発想は電アシ自転車から、だけど中身は全く違う…「電動車いす」開発者に聞いてわかった意外な事実

ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」
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オートバイや電動アシスト自転車などを製造・販売するヤマハが、電動車いす事業を展開しているのをご存知だろうか。さかのぼってみればその歴史は最近ものではなく、1989年に端を発している。今回は、ヤマハの電動車いすについて、開発者に話を伺った。

インタビューに答えてくれたのは、ヤマハ発動機のソリューション事業本部 SPV事業部 JWビジネス部長の山崎美千代さん、そして同じくソリューション事業本部 SPV事業部 JWビジネス部 JW技術グループ グループリーダーの松苗徹さんだ。

電動ユニットのみでも販売、ヤマハの電動車いす「JWシリーズ」

ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」(左)とフル電動タイプの「JWアクティブ PLUS+」ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」(左)とフル電動タイプの「JWアクティブ PLUS+」
まずはヤマハが扱っている車いすについて触れておきたい。車いすと言えばユーザーが自身の腕力であったり、介助者がハンドルを押して移動するイメージが強いだろうが、これは手動型と呼ばれるタイプ。ヤマハが扱うのはバッテリーとモーターを備える電動車いす。手動と電動を兼ね備える簡易電動型と呼ばれるカテゴリーの車いすである。

ヤマハの簡易電動型車いすにもフル電動型とアシスト型の2種類があり、フル電動のジョイスティック型『JWアクティブ PLUS+』『タウニィジョイX PLUS+』はレバー1本で移動が可能だ。一方、アシスト型の『JWスウィング』は手動型のように腕力を使ってタイヤを回して移動するが、それを電気の力がサポートする。自身の体を動かしながらも、楽に移動ができるようになっている。どちらのタイプも、手動型への切り替えが可能である。

ヤマハが展開する電動車いす事業の特長は、完成品のみならず電動ユニットを開発・販売している点にある。海外にも出荷されているそうだ。この電動ユニットは、国内の車いすであればほぼ、どんなタイプにも取り付けることができるようになっている。車いすはユーザーの身体の状態により、カスタマイズが施されている場合がある。ヤマハの電動ユニットを後付けすることにより、使い慣れた、そして自分仕様にカスタマイズされた車いすを変更することなく、そのまま電動化することができるのである。

発想は電動アシスト自転車から

ヤマハが電動車いす事業の取り組みをスタートさせたのは、1989年のことだった。商品化されたのはそれから6年後の1995年。当時は神奈川県と静岡県でテスト販売され、翌1996年には全国へと販売を拡大している。こうした電動車いすを開発・販売するに至った背景には、電動アシスト自転車の存在があった。

「電動アシスト自転車は、ヤマハが一番最初に商品化しました。そのコンセプトをほかに活用できないかと検討した結果、電動車いすが近いのではないか、ということでこの事業がスタートしたんです」と話すのは松苗さんだ。

ヤマハ発動機 ソリューション事業本部 SPV事業部 JWビジネス部 JW技術グループ グループリーダーの松苗徹さんヤマハ発動機 ソリューション事業本部 SPV事業部 JWビジネス部 JW技術グループ グループリーダーの松苗徹さん
「我々の電動車いすは、アシスト型から始まりました。自転車の場合は漕ぐ力をアシストしますよね。車いすは手で漕ぐことになります。これをアシストすることでユーザーが楽になるのではないか、ということになったんです。製造して市場調査をし、需要がありそうだということでスタートしました」

手動型はバッテリーやモーターを搭載しない分軽量で、かつ機動力があるが、一方でユーザーへの肉体的な負担が大きい。電動型は電気の力でアシストできるからユーザーの負担は少なく、坂道なども楽に上ることができる反面、重量があるため単体での移動は不向き、そして小回りが利かないというデメリットがあった。ヤマハは『手動型と電動型車いすのメリットをあわせ持つ新しい車いす』をの開発コンセプトに掲げた。こうして誕生したのが、今日に続くヤマハの電動車いす、そして電動車いすユニットなのである。

実は電動アシスト自転車とは全く違うシステム

ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」。電動ユニット単体での販売もおこなう。ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」。電動ユニット単体での販売もおこなう。
大元には電動アシスト自転車があったと語る松苗さんだが、その内情は大きく違っているという。

「我々の電動車いすに採用されているシステムは電動アシスト自転車と出自が一緒ではありますが、実際の中身はまったく違います。自転車なら速度が20数km/h出ますが、電動車いすは国内では6km/hまでしか出すことはできません」

