ほど行っている。すべて異なるモデルで、車種も軽自動車、コンパクト、ミニバン、プレミアムDセグメント、果てはフルサイズSUVのメルセデスベンツ『GLS』までさまざま。それぞれ長所短所があり、特質もまちまち。そのなかでこのちっこいトゥインゴGTは、ドライブするのが嬉しくなるという点に関してはナンバーワンだった。

クルマのロードインプレッションでよく「運転の楽しさ」という表現が使われるが、「楽しい」という感情は「嬉しい」のごく一部でしかない。そんな当たり前の、しかし最近ちょっと感覚が麻痺気味になっていたことを、トゥインゴGTを駆ってのドライブは思い起こさせてくれた。

正体不明のエンターテインメント性


なぜトゥインゴGTでのドライブはこんなにもファンであったのか。それを言葉にするのは結構難しい。きわめて感覚的な、しかもあまり論理的でない部分も多分に含まれる、正体不明のエンターテインメント性だ。言うなれば、幼児がミニカーを「ぶっぶー」と手で走らせて延々と喜ぶような感じである。

クルマとしての機能は大したことはない。もともと欧州Aセグメントミニカーは日本の軽自動車のような位置づけ(仕様はそれより本格的だが)ということもあるが、トゥインゴGTもスペースは客室、荷室ともミニマム。エンジンは最高出力109psとベースモデルより強化されているが、車重1トンのクルマに驚異的な加速を与えるものではない。

ラージタイヤと強化サスペンションのおかげでコーナリングスピードは十分に速いが、クルマの重心が意外に高い感じで地を這うような安定感があるというわけではない。ロングラン時の実走行燃費はハイチューンエンジン搭載とはいえ、20km/リットル超えが当たり前のAセグメントの5速MTモデルとしてはかなり悪い部類だった。何より意外だったのは、GTの名を冠しているにもかかわらず、メーターパネルにはタコメーターもない。
ルノー トゥインゴGT。福岡・柳川の旧市街にて。
にもかかわらず、トゥインゴGTはここ5年くらいを振り返っても最高にファンな一台であった。そのプレジャーは利便性や性能要目とは全く別のところにあった気がする。まず何より、小回りがめちゃくちゃに利く。ノーマルよりファットなタイヤを履いているにもかかわらず取り回しの良さは感覚的には軽自動車を超え、軽トラックに迫るレベルで、三重の山中で松尾芭蕉の出生地、伊賀の旧市街の狭いクランクを通り抜けるのも思いのままだった。素敵な風景を見かけた時なども、ちょっと道幅があればスイッチバックなしでクルリとUターンできる。

リアエンジン方式による鼻先の軽さも気分を上げるポイントだった。ターンをするときにクルマを振り回す感覚がなく、スルリと回るのだ。クルマが“転回したいときはいくらでもしていいよ”と語りかけてくるかのようだ。隘路のすり抜けや寄り道の性能という点については、世界のミニカーのライバルの中でも屈指のものがあった。

乗ってみると病みつきになるこの自由自在な感覚はノーマルのトゥインゴも持ち合わせているものだが、トゥインゴGTの場合、そこに走行性能が加わる。旧型トゥインゴに用意されていた「ゴルディーニ R.S.」ほどのミニチュアGT的性能はない。背の高いディメンジョンのためか、クルマの動きは意外に腰高感がある。

が、前に185/45R17という極薄のタイヤを履いているためか、ステアリングフィールは面白いくらいにダイレクト。山岳路を爽快に走り抜けるような範囲での走行ラインのトレース性はきわめてよく、また鼻先の軽さはここでもプラスに感じられた。自転車感覚で転がせるクルマがそこそこの足とパワーも持っているということで、ただでさえ感動的であった自由自在感がさらに倍になるようなイメージを抱いた。

万人におすすめはできないが


疲れの少なさも、特筆すべきというレベルを超えて特筆すべき特徴だった。ドライブ中、トイレ休憩も挟まない文字通りの連続運転時間は最長で6時間半にも達した。散々無理してではなく、気づけばそこまで行っていたという感じであった。トゥインゴGTでのツーリングでは、距離や旅行時間はバリアにならない。心行くまで距離をのばすことができそうだった。

先に述べたように、4座のクルマとしての実用性はミニマムで、燃費もよくはない。が、トゥインゴGTを転がしていると、これらの欠点のオンパレードがすべて「オッケー」になってしまう。タコメーターがないことすら「各ギア段のリミットを覚えておけば、スピードメーターで大体の回転数がわかるからいいや」などと容認する気になる。スマホの専用アプリを使えばスマホにタコメーターを表示可能らしいが、必要性を感じず使わなかった。長距離移動時は1~2名乗車なので荷物は後席に置けばよし。

