JR四国、MaaSと新幹線が必要なわけ…四国旅客鉄道株式会社 取締役総合企画本部 副本部長 長戸正二氏[インタビュー]

JR四国、MaaSと新幹線が必要なわけ…四国旅客鉄道株式会社 取締役総合企画本部 副本部長 長戸正二氏[インタビュー]
JR四国、MaaSと新幹線が必要なわけ…四国旅客鉄道株式会社 取締役総合企画本部 副本部長 長戸正二氏[インタビュー]全 1 枚

MaaSがどこよりも必要な地域は四国かもしれない。JR四国は厳しい現状を打開するためにMaaSと新幹線に力を入れている。四国旅客鉄道株式会社 取締役総合企画本部 副本部長の長戸正二氏にその理由を聞いた。

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厳しい経営状況

---;JR四国の課題を教えてください。

長戸氏;JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州は完全民営化しており、JR北海道、JR四国、JR貨物は国が株主になっています。金融資産(経営安定基金2,082憶円)の運用により得られる収益で損失を補填する財務スキームでJR四国は発足しました。当初の経営安定基金の想定利回りは7.3%です。今は7.3%も利回りが付きませんので減益となっています。

営業キロは855.2km(2019年4月現在)ですが、電化率は27.5%、複線化率は5.9%です。また高速道路の整備がここ30年で急速に進みました。高速道路が鉄道路線と並行していますが、速達性など、高速道路と比べて鉄道の競争力が劣っています。

四国の交通機関別の利用割合は、1985年ではJRが5.4%、民鉄が5.2%、乗合バスが21.2%、タクシーが10.6%、自家用車は48.1%でした。2009年にはJRが1.8%、民鉄が1.6%、乗合バスが1.5%、タクシーが1.9%、自家用車は92.3%でマイカーが主流になってしまっています(2010年以降はデータなし)。2009年ごろのリーマンショックや高速道路料金の大幅割引で打撃が受けたように国の政策や経済動向でも利用者は増減します。

---;日本では道路整備と公共交通のバランスについての検討は活発ではない気がしています。

長戸氏;2018年度の運輸収入は、瀬戸大橋を通って四国と本州を結ぶ列車(快速マリンライナー(岡山-高松)、特急しおかぜ(岡山-松山)、特急南風(岡山-高知)、特急うずしお(岡山-徳島))が45%を占めています。ローカル線は利用者が減っており、国鉄においてバスへの転換基準とされた平均通過人員4,000人を下回る路線もたくさんある状況になってしまっています。収益性の低い路線を切ればよいわけではなく、ネットワークとしてつないではじめて全体の路線が機能しています。

四国の人口(平成27年の国勢調査)は高松(42万人)、松山(51万人)、高知(34万人)等、県庁所在地周辺は増加していますが、それ以外は減少傾向にあります。

国鉄改革の影響で社員の年齢構成は多い年と少ない年があり、大きく偏っています。バスと同様に運転士不足も深刻です。

古くなったインフラの更新や競争力強化が必要

長戸氏;このように厳しい状況にありますが、経営を続けるためには、古くなってきているインフラ等の更新とともに、マイカーよりも魅力的な公共交通にしていく必要があります。また、人口減少とともに衰退しつつある地域経済を活性化する必要があります。こういう状況の中で、地元と一緒になって2037年の新幹線の開通をめざしています。岡山から瀬戸大橋を通り4県を通る全長300kmで1.5兆円の構想です。

---;四国はマイカー主流で高速道路の整備も進んでいます。新幹線の誘致の理由はなぜだろうと思っていました。鉄道を活かすためには新幹線が必要だという理由が分かりました。

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鉄道だけでは利便性を確保できない

長戸氏;鉄道とバスの特性をうまく活かしていきたいと思っています。鉄道は高速で大量輸送が特性ですが、線路や駅の整備が必要です。バスは、車両とバス停があれば事業ができるため身軽です。鉄道とバスどちらが適しているか、特性もふまえ考えていく必要があると思っています。
現在、地域の皆様とともに「四国における鉄道ネットワークあり方に関する懇談会2」を開催していますが、JR四国にとってMaaSは非常に大切です。

当社でも、MaaSに関係する取組みを少しずつはじめています。たとえば徳島の牟岐線ではパターンダイヤを導入し、鉄道のない時間は並行するバスを使えるようにダイヤを連携して利便性の向上を図ろうとしています。将来的には共通乗車券を導入できればと思っています。MaaSで先駆的な事例となっている高松市とことでんグループの取組みを参考に、他交通事業者、行政と連携して、取組みを進めて行きたいと考えています。

データ活用を進めたいが環境整備が課題

---;四国の交通系ICカードは?

長戸氏;四国は地域カードが多く、愛媛には伊予鉄の「い~カード」、高知の「ですか」、香川は「IruCA(イルカ)」があります。JR四国では、JR西日本と同じICOCAがあります。地域カードのうちIruCAは10カードとの相互連携が進んで使いやすくなってきています。

---;地域カードはユニークでよい取組みが多いですが、10カードと連携ができていなかったので、以前は随分不自由を感じました。また四国ICOCAを使っている人をあまり見たことがありません。みんな思い思いの交通系ICカードを使っているのですね。

長戸氏;交通系ICカードの導入には大きな費用がかかります。たとえばJR四国は13駅でICOCAを導入しており、その初期費用で11億円かかりましたし、運用費用も別途かかっています。

JR四国には259駅ありますが、基本的には磁気の切符で、駅員が改札するか無人駅が大半です。したがって時間帯別での駅の利用状況などが把握できていません。

---;鉄道とバスなど他モードとの連携などMaaSを鑑みるとデータ活用が必要ですね。人口密度も低いので、他のデータを組み合わせて分析するときは工夫も必要です。

長戸氏;コストを考えるとQRコードなど新たな技術も念頭に入れる必要があります。

---;四国は1つの島のようにみえますが、歴史的な背景からか四国は4県ありそれぞればらばらでまとまりがないイメージです。

まずは紙でもいい。MaaSの考え方を根付かせることから

長戸氏;MaaSは四国全域ではじめるのではなく、まずは成功事例をつくる必要があるかと思っています。よくMaaSとなるとスマートフォンの話がでてきます。しかし東京とちがって四国は運行本数が1時間に1本程度の地域です。はじめは紙の切符でいいので、鉄道とバスの連携などシームレスな状況を作り、「これなら公共交通を使ってみよう」と思わせること、すなわちMaaSの考え方をしっかり根付かせることが大切だと思います。

---;四国こそMaaSがどの地域よりも必要だということがよくわかりました。

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《楠田悦子》

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