「乗る方が健常者か、そうではないかという違いも大きいです。それに電動車いすは細かい発進と停止が多いですし、また、前進のみならず、後進があるのも大きな違いですね。機構が違うんです。このため、ほぼ全面的に見直しをしました。ですから電動アシスト自転車のコンセプトを受け継いではいるのですが、中身は全く違うものなんですよ。モーターも違いますからね」

ちなみに、フラットな道を走る際と段差などを超える際でパワー出力が変わるようにセッティングされているのか、と聞くと松苗さんは「特に変えていません。ただ、たとえば、上り坂を乗り越えたあと、勢いがよすぎて怖い思いをしないように抑えるようにはしています」と答える。

車いすユーザーにとっては、2.5cmほどが乗り越えることができる段差の限界なのだという。たとえフル電動型の車いすであっても、アシスト型の車いすであっても、ユーザーの体重とともに少しでも段差を乗り越えることは、とても難しいのだそうだ。

車いすと補助金制度の関係

市場としてのニーズはフル電動や電動アシストに頼らず、自分の身体で車いすを動かしたいというユーザーが多いという。これについて、山崎さんが「これはあくまでも個人的な意見ですが」と前置きして続けた。

「電動車いすは移動手段です。わたしは、移動では楽をして、移動先で趣味などやりたいことに力を使えばいいんじゃないかな、と思うんです。体力をつけるために車いすに乗っているわけではないですから。本当は、移動って楽にすればいいのではないかと思っているんですよ」

実は、電動車いすの普及については補助金制度との関連もある。障がい者であれば補装具給付、高齢者であれば介護保険給付となるが、認定が下りなければ全額自費で購入しなければならない。

ヤマハの電動車いすに搭載する充電式バッテリーヤマハの電動車いすに搭載する充電式バッテリー
今回お話を伺うなかで、車いすの事業展開、ユーザーの購入などが補助金制度と密接な関係にあることがわかった。ほかにも、電動車いすに搭載されるバッテリー。ヤマハは現在、ニッケル水素とリチウムイオンをラインアップしており、リチウムイオンバッテリーの走行距離はニッケル水素の約2倍である。

これにも補助金制度が関わっている。バッテリーは消耗品なので、数年おきに交換しなければならない。しかし、以前はその費用がニッケル水素バッテリーの金額を基準としていたため、より高価なリチウムイオンバッテリーを購入するのが難しかった。

つい最近、リチウムイオンバッテリーでも認定が下りるようになったが、それでもすべてのユーザーに対してではない。学生など長距離の移動が『必要な人』などが対象になるのだそうだ。もちろん自費でリチウムイオンバッテリーを購入することはできるが、その額は決して安価ではないのだ。

ヤマハのモビリティの一角として存在させていきたい

話を戻そう。電動車いすに対する印象、あるいは様々な課題がある一方で、電動アシスト自転車はもちろんのこと、クルマやバイクにも拡大を見せている「電動モビリティ」というカテゴリーに対する抵抗感が薄くなってきたことで、少しずつ電動車いすが受け入れられてきてもいる。

「我々のJWシリーズは、小回りもききますし、スーパーなどではレジも通りやすいです。乗り物自体は車いすに見えますが、そこを気にせず、移動手段だと思う人も増えてきているのかなとは感じます」と松苗さんは語った。

ヤマハはこうした電動車いすの開発・販売のみならず、1年に1度、『YAMAHA JW GIRLS Meeting』というユーザー参加型イベントを行っている。これは4年前から始まったもので、その名のとおり、JWシリーズユーザーの女性が対象だ。


ユーザー同士の交流の場ともなっており、イベントでは参加者へヘアメイクサービスを行うなどの催しも含まれている。『車いすでみんなの生活を豊かにサポートしよう』というヤマハの思いが具現化されたイベントのひとつだという。

最後に、松苗さんはヤマハの電動車いすの将来について、こう語った。

「現在、移動手段としていろいろなものが認知されてきていますが、電動車いすはその一角を担うようなものだと思っています。我々は電動車いすの事業部ですから電動車いすについて考えていますが、ヤマハとしては今後、一人乗りの電動モビリティなどについても考えていくと思うんです。そうしたヤマハのモビリティの一角として、電動車いすを存在させていきたいですね」

ヤマハの電動車いすは、今後さらにユーザーへ大きな可能性を見せていくのだろう。

《伊藤英里》

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