Aセグメントの分際で燃費が思いのほか伸びず、燃料代がいつもよりかさんでも「まあこの程度、トゥインゴGTでのツーリングのお楽しみ賃だと思えば安いもんだ」と思ったほどだ。筆者は何か特別な事情がないかぎり、燃費の良くないクルマでロングツーリングをすることは滅多にない。言うまでもなく燃料代がもったいないからだ。その自分がこんなにオッケーな気分になるとは…と、自分で驚いたほどであった。

トゥインゴGTがライフスタイルにぴったりハマる人というのは、多くはないだろう。筆者もこのクルマを多くの人にマイカーとしてリコメンドする気はない。が、クルマで移動すること、旅をすることが好きでたまらないという人、A地点からB地点まで移動する時間がより楽しいものであってほしいと願う人には、ぜひ一度テストドライブしてみてと申し上げたい。人生のなかでも屈指の愛車となるだけのポテンシャルは濃厚に持ち合わせている。

片道1400km以上、超ロングツーリングへの適応性は


では、要素別に見ていこう。まず触れたいのは、片道1400km以上という超ロングツーリングへの適応性。トゥインゴが属する欧州Aセグメントは、日本では軽自動車に近いボトムエンダーなのだが、トゥインゴGTのロングツーリング耐性は驚くべき高さであった。前段でもちょっと述べたが、トイレ休憩も挟まない最長連続運転区間は6時間半。岡山東部の備前からもうすぐ九州につながる関門トンネルという山口西部の長府まで一般道を夜間走行したときのことだ。

筆者はクルマでの長距離ドライブ時に1度は連続運転を試す。1、2時間ではちょっとしか感じられない、あるいは見過ごしてしまうような違和感の正体が具体的に見えてくるからだ。が、6時間半連続というのはさすがに人生初体験だった。疲れを押し、忍耐力を発揮してのことではない。身体に大したダメージや疲れの蓄積もないまま走り通せてしまったのだ。
トゥインゴGTのフロントシート。高さと背もたれ角の2つしか調節機能がないが、このシンプルなシートの出来が素晴らしく、いくらでもドライブを続けられた。
トゥインゴGTのシートはお洒落な色の表皮が使われているものの、特別にコストがかかったものではない。調節機構はヘッドレスト一体型のシートバックの角度と座面の高さ、スライドの3ウェイのみ。また、中身のウレタンもそれほど高いものを奢っているようには感じられなかった。それでも疲労や違和感がクラスを超越して極小だったのは、身体を支持するシートのフォルムが絶妙だったことと、シートフレームの剛性がきわめて高く作られていたことによるものではないかと推察された。

シートで不足しているのは肩のホールド性。わき腹のサイドサポートはしっかりしているのだが、それより上は比較的ルーズだ。が、もっけの幸いなことに、トゥインゴGTは室内幅が狭く、右肩からドアまでの距離が近い。左コーナーで高Gがかかったときは上腕をドアに預け気味にすれば身体はバッチリ安定する。右コーナーのときはセンターコンソールがニーパッドになってくれる。ただ、シフトノブの前方に設けられているゴミ箱が取り外し式で、膝が当たると外れやすかったのはちょっぴり残念だった。ニーパッド代わりになるよう、ラッチか何かで固定できる方式だったらなおいいのだが。

ペダル類の配置は、左ハンドル設計前提でコンパクトなボディを詰め詰めにパッケージングしたものを右ハンドル化したためか、えらくタイトで、しかもオフセットがきつい。本来なら足の姿勢が不自然になって疲れがたまっても不思議ではない。ところがトゥインゴGTの場合、足元があまりにタイトすぎてスロットルペダルとタイヤハウスの側面が接近しているため、スロットルを踏みながら足先やすねの重さの一部をタイヤハウスにかける格好になり、変なポジションであるにもかかわらず疲れは実に少なかった。

こうしたクルマへの体の収まりの良さやフィット感が、トゥインゴGTのロングドライブ耐性の高さの原動力のようだった。過去、東京~鹿児島ツーリングで疲れの少なかったベーシックカーとして鮮明に記憶に残るのは、軽自動車なのにDセグメントのような2層ウレタン構造のシートを持つホンダN-ONEだが、トゥインゴGTはさらに上を行っていた。

シャシー&タイヤの性能


次に走行性能を担保するシャシーおよびボディ性能。リアエンジン車というと機敏だがトリッキーな動きをするというイメージを持たれる傾向があるが、トゥインゴGTの場合、挙動は至ってナチュラルだった。とくにワインディングロードを爽快に走るくらいの範囲であればほぼオンザレールな走行ラインのトレース性で、狙い通りの走りを楽しめる。

