【ロータス エヴァイヤ】チャップマンのレガシィを大切に…デザイナー[インタビュー]

ロータスカーズ、リードデザイナーのバーニー・ハット氏
ロータスカーズ、リードデザイナーのバーニー・ハット氏全 18 枚
ロータスのフル電動ハイパーカー、『エヴァイヤ』が日本でも公開された。そのボディは空力を意識し、風が削り取ったようにデザインされているという。そこで同社リードデザイナーにエヴァイヤのデザインの特徴などについて話を聞いた。

◆空力とヘリテージ

エヴァイヤは、「息を呑むような美しさと時代に即した形。そして唯一無二のデザインフィーチャーがある。また、英国のロータス流のプレステージを取り入れたものであり、すぐにロータスとわかる形を目指した」と話し始めたのはロータスカーズ、リードデザイナーのバーニー・ハット氏だ。

このクルマをデザインする上でインスパイアを受けたものについてハット氏は、「ロータスというブランドのキャラクターだ。それは空気力学的な効率、あるいは操縦することのダイナミックさ、そして車両の軽さを指す。我々のデザインヘリテージ、ロードカーやスポーツカーなどからももちろんインスパイアを受けている」という。

◆ポロシティ、多孔性が特徴

もう少し詳細を語ってもらおう。「エクステリアは低くワイドな車体で、引き締まったボディを備えている。キャビンは4つのホイールアーチの間にうまく収まった形だ。このキャビンの位置と形を作ったことによって低重心なイメージを与えることにもなり、コーナーをどんどん攻めたくなるようなデザインに感じるだろう」

また、「4つのホイールアーチはちょうどスポーツ選手の足腰のように筋肉質な形になっている。これ自体がこのクルマのスポーツ性やパワーを伝えるイメージになり、同時に走行する時にクルマの見切りの良さをドライバーに提供している」とも話す。

このクルマのもうひとつの特徴は空気力学だ。「ポロシティ、多孔性がこのクルマのキーフィーチャーだ。これによってボディを流れる空気、それと同時にクルマの中を流れる空気もコントロールしている」と説明。同時に、「ソフトでなめらかなボディ形状にはっきりとしたキャラクターラインが作り出されており、これはロータスの特徴的なレースカーからインスパイアされた」と述べる。

空気の流れの例としてフロント周りでは、フロント左右の吸気口から空気が入りフロントタイヤの後ろに空気が抜け、ボディサイドに空気が流れることや、ボンネットのインテークから空気が入りウィンドスクリーンの前に空気が流れるようデザインされていることが挙げられた。

ドアミラーに関してもレクサス『ES』で採用されたようなデジタルアウターミラーが装着されるが、エヴァイヤの場合には、格納式でボディから出てくるタイプだ。これにより、「Aピラーの付け根部分の気流がうまく流れるようになった」とのこと。

リアビューではリアの両側に空いた穴が特徴的だ。これは「ベンチュリ形状になっており、その穴の出口を縁取るようにリアライトが取り付けられている。またDRSフラップ、空気抵抗減少システムのフラップや、リアウイングも取り付けられた。左右のトンネル部分は中に照明が付けられており明るく照らされるようになっている」と説明した。

◆2つのキャラクターのバランスを取ったインテイリア

インテリアについてハット氏は、「ロータスのレーシングカーなどサーキットにフォーカスしたキャラクターと、純粋なラグジュアリーさの両方のバランスを取ったものだ」とし、「インストルメントパネルは外観と同じように多孔性で作られた。そうすることで軽量に見え、キャビンのスペースもより確保できているようなイメージが作られている。またクラシックなレーシングカーの雰囲気や、現代のカーボンフレーム製自転車などのイメージも併せ持っている」と述べる。

このインテリアは「ロータス的な特徴も備えている」とハット氏。それはひとつの部品で2つの役割を果たさせるということだ。例えば、「ステアリングホイールもステアリングの機能だけではなく、スイッチ類を配し、それらの機能も備えているからだ」とのことだ。

