三菱ふそう、EV化に向けた動きや自動運転化を議論するシンポジウムを開催

三菱ふそうトラック・バスが開催した自動運転化を議論するシンポジウム
三菱ふそうトラック・バスが開催した自動運転化を議論するシンポジウム全 14 枚

三菱ふそうトラック・バスは9月3日、自動運転技術導入に関わる関係省庁や国の自動走行システム推進委員会委員を招き、「大型トラックにおける自動運転技術の現在と将来」をテーマに運輸・物流業界をはじめとする産業界への効果などについてシンポジウムを開催した。

自動車業界は大きく3つのメガトレンド(電動化/コネクティビティ/自動走行)の中で動き出している

三菱ふそうトラック・バスはダイムラーグループの商用車部門として、メルセデス・ベンツトラック(ドイツ)、ならびにダイムラートラック・ノースアメリカ(北米)と共同で、大型トラックにおける自動運転技術の開発を進めてきた。すでに日本以外ではレベル2(運転支援機能)技術が実用化されているが、日本国内でもこの秋、日本の大型トラックとしては初めてレベル2技術を搭載した「三菱ふそう スーパーグレート」の発売を予定にしている。この市場導入により、特に長距離ドライバーの疲労軽減に大きく寄与すると期待されているところだ。

シンポジウムに先立ち、同社代表取締役兼CEOのハートムット・シック氏が登壇してトラックを取り巻く状況について、「今、3つのメガトレンド(電動化/コネクティビティ/自動走行)が商用車の常識を変えつつある。弊社は世界最大のトラックメーカーであり、これまでにも自動走行技術の分野に対して590億円にも及ぶ投資を行ってきた。しかし、自動走行を実現するにはユーザーと政府、そしてメーカー同士のパートナーシップが欠かせない。本日はウイーン条約の制約を乗り越え、自動車業界の今後の可能性について議論してもらいたい」と挨拶した。

続いて経済産業省製造産業局自動車課の河野太志課長が登壇し、自動車を取り巻く技術革新が進む中での経産省の取り組みについて語った。

それによれば経産省は日本が電動化で世界をリードしていくというメッセージを掲げている。「2050年までの長期ゴールとして、世界で普及する日本クルマは温室効果8割削減するために100%の電動化を図っていく。このメッセージは世界に向けて発信し、電動化に関心が高いアジア諸国とは2国間の政策対話を開始して普及に向けた知見の共有を図る。また、国土交通省と一緒に次期燃費基準も設定した」(河野氏)という。

一方、直近の目標として河野氏によれば「2030年に32%の燃費改善を求め、これはほぼヨーロッパと同等。新車販売についてもEVとPHVで約20%の構成比になることを目標とするが、アメリカや中国のようなクレジットは採用しない」という。

他にもCACE全体がもたらす、将来のモビリティのあり方として二つの方向性を打ち出した。「一つは単に技術の実装にとどまらず、そのメリットを世の中に訴え、MaaSを含む新しいモビリティサービスの商用化に向けて支援していく。二つめは電動車の蓄電/給電に対する考え方をしっかりとしたものに造り込むということ。そのために電力グリッドも変えていく必要が出てくるが、自動車メーカーと電力会社が一緒になって社会全体で普及促進を考える協議会を作るべきとのメッセージを出している」(河野氏)という。

さらに「これまで経産省の取り組みは自家用車などパッセンジャーカーが中心だった。今後は大型車など商用車も含むIT武装、電動化、自動化がどんな形で社会が受容できるのか、あるいはビジネスとして形になるのかを議論し、CACE時代に日本が世界をリードできるような形に持って行きたい」とした。

日本が世界をリードする形で自動運転を取り巻く環境作りに関わる

そして、ここからシンポジウムへと場は切り替わった。モデレーターはモータージャーナリストの清水和夫氏が務め、パネリストとしては科学技術振興機構上席フェロー・有本建男氏、国土交通省で自動運転戦略官を務める平澤崇裕氏、そしてダイムラー・トラック・アジア副社長で開発本部長を務めるアイドガン・チャクマズ氏、三菱ふそうトラック・バス 開発本部エンタイヤビークル開発統括部長である恩田 実氏の4名が登壇した。

清水氏は、2019年1月に開催されたCESにおいて、ダイムラーUSAトラックがレベル2での公道試験走行を行なったことを報告。そこでは事故防止に大きな効果があるとしてLane Departure Warning(LDW:車線逸脱警告)や自動ブレーキなどの装備を公開。清水氏は実際に試乗し、その感想を述べた。「大型車は車体が大きく、車線内を走行するためにも乗用車よりも正確なトレースが必要とされた」という。一方、アメリカ国内のトラックと乗用車が絡む事故で11万6000人がケガをし、4000人が死亡しているとの現状が報告され、そこでLDWを搭載すれば25%ほど事故を減らす効果があり、ドライバーのケガも20%ほど減らすことができる。また、自動ブレーキの搭載で衝突の事故が71%ほど、重傷に対しては78%ほど、死亡は82%ほど減らすことができるとの試算がある。大型車と乗用車が衝突すれば乗用車はひとたまりもない。議論はこれを引きにスタートした。