感心するのはロールバランスの良さ。ドライブ中、九州山地、秋吉台、丹波高地、鈴鹿峠、箱根峠など、山岳路を頻々とを通過したが、前にエンジンがないためか、ワインディングロードにおいてステアリングを切り込んだときの鼻先の軽さはちょっと感動モノ。それでいてフロント荷重が不足するということはなく、前サスペンションがしっかりストロークして綺麗な対角線ロールを保ちながらコーナーをくりっとクリアするのだ。

ちなみにクリッピングポイントあたりでスロットルを踏んでやると、アウト側のリアサスがすっと沈み込んで少しスクワット的な姿勢になる。そういえばこのクルマは後輪駆動だったなと意識させられる瞬間だ。ただし、この良さは路面のギャップ、アンジュレーション(うねり)などが小さめの道におけるもので、うねりが大きくなるとサスペンションストロークの小ささがネガティブに作用しはじめる。もっとも、そんなラリーチックな道はゆっくり走ればいいだけのことだが。

タイヤはコーナリング性能、とりわけウェットグリップの高さと耐摩耗性の両立を看板にするヨコハマのメイドインジャパンモデル『BluEarth A』。最大350kPaの耐圧性を持つこのタイヤを200kPaという低圧で使うことで、舗装面の荒れにもしっとりと張り付くようなロードホールディング感を持たせていた。
前185/45R17タイヤ。内圧210mPaという今どき珍しい低圧設定で、路面への張り付き感は抜群に良かった。
ただ、このタイヤにはちょっと悩ましいところもある。後ろの205/40R17は比較的ありふれたサイズなのだが、前の185/45R17がトゥインゴGTくらいしか装着例がないサイズで、アフターマーケットのタイヤが合わないのだ。純正以外のタイヤを使いたい場合は直径が8ミリほど増える195/45R17、直径を合わせるならフロントホイールをインチダウンして195/50R16あたりを選ぶしかない。

いずれもタイヤハウスのクリアランスには余裕があるため十分はまるのだが、トゥインゴGTはドライ、ウェット問わずコーナリング時にフロントが少し逃げそうになったときにちょうどリアが外に出気味になるという絶妙のセッティングがなされていたので、その味を重視するなら他のタイヤはあきらめ、ちょっと高価だが純正を使ったほうが満足度は高いかもしれない。

シャシーからの入力を受け止めるボディもしっかりしていた。ドライブ前は、小型のリアエンジンボディというとさすがに少しヤワいのではないかなどと勝手に想像していた。が、実際にはハードなコーナリングで相当大きな入力がかかってもがっちりとしたシェル感が失われることはなかった。ミニカーにおけるカッチリボディの代表格、フォルクスワーゲン『up!』と比べても何ら遜色がないくらいのボディシェルであるように感じられた。

このシャシーチューンにより、シティライドから峠道まで、さまざまなシチュエーションで気分の良いドライブを味わうことができた。相対的に苦手なのは高速道路のクルーズで、直進安定性やアンジュレーション(路面のうねり)の吸収性などクルーズ感を高める項目でup!、フィアット『500S』などのライバルに後れを取っていた。ただ、路面のざらつきなど小さなピッチのハーシュネスカットは悪くなく、そこそこ滑らかではある。

先進安全システムは「なし」


次はクルマの技術が進歩した今日、長距離ドライブに欠かせないアイテムとなりつつあるのが先進安全システムについて。世はステレオカメラ、ミリ派レーダー、路車間通信などをふんだんに使ったシステムが百花繚乱の様相を呈しているが、トゥインゴGTはそれらをまったく欠いている。欧州車らしくクルーズコントロールはついているがアダプティブ(前車追従型)ではもちろんないし、ヘッドランプもアクティブハイビームではない。

日本では軽自動車ですら、ホンダ『N-BOX』の「ホンダセンシング」を頂点に、他のモデルも何らかの外部環境監視システムを持っているのが普通である。それがないということは、意図せぬ居眠りや不注意による車線逸脱、リスクの見落としなどの代償はすべて自分がかぶるということだ。

もちろんこれは純粋にネガティブファクターなのだが、今回の3000kmドライブをやってみて、つい最近まではアダプティブクルーズコントロールすら珍しかったのだったということが思い出された。

夜道はこまめにライトのハイ/ローを切り替え、とくに田舎道では路肩や動物の飛び出しに注意しつつ…と、安全システムつきのモデルの2倍注意を払うことで、ある程度カバーはできる。トゥインゴGTで救われているのは運転に夢中にさせるフィールを持ち合わせているため、集中力の途切れが少ないことだろう。

後編ではエンジンパフォーマンス、燃費、ユーティリティなどについて触れる。
トゥインゴGT。雨上がりの兵庫-岡山県境にて。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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