室内レイアウトは、シート、ペダル、ステアリングのポジションをドライバーに最適になるようにじっくりとセットアップされた。センターコンソールは空間に浮いたような形になっており、表面は六角形のでこぼことした形だ。それにより、「ブラインドタッチができるデザインになっている」という。

ハット氏は、「内装全体は非常に高品質なもので、ソフトなレザーやアルカンターラを使いながら、メタルやカーボンファイバーのフィニッシャーをうまく融合させた。またドアの内側にはリアカメラのモニターが仕込まれている。ドアを開けるとドアの内側には荷物を入れられるラゲッジポケットが設えられている」と説明した。

◆EVだから多孔性ができた

ここからはハット氏自身のことを含めていろいろ伺ってみよう。

----:今回発表されたエヴァイヤはEVハイパーカーです。そういったクルマがロータスで開発されると聞いた時、どのように思いましたか。

ハット:わくわくしました。そしてデザインとしてはファンとファンクションのつながりが重要だと思っていました。

----:デザイン的にEVは何らかの影響はありましたか。

ハット: EVだから対応できるところはたくさんあります。例えば多孔性です。EVだからこそ大きなインテークをフロントに開けることができたのです。

----:さて、ロータスカーズのイメージはどういうものですか。

ハット:あまり派手なメーカーではなく、落ち着いたメーカーですね。そこが好きです。他のブランドと違ってこのクルマは高いとか、見せびらかすようなことはなく、ロータスを買っているお客様達はドライビングが好きで、そこが大事だと思っています。ロータスのミニマリズム、シンプルなところもとても重要ですね。

----:ロータスのデザイナーにとって最も重要なことは何でしょう。

ハット:チャップマンのレガシィを大事にしないといけません。それは形だけではなく、ファンクションが大事です。例えばひとつのものが2つ以上の仕事を持っているようなことです。これはコーリン・チャップマンの昔からのアイディアなので、そういうところはキープしていかなければいけません。またお客様からはエモーションを表現してほしいという要望もありますのでそこも重要です。

----:そうすると単に綺麗なデザインではなく、複数の機能も伴ったデザインに仕上げていかなければいけないということですね。

ハット:その通りです。

----:先ほどロータスは落ち着いて機能に特化したデザインをまとっているということでしたが、このエヴァイヤは空力を前面に出して、今までのロータスとは違うイメージをまとっているように感じます。なぜそのような方向にデザインしたのですか。

ハット:エヴァイヤは全幅がありますので強さを感じさせるようにしたかったのがひとつあります。しかし無駄なものは一切ありません。見えるものは全て機能を持っているのです。それがロータスにとって重要なのです。

----:ハットさんにとってこのクルマの一番好きな角度はどこですか。

ハット:皆リア周りのデザインといいますが、私は横から見た時にフロントのホイールのところから入ってくる空気の流れや、面の硬さや柔らかさなどが感じられるサイドビューがとても好きです。空気によって削られているイメージを重要視したデザインなのです。自然界では川が谷を作っているように。そういう形を見ながらリアのトンネルなどの形を決めていきました。自然なカーブはとても大事なのです。ランチア・ストラトス

◆ストラトスに影響されて

----:ここからは少しハットさんご自身について教えてください。小さいの頃のハットさんはどういう子供だったのですか。

ハット:LEGOでたくさん遊んでいました。働くクルマがとても好きで、なぜそれが動くのか、その中身などにすごく興味がありました。子供の頃にはデザインや見た目などあまり関係なかったのです。

----:クルマは好きだったのですか。

ハット:はい。働くクルマ、トラクターやショベルカーなどが大好きでした。

----:そこからカーデザイナーになろうと思ったのはなぜですか。

ハット:もう少し大人になってクルマの中身ではなく、デザインやマテリアルなどに興味が出てきたからです。そのきっかけは、アリタリアカラーのランチア『ストラトス』を真上から撮った写真を見た時です。フロントガラスのカーブの美しさを見てすごいなと思ったのがきっかけでした。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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