「軽自動車では助からない」は本当か?…ホンダがオフセット衝突実験を公開[動画]

ホンダの衝突実験
ホンダの衝突実験全 13 枚

ファーストカーとして軽自動車を選ぶ層が広がっているという。車内の広さ、ユーティリティ、衝突被害軽減ブレーキや誤発進防止装置といったADAS機能も充実し、スペックだけでは普通車と区別がつかないくらいだ。

【画像全13枚】

その一方で、軽自動車は、そのサイズなどから衝突時にキャビンの生存空間が確保しにくい。また、多くの場合、自分より大きく重い車両との衝突になり、事故を考えると軽自動車は乗りたくないという人も存在する。

安全性能も進化する軽自動車

車同士の衝突という物理的な現象に対しては、ボディ構造やエアバッグなどの衝突安全機能を強化しても限界がある。相対的に軽い方が大きいダメージを受ける。普通自動車や大型車との比較で、軽自動車は危険というのも間違いではない。しかし、近年のJNCAP自動車アセスメントでも主だった軽自動車が4つ星を獲得するようになり、メーカーの安全対策は着実に進んでいるのも事実。

2017年には、ホンダの『N-BOX』が総合評価で5つ星(184.1点)を獲得している。その安全性を広く認知してもらうべく、ホンダが、報道陣向けにN-BOXの衝突実験を公開した。

場所は栃木県にあるホンダの研究所内に建設された屋内型全方位衝突実験施設。公開された実験はN-BOXと『インサイト』のラップ率50%の車両どうしのオフセット衝突。それぞれの50km/hの速度でぶつかる(相対速度100km/h)。N-BOXとインサイトでは重量比が1:1.5となり、衝突時の衝撃は当然N-BOXのほうが強く受けることになる。N-BOXの衝突時のスピードは50km/hだが、受ける衝撃は60km/h以上の衝突に匹敵するという。

N-BOXは半回転するもドア開閉は可能

報道陣は衝突地点から離れた安全な場所から実験を見学した。実験開始のアナウンスが入ると、270mほどある直線区間をロープで引っ張られた車両がコース中央に進んでくる。衝突はあっという間だが、ものすごい音ともに部品が回りに飛び散る。車体の軽いN-BOXはエンジンルームの運転席側が完全につぶれた状態で、半回転して止まった。助手席側はフェンダー部分がかろうじて残っているが、エンジンルームの潰れ方は運転席側とあまり変わらない。

しかし、Aピラーより後方のドア部分やBピラーは多少の変形が見られるくらいでダメージは少ない。フェンダー部分が食い込んでいるが、ドアの開閉に問題はなかった。そして、運転席ダミーの足元を見ると、ひざやすねの前に手のひらが入るくらいの空間が確保されていた。ダッシュボードなどが足にダメージを与えたり、足が挟まって抜けないという事態が避けられるということだ。

現在、軽を含む多くの車両は、エンジンなどをマウントごと下に脱落させ、衝撃を吸収しつつ、キャビンをつぶさないように作られている。N-BOXも同様な設計になっているが、それだけで軽自動車のアセスメントで5つ星はとれない。ホンダによれば、コンパティビリティボディは、左右のサイドメンバーの前端をクロスメンバーのようにつなぐことで、1本のメンバーだけで衝撃を受け止めないようにしている。オフセット衝突で、片側のサイドメンバーだけで相手車両の衝撃エネルギーを全部吸収させず、分散させる。

さらに、タイヤハウス部分にもフレーム様な構造体が追加されており、これも衝突時のエネルギーを分散させる役目を担っている。

ホンダが歩行者型のダミーを開発した理由

この日、もうひとつ紹介されたのがさまざまなバリエーションのダミー人形だ。衝突実験ではお馴染みの存在だが、ホンダでは、歩行者事故の死傷者を減らすため、歩行者のダミー人形も独自に開発した。

対歩行者事故では、ボンネット上で展開する歩行者向けエアバッグや衝撃でリフトアップするボンネットなどが実用化されている。JNCAP自動車アセスメントでも、対歩行者事故の評価として、人間の頭部に相当する玉をボンネットやフロントガラスなどに当てて人体へのダメージを計測している。

しかし、実際の事故では、まずバンパーなどに歩行者の足があたり、その後頭部がボンネットやフロントガラスに激突する。このような事故で、人間(ダミー)がどのようなダメージを受けるのかはわからない。やはり人の形をしたダミーを使った方が、全体的な事故の状況と、歩行者保護性能が把握しやすい。そのため、歩行者ダミーは、足や頭部の損傷や応力を詳しく分析するため、骨格素材や重さなど細部にこだわっている。骨にかかるねじれなども計測するため、通常の乗員ダミーよりセンサーチャネルも多くなっている。

ホンダが、軽自動車でも高い衝突安全性を実現し、歩行者ダミーのような研究開発を行うのは、ひとつはアセスメントの評価基準とはちがった、独自の安全基準を立てているからだ。アセスメントの評価項目に特化した安全性ではなく、実社会での安全性を高めようとしている。

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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