これを受けて口火を切ったのは平澤崇裕氏。自動運転を取り巻く日本の現状について説明した。それによると、「高齢者の事故が増加していることで、衝突被害軽減ブレーキの装着を義務化することを検討中。2019年中にもその義務化時期を決定する。大型車については車重の重さが被害を大きくしているとの観点から2014年11月から順次衝突被害軽減ブレーキを義務付けている」と説明した。

また、自動車はグローバルな商品であることから、「国際的には国連で『自動車基準調和世界フォーラム(WP29)』が設置され、自動運転について相互に承認する制度の導入に向けた基準を検討しているところ。国連ではほかにも『道路交通安全作業部会(WP1)』という会議で、安全性に対する国際的な議論を進めている最中だ」という。対する日本の状況としては、「自動運転車の総合的な安全確保の対策を講じるため、『道路運送車両法の改正案』が2019年5月に成立。道路交通法を改正して自動運転レベル3の車両におけるドライバーのあり方などを取り決めている」とした。

この動きに政府の各省は連携の動きを見せているとも明かした。その成果が「2019年10月に東京・お台場国内で開催される大規模実証実験」だ。有本氏によれば、「各メーカーの自動運転車100台程度が集まり、一斉に実験走行してデータを集める計画で、これは世界でも例がない規模だ」という。

ただ、有本氏はこうしたイベントを通じた自動運転実現へ向けた動きについて「自動運転車を試験導入するにあたっては拙速であってはいけない。多くの人が生活に関わることだからこそ、政治も産業界も市民も全体が調和して動くべき。社会の受容性という観点でしっかり取り組まないと、小さなトラブルが発生しただけで実験が滞ってしまいかねない」と釘を刺す。特に「大型トラックなど商用車は物流という立ち位置で人々の生活に深く関わっており、急激にやってはいけない。金と仕組みを考えながらビジョンを大きく持って進めていく時代となった」と語った。

ダイムラーとして、大型車は「レベル3」をスキップして「レベル4」へ

大型車を世に送り出している当ののダイムラー・トラックはこれをどう考えているのか。ダイムラー・トラック・アジア副社長のアイドガン・チャクマズ氏がこれに答えた。ここで注目すべきは、ダイムラーグループでは大型車に限ってレベル3はスキップし、レベル4に向けて開発を進めているということだ。

その理由としてチャクマズ氏は、「レベル3はいわばレベル4の開発と投資コストはほぼ同じだから」という。言い換えれば「レベル3は車両と人間をつなぐインターフェイスが大部分で、これを開発するだけでも相当な労力とコストがかかる」というのだ。商用車としてのユーザーが多い大型トラックでは、「このコストをユーザーに負担してもらうことになるわけで、商用車のビジネスとしてはユーザーの確実な需要を第一に考えるべき」(チャクマズ氏)というわけだ。

チャクマズ氏は「米国ではレベル4が実現しやすい」とも語る。その要因として日本と米国と比較して物流システムが違うことにも言及した。「米国では高速道路と物流拠点が近い位置にあり、ハブからハブへの輸送ルートが複雑ではなく、高速道路だけでほぼ完結する状態にある」ことが背景にあるとした。

ダイムラーと連携して自動運転車の開発に取り組む三菱ふそうトラック・バスではどのように考えているのか。三菱ふそうトラック・バス 開発本部の恩田実氏によると「ハードウェアの基本となるソフトウェアはグローバルで開発しているが、日本、欧州、米国で走行環境は異なる。開発ではいずれの地域でもマッチするような作り込みをしている。たとえば、日本では高速道路の車線幅が3.2mと狭く、その一方で大型トラックの幅は2.5mもある。操舵を制御する中で少しのブレも許されない。加えて路面表示も複雑でチューニングはかなり厳しい状況にある」のだという。

一般道では特殊なケースがさらに増えるとも恩田氏。「海外ではほとんど見られない歩道橋が多数あり、電線や電柱も普通にある。電線が道路を横断していれば、それが誤認識の要因になる。こうした状況の下、500万kmを超える走行映像を介してダイムラーの開発陣と共にどう判定するかロジックを組み上げ、複雑な環境にも耐えられるソフトウェアの開発を目指している」とした。

《会田肇》

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