メルセデスベンツ Aクラス 新型に採用…次世代コックピットへの口火を切った『MBUX』をドイツから徹底レポート

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メルセデスベンツ Aクラス 新型に採用…次世代コックピットへの口火を切った『MBUX』をドイツから徹底レポート
メルセデスベンツ Aクラス 新型に採用…次世代コックピットへの口火を切った『MBUX』をドイツから徹底レポート 全 6 枚 拡大写真

日本未上陸のメルセデスベンツ新型『Aクラス』に、現地ドイツで3日間試乗する機会を得た。ここでは、世界的に注目されているメルセデスベンツの新世代コックピット「MBUX」について、徹底的にレポートしたい。

MBUXとは何か


本論に入る前に、まずMBUXとは何であるかを紹介しておきたい。平たく言えば、メルセデスベンツの新世代インフォテインメントシステムということになるが、ひとことで“新世代”と片付けてしまうには、見た目のインパクトも数多くの機能も、他のものとは違いすぎる。MBUX、つまり Mercedes-Benz User eXperienceの名前の通り、まるで新しいユーザー体験を実現しているのだ。

このMBUXの完成度と新しいドライブ体験にいちばん驚いているのは、実は我々消費者ではない。世界中の自動車メーカーのエンジニアが驚き、同時に焦っているのだ。

しかもメルセデスは、この革新的なMBUXを、高級車の『Sクラス』ではなく、もっとも大衆的なAクラスでデビューさせた。これは彼らの全ラインナップにMBUXを展開していくという宣言である。

このMBUXを完成させるために、メルセデスは数年前にはすでにこのコンセプトを描き、準備を進めてきたに違いない。それほどの多機能ぶりと完成度の高さだ。そしてその慧眼ぶりをいま、世界に見せつけることになった。結果としてMBUXは、「世界中の自動車メーカーからベンチマーキングされる存在となった」(メルセデスベンツ Mercedes Me 広報担当 ゲオルグ・ワルタルド氏)。
撮影 佐藤耕一

次世代コックピットに向けたマイルストーンになる


新型Aクラスに乗り込んですぐに分かるように、MBUXは、メーターとディスプレイが分かれていない。見た目も、機能的にも、だ。言い換えれば、メーターとディスプレイが融合して一つになり、ドライバーズシートのHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)を再定義している。

自動運転やミラーレス化が進むなか、コックピットの多機能化と操作体系、増えるディスプレイという要素を根本的に再構成し「次世代コックピット」を完成させる必要がある、というのは自動車業界のコンセンサスである。

その点でMBUXは、次世代コックピットに向けた一歩を明らかに踏み出しているのだ。

MBUXの機能


メーターとディスプレイを統合したMBUXの機能を、表示系と操作系、目新しい新機能に分けて整理してみよう。

表示系


ドライバー正面には、デフォルトでは丸型のスピードメーターとタコメーター、そしてその中央には、様々な情報を切り替えて表示できるスペースがある。トリップメーターやオドメーターといった標準的な機能はもちろん、ナビのガイダンス情報や、オーディオソース、ADAS機能の動作表示などから選択して表示することができる。

ここまでは普通のメーターとあまり変わらないが、この先が新しい。スピードメーターとタコメーターの表示を、ナビ地図やトリップ情報、燃費情報など自由に変更することができ、あるいはメーターの丸型の枠を消して、全画面を使ってそれらの表示に切り替えることもできるのだ。カスタマイズ性が非常に高く、ユーザーの思ったように表示することができる。

いっぽうのディスプレイは、速度や回転数などは表示されないものの、ナビ、オーディオの機能に加え、車内電装品の設定、シートポジションなどのパーソナライズ設定、そしてCarPlay/AndroidAuto表示、接続スマートフォン一括管理、ドライバーごとに利用するメニューをAIがリコメンドする画面などを表示、操作できる。

MBUXでは、これだけ多くの機能をスマートフォン的なUI構成にまとめることで、ユーザーを戸惑わせることなく、うまく実装している。つまり、階層を浅くし、機能ごとのアイコンをアプリのように並べて、やりたいことに直接アクセスできるようにしている。

また新型Aクラスにはヘッドアップディスプレイも装備される。こちらもエントリーモデル向けとは思えないほど表示項目が充実しており、スピードやナビの矢印ガイダンスはもちろん、ACC(アダプティブクルーズコントロール)情報などがあり、かつそれも好みに応じてカスタマイズ可能だ。

