ヤマハ『R25/R3』若者に人気の理由は、日常と“R”のバランスにあった…開発者インタビュー

ヤマハ YZF-R25/R3 開発者インタビュー
ヤマハ YZF-R25/R3 開発者インタビュー全 24 枚

“若者のバイク離れ”などと言われているが、本当なのだろうか。少なくともヤマハ『YZF-R25/ABS』そして『YZF-R3 ABS』には当てはまらない。なんと、ユーザー層の60%が10~20代だというから驚くばかりだ。

税抜き新車価格は『YZF-R25』だと55万5000円、『YZF-R25 ABS』が59万5000円、『YZF-R3 ABS』なら62万5000円。若年層にしてみれば、決して安くはない価格帯でありながら絶大な人気がある。これほどの商品訴求力の高さ、モーターサイクルに限らず世の中のあらゆる製品を見渡しても思いつかない。

今年、新型にフルモデルチェンジされたばかりだが、開発は若いチームでおこなわれた。今回、どんな想いでつくられたのか、エンジニアたちに話を聞く機会を得た。ヤングエイジから支持されるヒミツも、聞き出せるかもしれない。

インタビューに答えてくれるのは、プロジェクトリーダー(開発責任者)の重富祐哉さん(ヤマハ発動機株式会社PF車両ユニット PF車両開発統括部)をはじめ、三浦徹さん(ヤマハ発動機株式会社パワートレインユニット パワートレインユニット開発統括部)、内田徹也さん(ヤマハ発動機株式会社PF車両ユニット PF車両開発統括部)、八木俊紀さん(ヤマハ発動機株式会社PF車両ユニット 電子技術統括部)。以下敬称略。

ひときわ目を惹くウイングは“遊びゴコロ”!?

ヤマハ YZF-R25ヤマハ YZF-R25
----:まず、みなさんの経歴を聞くと、『VMAX』や『スターベンチャー』、『YZF-R1』、『MT10』、『ナイケン』、『Gマジェスティ』、『マグザム』、南米向けの『テネレ250』、あるいはアセアン向けの小排気量モデル…と多岐にわたりますね。

重富:昔はスポーツ系、スクーター系と分かれていたのかもしれませんが、いまは混ざり合うことは珍しくありません。特に『YZF-R25/ABS』と『YZF-R3 ABS』は中間排気量のモデルですので、幅広く知っているというのは強みになりました。

----:初代は2014年に登場しましたが、みなさんずっと携わってきたのですか?

重富:テスト部門は引き継いでいる人もいるのですが、開発スタッフはガラッと入れ替わりました。

----:それなら、新型もガラッと変えてしまおうと?

重富:熟成し、信頼性と高性能を実現しているエンジンやフレームはそのまま踏襲しています。「毎日乗れるスーパースポーツ」と掲げていたコンセプトも、初代から大きく逸脱せず、今回は「Ride the“R”Anytime」へと小変更するにとどまっています。つまり、それほど変わっていないのですが、新型ではよりRシリーズを意識させて、日常とRシリーズを繋げていこうという狙いです。

ヤマハ YZF-R25/R3 プロジェクトリーダーの重富祐哉さんヤマハ YZF-R25/R3 プロジェクトリーダーの重富祐哉さん
----:まず目を惹いたのは、サイドカウルにある“ウイング”です。ダウンフォースにも寄与すると説明されていますが、そんな理屈抜きにして斬新。“遊びゴコロ”があっていいですね。

重富:“遊びゴコロ”というのも否定はしませんが、デザインを一新できる機会ですので、空力性能にもこだわっていまして…。

----:いやいや、そんな機能面のことはいいんです!(笑) モトGPレーサーみたいで夢があって見てカッコイイ!! そういうところが人気の秘訣なんじゃないかなと思います。

重富:そう言っていただけると嬉しいです。でも、クロスレイヤード構造の新型カウルは走行風を後方に逃がすことで空気抵抗を低減しつつ、効果的にエンジンを冷却していますし、新設計のスクリーンも走行中のヘルメットまわりに発生しやすい乱流を低減して、走行風をマネジメントしているんです。M字型ダクトからの走行風はラジエーターに送り込まれ、冷却性向上に寄与しています。

----:LED2眼のフロントマスクもハンサムです。

八木:機能的に欲しい性能と、Rシリーズのスタイルを両立させるのは難しかったところです。デリバリーされるのが先進国ばかりではないので、夜間は暗い道路環境に対応しなければなりませんでした。LEDはスポット的に明るく、周囲が暗くなりがちですが、配光に配慮し、全体に明るい高い視認性を確保しています。

PF車両ユニット 電子技術統括部の八木俊紀さんPF車両ユニット 電子技術統括部の八木俊紀さん

仕向け地はヤマハ最多、「バランス」がキーワード

----:ヤマハの中でもっとも仕向地が多いモデル。欧米ではビギナー向け、新興国ではトップエンドのフラッグシップとなるので、どんなライダー像をイメージしてつくるのか、難しいでしょうね?

