MaaS実験都市ベルリンで、相乗りEV配車サービス「クレバーシャトル」を試した[体験記]

クレバーシャトルの配車を依頼したところ日産e-NV200が到着した
クレバーシャトルの配車を依頼したところ日産e-NV200が到着した全 11 枚

MaaSが生活の一部となっているベルリン

MaaSサービスのベンチャーが次々と登場している欧州のなかでも、特にいまホットなのがベルリンだ。

ドイツの自動車メーカーがカーシェアリングサービスを展開し、そしてベルリン市交通局もみずからMaaSアプリを提供し、様々な特徴をもつオンデマンド配車サービスがいくつも登場し、そしてラストマイルを担保する電動スクーターや自転車、キックボードのシェアリングが街中に展開し、そのどれもが市民の足となって生活に浸透している。

東京では考えにくい状況ではあるが、ベルリンではすでにこれらのようなMaaSを構成する要素が社会に実装され、試行錯誤を繰り返しながら行政・企業・市民が経験値を積み上げているのだ。

なぜベルリンにこのような状況がうまれているのか---。その背景には、CO2削減を強く求めるドイツの民意と、いっぽうで支持率が必要な政権が、環境保全を政策として推し進めている、という構図がある。

サービスの具体的な事例を説明する前に、ドイツの社会情勢についてまず紹介したい。

政治にコミットするドイツの若者

調査機関フォルザの2019年6月の調査結果によればドイツにおける支持率第一位の政党は緑の党である。その名の通り環境保全を旗印にしている政党だ。そして緑の党の支持者層は20~30代の若年層であるという。

日本人の政治への無関心ぶりはよく言われることだが、ドイツでは正反対で、政治に対する関心は非常に高く、例えば、国政選挙の投票率は毎回70%を大きく超える水準をキープしているし、日常会話のなかで政治議論を交わすことも当たり前だという。そのような、政治に強くコミットしている国民が支持しているのが緑の党なのだ。

そんな民意を受けてメルケル政権は、CO2削減策をあれこれと推し進めている。世界一厳しいと言われるEUの自動車CO2排出規制も、いちばん打撃を受けるのはドイツであるのは間違いないが、EU議会で昨年12月に合意済みだ。そして自動車に限らず、社会全体で2050年にカーボンニュートラル(CO2プラマイゼロ)を目指すことを明言している。

日本にいるとCO2削減=綺麗ごと、と捉える向きもあろうが、ドイツにおいてはCO2削減は綺麗ごとではなく、民意そのものであるのだ。

ベルリン市交通局みずから手掛けるMaaSとは

そのような状況のなか、ドイツでは都市行政においてもCO2削減に積極的に取り組んでおり、ベルリンも例外ではない。まず最初の事例として紹介したいのは、ベルリン市交通局(BVG)がみずから運営するMaaSアプリ「Jelbi」だ。

Jerbiは、目的地に応じた最適な移動手段を組み合わせたルート探索と予約、そして決済ができるアプリで、BVG傘下の公共交通機関だけでなく、数多くのモビリティサービスと連携している。

例を上げると、BVGが運営する地下鉄・トラム・バスはもちろん、自転車シェアリング(DEEZER nextbike)、電動キックボードシェアリング(TIER)、スクーターシェアリング(emmy)、乗り捨てカーシェアリング(MILES・DB Flinkster)、オンデマンド配車サービス(BVG BerlKonig)などだ。

Jelbiの料金体系は、「Whim」のような月額定額制の料金体系ではなく、モビリティごとに都度料金を支払う。

自治体+MaaSシステムベンダーという座組み

もっとも、参加するモビリティサービス側としては、そのほうが参加しやすいという事情がありそうだ。また余談ではあるが、WhimはMaaSグローバルの自社ブランドであるいっぽう、Jerbiは、自治体が運営主体となり、MaaSシステムベンダーであるイギリスのTrafiが、ベルリン市交通局向けにホワイトレーベルで提供している、という違いもある。

このJelbiのように、MaaSシステムベンダー+自治体や交通インフラという座組みが世界中で事例が増えている。自治体自身がMaaSの運営主体となることで、公共交通機関は参加しやすいというメリットがあり、今後はこちらの座組みが増えるのではないかと予想する。

路上駐車と相性がいい乗り捨てカーシェア

また乗り捨て型のカーシェアリングもドイツでは普及しつつある。2019年時点で246万人のユーザーがおり、ベルリン市内でもよく見かけることができる。ダイムラー・BMWが運営する「DriveNow」や、フォルクスワーゲンが展開するEVカーシェア「We Share」などだ。

ドイツでは路上駐車が多くのエリアで認められており、そのため気軽に乗り降りすることができることも日本との違いであろう。クルマを借りるときも比較的見つけやすく、降りるときも駐車場を気にせずに降りることができる。

オンデマンド配車を使う分ける

オンデマンド配車については、多くのサービサーが競合している状況だ。ダイムラー・BMWの「FreeNow」が人気だが、そのほかにも「UBER」(タクシー配車型)や、ベルリン市交通局がViaVanと協業して実施している「BerlKonog」、そして、つい先日三井物産が出資を発表した「CleverShuttle」(クレバーシャトル)。EV・FCEVの相乗りタクシー配車という特徴あるサービスだ。
参考記事:三井物産、独オンデマンドモビリティサービス「クレバーシャトル」に出資
街中からホテルへ向かう際に、実際にクレバーシャトルを利用してみたので簡単に紹介したい。EVかつ相乗りという特徴があり、新鮮な体験をすることができた。

まず配車依頼については、通常のオンデマンド配車アプリと大差ないが、乗員の人数の入力が求められる。相乗りであるためシートを確保する意味合いだ。また通常のタクシー配車よりも料金は割安になるが、先客が乗っていた場合は、その先客を先に下ろしてから目的地に向かうため、多少時間がかかる場合がある。

実際に乗車した際は、日産『e-NV200』が配車された。担当してくれた女性ドライバーはクレバーシャトルの社員だそう。高校生ふうの女性2人組が先客で乗車しており、彼女らの目的地にまず寄ってから、遠回りしてホテルに向かうことになった。その分時間はかかったが、運賃は割安だった。

また車両にEVを使うことについて、車両コストや充電時間などのデメリットもあるが、CO2削減に積極的な顧客層からの支持を受けやすいことや、またこれだけ配車サービスが相当数競合している状況においては、差別化という意味もあるだろう。

そのほか、FreeNow、UBER、BerlKonigをひととおりベルリンで試しに使ってみたが、いずれもアプリでオンデマンド配車&決済という使い慣れたユーザー体験を提供しており、想像した通りの利用感であった。

急激に普及した電動キックボード

そして、ベルリンの街でそこかしこに見かけるのが電動キックボードだ。LimeやTIERなどのサービスベンダーが競合しており、どこでもすぐに見つけられるため気軽に利用することができる。

こちらも試してみたところ、タイヤが小径で乗り心地が固いため、長距離の移動には向かないが、ラストマイルのモビリティとして、1~2kmを走るのには気軽でとても使いやすい。1km走ると2~3ユーロ前後で、決して安くはないが、すぐに乗れる点、乗り捨てやすいことから、移動手段としてすっかり市民に浸透しているようだった。

MaaSのノウハウが蓄積されている

かようにベルリンでは、多様なモビリティが市民の足として根付き始めており、いっぽう行政も都市部のCO2削減のためにシェアリングや電動モビリティ、そしてMaaSアプリに積極的に取り組んでいる。実際にいろいろ試してみた感想としても、モビリティの多様化と気軽さは移動の体験を大きく進化させているという実感だ。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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