操作系


これだけ多様な情報を思い通りにカスタマイズできる表示系を持っているため、操作系もかなり柔軟で、練られたものになっている。真っ先に触れるステアリング左右に設置されたタッチパッドは、指先の微妙なスクロール操作を感知し、快適な操作を実現している。

またセンターコンソールにはタッチパッドが用意されている。これは助手席から手が届きやすく、操作するときにとても役に立った。スクロール感度もよく、ノートパソコンのタッチパッドのように快適に動作する。

そして注目なのがボイスコントロールだろう。音声認識(音を文字に変換する)と、自然言語解析(文字から意図を読み取る)を、クラウドのパワフルなリソースでぶん回し、高い認識率と素早く的確な返答を実現している。

今回は英語で試したため、つたない英語で苦労する場面はあったが、これはもとより母国語で話す人にとっては関係のないことであり、上手く発音できないストレスを差し引けば、かなり便利に使えるであろうことは容易に想像できた。対話の様子をぜひ動画でご確認いただきたい。


カーシェア対応のバーチャルキー


そのほかにもMBUXには目新しいフィーチャーが投入されている。ひとつめは、ARガイダンス機能だ。これは、車載カメラで撮影した車両前方の映像に、ルートガイダンスの矢印を重畳表示させ、あたかも前方の景色に自分のルートを示す看板が立っているように見せるものだ。百聞は一見に如かず。こちらも動画をご確認いただきたい。

そして個人的にイチオシの機能が、スマートフォンによるバーチャルキーシステムだ。NFCとBluetoothを利用して、リアルなキーが無くても、認証されたスマートフォンだけでロックの開錠、エンジン始動ができるというもの。

これは単にスマートフォンで鍵の代わりをするためだけのものではなく、個人間カーシェアリングでの利用を見込んだものだ。個人間カーシェアリングとは、個人所有のクルマを、必要な人に一日単位で貸し出すサービスで、トヨタやソフトバンクが出資しているアメリカの「Getaround」や、日本国内でもDeNAが「Anyca」のブランドでサービスを展開している。

Anycaに例を取れば、「マイカーを登録しているユーザーは、月2万~3万円を得ている人も多い」(DeNA執行役員 オートモーティブ事業本部長 中島宏氏談)とのことで、少なからぬ収入になっているようだが、この個人間カーシェアリングのひとつのハードルが、リアルな鍵を対面で受け渡す必要があるという手間だ。事実、Getaroundはわざわざ後付けデバイスを装着してまでバーチャルキーを実現し、利便性を向上させている。

その点新型Aクラスはメーカー純正のバーチャルキーが搭載されており、「Mercedes Me」アプリで繋がっている知人に貸し出せるようになっているのだ。このように新型Aクラスは、ユーザーの新たな利用シーンを捉え、独自の付加価値にしている。

まとめ:次世代コックピットへの第一歩


なぜ次世代コックピットが必然なのかと言えば、来たるミラーレス車においては、ルームミラー、サイドミラーに代わるディスプレイが必須であるし、自動運転レベル3においては、求められるのは運転のための情報ではない。

言い方を変えれば、HMIの要件定義が大きく変わるのに、HMI機器はこれまでと同じで良い、という理由がない。

だがいっぽうで自動車メーカーにとっては、メーターはこの会社から、ナビはこの会社から、というように、機器をモジュールごと買ってきて組み立てるという縦割りの調達が常識であり、部品間の境界を無くして根本的にコックピットを再構成しようとする際のハードルになっていた。

ゆえに、ここまでのHMIの再定義を成し遂げたメルセデスは、次世代コックピットに向けた開発競争で他を一歩リードし、ベンチマークされることになったのだ。

今後自動車メーカーは、次世代コックピットのコンセプトを企画し、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドをひと揃え調達してきっちりインプリメンテーションする能力が求められるし、部品メーカーは、次世代コックピットをワンストップで企画・提案できるように守備範囲を広げていくことを追求することになる。

このところ、欧米の部品メーカーの合従連合が進んでいるのはそういった背景であり、国内においても、パナソニックが電子ミラー大手のフィコサを買収したのはまさしく、次世代コックピットをワンストップで提案することのできるメガサプライヤーを目指しているからに他ならない。

メルセデスが口火を切った次世代コックピットへの変革に対して、他のメーカーはいつキャッチアップするのか。あるいはMBUXとは異なるコンセプトを提案するのか。いずれにせよ、メーターとセンターディスプレイが並んだお決まりのコックピットは、MBUX以降大きく変化していくことになりそうだ。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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