80%はこのまま量産? メルセデスベンツ ヴィジョンEQS…東京モーターショー2019[デザイナーインタビュー]

メルセデスベンツ ヴィジョンEQS
メルセデスベンツ ヴィジョンEQS全 15 枚

インポーターの出展が少なかった東京モーターショー2019。その中でメルセデスベンツは大きなブースを構え、そこには「EQ」のフラッグシップとなるであろう『ヴィジョンEQS』(以下EQS)が展示された。そのデザインはこれまでとは大きく変革を遂げたものであった。

ロングホイールベースが新しい定義

「EQSと『Sクラス』とを比較すると、フットプリントはほぼ一緒だが全高は20mmから30mmくらい高くなっている。既存のSクラスのプロポーションでは太ってバランスが悪く見えるだろう」とはダイムラー社メルセデスベンツ・アドバンスドデザイン・シニアマネージャーのホルガー・フッツェンラウブさんの弁。

Sクラスの特徴はダッシュトゥアクスル(フロントホイールの中央からAピラーの付け根までの距離)を長くとっているところにある。その理由は、「1930年代のメルセデスを見ると長いボンネットと小さいキャビン、リアはボートテールになっている。つまりダッシュトゥアクスルの距離が長いとプレステージ感、高級感が定義づけられるのだ」と説明。ボンネットが長いほど、エンジンがより大きくパワフルなものが搭載されているという印象をもたらすからだ。

それに対してEQSは新たな定義をもたらした。「ダッシュトゥアクスルが短く、さらにフロントとリアのオーバーハングが短くなった変わりに、ホイールベースを伸ばし室内が非常に広くなっている」とそのプロポーションの違いを述べ、「これがEVの新たなSクラスになりうる定義だ」とした。過去のメルセデス540Kのイラストをもとに説明過去のメルセデス540Kのイラストをもとに説明

Sクラスはモダン、EQSはプログレッシブ

当然のことながら、このエクステリアのプロポーションを反映することで、インテリアにおいても差別化が図られた。「EVの方がフロント、リアともより広い室内を確保されている」とフッツェンラウブさん。また、「デジタルとのインタラクションという観点でも、EVであればクルマと乗員との間のやり取りがより濃厚となることが予想される」とインテリアがより重要視されることを示唆。

そして、「将来的にはデジタルのSクラス(=EQS)の方が既存のものよりよりグレードが高いものになるだろう。それが具体的にどういった形になっていくかは数か月ないし数年先に、より革新的なクルマとして登場することを申し上げたい」と述べた。

フッツェンラウブさんは、「来年予定されている次期型Sクラスのテーマは“モダン”であり、その先に予定されているEVのSクラスは“プログレッシブ”がテーマ。今回お見せしたEQSは、まさに将来的に技術面、ユーザーエクスペリエンス、インタラクションにおいてどのようなものが実現されるのか、そのビジョンを示したもの」と位置付けたうえで、「“ファーストジェネレーションエレクトリックSクラス”は、80%くらいがこの形になるだろう。これはフランクフルトのボスからも確認を得ている」とコメントした。メルセデスベンツ ヴィジョンEQSと現行Sクラスとの差メルセデスベンツ ヴィジョンEQSと現行Sクラスとの差

ストーリー性をデザインにも

ここからはフッツェンラウブさん自身について伺ってみた。「私は3世代目の“メルセデスメンバー”だ。祖父がシュツットガルトでプロトタイプのエンジニアリングテストをやっていた」とメルセデスと強い縁があることを明かす。

「小さい頃には彼から様々なインスピレーションを受けた。近所にあるメルセデス博物館にも連れて行ってもらい、そこで目にしたシートメタルなどに命を感じ、心が踊った。そこでは、祖父がこのクルマはどんな用途があったか、このクルマはレースに使われたなど色々な話をしてくれた。そういったストーリーを聞くのが非常に面白かった」と振り返る。

そして、「そういったものを私はデザインを通して伝えたい。そういったモチーフなどが含まれるようなきちんとしたストーリーをデザインにももたらすべきだということを、実はこの幼少の時の経験から得とくした」という。また、「色々なモーターショーに連れて行ってくれ、その中で様々な形に関心、情熱を持つようになった」と語った。メルセデスベンツ ヴィジョンEQSメルセデスベンツ ヴィジョンEQS

さて、学校にあがる年齢になると、「美しいものに心を惹かれるようになった。その美しさとは自然や動物の形、また素材に大きな関心を抱くようになり、さらに大きくなってデザインを学ぶようになると、バウハウスなどに惹かれ、様々なインスピレーションを受けるようになった。そこで得たのは最もシンプルなものから最大の表現をしよう、シンプリシティを尊重する姿勢だ」と述べる。

これは、現在メルセデスで使われているデザインランゲージのセンシュアルピュリティにも共通するもので、「ここには人間的な部分もあると思っている。人は洋服などを着るが、それは外見的なものとして一定の効果をもたらすだけだが、実は内面にある体がより重要なエッセンスだ」という。

フッツェンラウブさんは4年ほど日本に駐在した時期がある。その時には、「禅の世界、考え方を学んだ。なるべく簡素にしていこう、全てを削ぎ落としていこうという部分からも大きな影響を受けた」と話す。ダイムラー社メルセデス・ベンツアドバンスド・デザインシニアマネージャーのホルガー・フッツェンラウブさんダイムラー社メルセデス・ベンツアドバンスド・デザインシニアマネージャーのホルガー・フッツェンラウブさん

食べ物もデザインもスパイスが必要

一方でフッツェンラウブさんはこうもいう。「建築でもファッションデザインでもそうなのだが、時には挑発的な発想も必要になる。DNAは守っていかなければいけないが、どんどん削ぎ落とし、合理化をすればいいというものではなく、時には一線を越えて何か違うもの、誇張しすぎるというか、オーバーにやらなければいけない場面もある」と述べる。

「それがそもそもの哲学に合わないということもあるが、同じことばかりやっていると中長期的にはつまらないものになってしまうので、一歩退いた姿勢も必要だ。従って、主流にあるDNAは安定的に強固なものとして維持し続けながらも、そこにスパイスを加えていく作業が必要となる。それは食べ物でも同じだ。何かベースがあって、そこにスパイスを加えることによって面白いものが出来上がる、個性が出来上がると思う」と語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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