【トライアンフ ボンネビルT100 バド・イーキンス 試乗】バイクらしさってこういうこと…伊丹孝裕

トライアンフ ボンネビルT100バド・イーキンス・スペシャルエディション
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数あるラインナップの中でも、古きよき時代のトライアンフらしさが詰まっているモデルが「ボンネビルT100」シリーズだ。2020年、そこへ新たに加わった「T100バド・イーキンス・スペシャルエディション」(以下、T100バド・イーキンス)の試乗記をお届けしよう。

車名につくバド・イーキンス(Bud Ekins)は、アメリカで活躍した往年のスタントマンの名前だ。オフロードライダーとして数々の栄冠に輝き、1960年代にはカリフォルニアを中心にトライアンフのディーラーを幅広く展開。レースの世界でも、ビジネスの世界でも大きな成功を収めた人物である。

そんなイーキンスの名が一躍広まった一本の映画がある。それが、スティーブ・マックイーンが主演を務めた『大脱走』(1963年公開)だ。ストーリーはうろ覚えでも、バイクに乗った兵士が大ジャンプを決め、有刺鉄線を飛び越えるシーンは誰もが目にしたことがあるだろう。マックイーンの代役としてトライアンフのTR6トロフィーを駆り、映画史に残るあのバイクスタントを成功させたのが、イーキンスに他ならない。


T100バド・イーキンスは、その功績を称えるモデルであり、ボンネビルT100をベースに数々のスペシャルパーツを装備。専用のカラーリングとロゴ、クラシックレーサーをモチーフにしたタンクキャップ、サテンブラック仕上げのLEDウインカーの他、バーエンドミラーを備えるグリップ、エンジンのブラックバッジなどが外観上の特徴だ。

こうしたプレミアムモデルの場合、プライスの大幅なアップは避けられないのが普通だ。ところが、ボンネビルT100が125万3900円なのに対し、T100バド・イーキンスは129万3500円と、その差は極めて小さく、内容を知ればかなりリーズナブルと言っていい。

軽やかに伸びていくバーチカルツイン


さて、T100バド・イーキンスの価値は質感の高さだけでなく、走りのパフォーマンスにある。とりわけ印象的なのが、バーチカルツインがもたらすまろやかなフィーリングだ。

バーチカルツインとはシリンダーが地面に対して90度直立(もしくは限りなくそれに近い角度)した状態の2気筒エンジンのことを言う。この形式のオリジナルをたどれば80年以上もさかのぼることができ、トライアンフの象徴として今に引き継がれているのだ。

揺りかごの意味を持つクレードルフレームに搭載されているエンジンは、900ccの排気量を持つ。シリンダーには多数のフィンがあるため、一見すると空冷に見えるが、現代のモデルらしく水冷化。ラジエターはその前部に目立たないように配されている。


トライアンフが高トルク型と呼ぶ通り、80Nmの最大トルクを3230rpmという低回転で発生する。これは従来のエンジンよりも20%近く力強く、しかもそれを幅広い回転域で持続。スロットルを開ければ、いつでもどこでも望んだキック力を引き出すことができるのだ。

実際、スロットルを大きく開けた時こそ、T100バド・イーキンスは活き活きとしてくる。空冷時代のエンジンが低回転から高回転まで「ズオォォォ……」とフラットに回るタイプだとすれば、この水冷バーチカルツインは「ドゥルドゥルドゥル~」と心地よいリズムを刻みながら軽やかに回転が上昇。特別なスキルがなくても高回転まできっちりとスロットルを開けることが可能で、それでいて決して前に出過ぎることはない。

そのため、例えば交差点を曲がり終えて加速する。そんな日常的な場面でもエンジンの刺激を存分に堪能することができ、自分でパワーを手なずけているという満足感を得やすい。

路面を捉え続ける高いスタビリティ


足まわりも日常+αに合わせたものだ。コーナリングスピードを上げようとするとリヤサスペンションが徐々にフワつき始め、「それくらいにしておいた方がいいんじゃない?」とペースダウンするように優しく誘導。それでもがんばるとトラクションコントロールが機能し、ライダーに限界を気づかせてくれるのだ。なんの前触れもなく、突然裏切ったりはせず、誠実に作り込まれている。

味わい深いのが、ハンドリングだ。旋回力自体はおおらかで、現代のスポーツバイクのようにクルリと曲がるタイプではない。バンク角も浅いが、タイヤはピタッと路面を掴み続け、特にフロントまわりには張り付いたような安心感がある。車体にどんな無理を強いても、少なくともフロントタイヤからスリップダウンすることはないのでは? と思えるほどの高いスタビリティを披露。こうした特性はかつてのトライアンフと共通するもので、ホンモノを知るライダーも唸らせる仕上がりを持つ。

バド・イーキンスはトライアンフにとってひとつのアイコンであり、語り継がれるべきビッネームだが、もしその名が与えられていなかったとしても、このモデルには充分な価値がある。エンジンのフィーリングも、コーナリングの振る舞いも、そのたたずまいもバイクらしさにあふれ、いつまでも変わることのないスタンダードとして完成されているからだ。


■5つ星評価
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★
コンフォート ★★★
足着き ★★★★
オススメ度 ★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

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