重富:各国のライダーに乗ってもらったり、テスト課にいろんな気持ちでライディングしてもらうなどしました。たとえばシート高ですが、低くしすぎてもライディングポジションがおかしくなりますし、バランスを重視して何が必要か考えて最大公約数をとって進めていきましたね。

----:R25とR3を両方発売している国はどこですか?

重富:じつは日本だけなんです。ほとんどがR3だけで、インドネシアとマレーシア、トルコはR25のみをリリースしています。

----:R25とR3は、乗るとエンジンフィーリングが少し違いますよね。

三浦:R25は高回転型になっていて、回して楽しめるエンジンです。R3はトルクが太くて、全域で余裕を感じます。R3は欧米がメインで、高速巡航も快適。どちらもパラレルツインならではのドコドコとしたパルス感を低中速域で味わえ、高回転域では伸びきり感が堪能できます。

ヤマハ YZF-R25/R3のパワートレイン開発を担当した三浦徹さんヤマハ YZF-R25/R3のパワートレイン開発を担当した三浦徹さん
----:初心者からエキスパートまで、乗り手を問わず楽しめるのもヒットの要因ということでしょうか。

三浦:じつは1つ前のマイナーチェンジ時、EURO4適合の際に、吸排気系、ヘッド、ピストン、カムシャフトなどを刷新し、そこでまた熟成させて乗りやすくなりました。

----:そのとき、サイレンサーのテールパイプ径が太くなりましたよね。

三浦:はい。法規を満たしながら、サウンドも作り直すことができたのです。

トップブリッジやヒールガードに隠された本当の狙い

ヤマハ YZF-R25ヤマハ YZF-R25
----:フロントフォークが倒立式になって、アウターチューブがゴールドなのもいい。

重富:わかりやすいフィーチャーポイントになっていますが、コストという面では厳しかったですよ。

----:タンクもクラスを超えたボリューム感で、これもビッグバイクをイメージさせて若年層には嬉しいところ。

内田:エッジの効いたデザインで、やはりRシリーズのスタイルを受け継いでいます。

----:走って思うのは、セパレートハンドルがハンドルクラウン下にマウントされたのに、前傾がキツくないことですね。

内田:従来型よりグリップは22mm低くなっていますが、毎日乗ることを考えるとライディングポジションを窮屈にさせるわけにはいきませんからね。

----:アルミダイキャスト製のトップブリッジに施された大胆な肉抜きも目立つ。

内田:剛性バランスを最適化させています。

重富:新型でもっとも苦労したポイントのひとつかもしれません。

PF車両ユニット PF車両開発統括部の内田徹也さんPF車両ユニット PF車両開発統括部の内田徹也さん
内田:従来型のシャシーのままに倒立フォークを入れたことで、そのままでは硬さがハンドリングに出るなどししました。肉抜きによってバランスを最適化させて、それらを解消しているのです。

----:お話を聞いていて、あらゆる点で「バランス」という言葉がキーワードであると感じました。

重富:そうかもしれませんね。

----:R25とR3はデザインが共通で、外観でパッと見分けられる点はただひとつ、ヒールガードの穴開け加工の有無だとファンの間では言われていますが、どうしてR25は穴あき、R3は穴なしなのでしょうか?

内田:R25では軽量化というのもひとつですが、じつは振動対策という意味があります。250ccエンジンならではの細かいバイブレーションを穴開け加工によって解消しているのです。実験部門が徹底的に乗り込み、重箱の隅をつつくようにして一緒に開発したからこその成果でした。

ヤマハ YZF-R25/R3 開発者インタビューヤマハ YZF-R25/R3 開発者インタビュー
----:!! いいことを教えてもらいました。“遊びゴコロ”と言って、冒頭からウイングのことから聞いてしまいましたが、細部まで本気度満点でゼンゼン遊んでないじゃないですか!! ちなみに『MT-03』はまた別のチームで開発しているんですか?

重富:実は同じチームで作っています。R25やR3と同じくらいグローバルで展開しているモデルですので、そちらも力が入っていますよ。

----:もっと詳しく聞きたくなってしまいますが…。

重富:そこは乞うご期待、ということで(笑)

文句なしにカッコイイと思わせるわかりやすいフィーチャーポイントに、こうした本格的な追求が堅実にマッチし、知れば知るほどに『YZF-R25/ABS』と『YZF-R3 ABS』は魅力を増す。若者にもそれがしっかり伝わっているということだろう。

ヤマハ YZF-R3ヤマハ YZF-R3

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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