スマート東京実施戦略が目指す官民連携プラットフォームとエリア戦略…東京都戦略政策情報推進本部[インタビュー]

スマート東京実施戦略が目指す官民連携プラットフォームとエリア戦略…東京都戦略政策情報推進本部[インタビュー]
スマート東京実施戦略が目指す官民連携プラットフォームとエリア戦略…東京都戦略政策情報推進本部[インタビュー]全 1 枚

2020年のCESにおいて、トヨタが裾野市の工場跡地に「ウーブンシティ」という民間主導のスマートシティ計画を発表した。行政においてもモビリティ革命やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった技術革新をトリガーとした新しい街づくりが活発化している。

スマートシティは、2010年代に最初のブームがあった。日本では2016年4月の電力自由化と前後して、主にエネルギー供給の面から新しい都市づくりの研究が行われた。世界中で行われた実証実験やプロジェクトは、スマートメーターの普及と、自然エネルギーの活用拡大による電力のマルチソース化に貢献した。

2010年代半ば実験も一段落し、スマートシティプロジェクトは下火になった。しかし、入れ替わるようにモビリティ革命が起き、クラウドコンピューティングとIoTが結びつきデジタルトランスフォーメーションへとつながった。

そして2020年代、スマートシティは移動とデジタル社会を軸とした次のステージに入った。そう考えると、アルファベット(Googleの持ち株会社)やトヨタのスマートシティ構想、行政による都市OS・データプラットフォームに関する動きは時代の必然ともいえる。

東京都は「スマート東京実施戦略」として、まさにモビリティ革命やデータプラットフォーム構築、新しいスマートシティのプロジェクトを立ち上げている。

8月21日開催のオンラインセミナー「コロナ禍で高まるスマートシティへの期待と東京都のスマートシティ戦略」では、その概要や取組み状況が発表される予定だ。セミナー開催に先駆け東京都の3名(東京都戦略政策情報推進本部戦略事業部デジタルシフト推進担当課長の加藤幹也氏、同 戦略事業部先端事業推進担当課長の松永武志氏、同 ICT推進部次世代通信推進担当課長の向本圭太郎氏)に話を聞いた。

動き出したスマート東京

---:東京都は「スマート東京」という取組みを始めて いますが、まず、その取組みの概要について教えていただけますか。

加藤氏:東京都は2019年12月に「『未来の東京』戦略ビジョン」を発表しました。その中の目指すべき未来の姿の一つとして、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送るということが打ち出されています。 これを実現するため、東京のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する、これが東京版Society5.0「スマート東京」の取組みです。

その具体的取組みとして、本年2月に「スマート東京実施戦略」を定めていますが、これは5Gなどのネットワークを基礎に、行政と民間のデータが集まる官民連携のプラットフォームでデータの集約・解析を行い、幅広い分野でのサービスを展開するという、都市をまるごとIoT化するプロジェクトともいえます。

---:具体的にはどんな取組み・施策を考えているのでしょうか。

加藤氏:取組方針は3つあります。ひとつは5Gの推進とインフラの整備です。5Gにより確固たる「電波の道」を確保します。その上で、2つ目に目指すのが街のDXです。「自然・気象」「インフラ」「くらし・経済」などの様々なデータをデータプラットフォームで集約・解析しサービスに役立てます。3つ目が都庁のDXの推進です。ICT人材を増やし都庁自身のDXを進めデータ共有と行政サービスを向上させます。街のDX、つまりスマートシティ施策に関しては、いきなり東京都全体に広げるのではなく、最初に西新宿、南大沢(東京都立大学)、都心部、ベイエリア、島しょ地域の5エリアを先行実施エリアとして、さまざまなサービスを構築していきます。そして、成功したものから順次横展開していく事を考えています。

---:現状のプロジェクトはどんな段階にあるのでしょうか。

加藤氏:官民連携データプラットフォームとしては、最初の年度となりますので、まずはモデル事業としてデータ利活用実証プロジェクト事業の公募を行いました。8月21日のオンラインセミナーの時には採択した内容についてもう少しお話できると思います。3密回避・混雑回避、交通上の混雑、バリアフリー移動支援、防災情報といったテーマで公募をかけています。

民間主導で既存都市の再デザインと他エリアへの応用

松永氏:データ利活用実証プロジェクト事業以外にもエリアごとのプロジェクトも動いています。都心部では、3つのエリアのプロジェクトを支援しています。一つ目が大手町・丸の内・有楽町エリア、いわゆる「大丸有」エリアのスマートシティプロジェクトがあります。エリアマネジメントを通じて、国際競争力のあるビジネスエリアを構築します。ゼロから実験都市をつくるのではなく、既存都市を再デザインするという他エリアへの応用が期待される取組みです。

竹芝エリアでは、羽田やウォーターフロントへのアクセスの良さ、島しょ地域への玄関口という特性を生かした再開発を進めています。竹芝エリアのリアルタイムデータと、交通や防災といったサービス情報をつなぐ竹芝版都市OSの構築を目指します。

豊洲エリアでも都市OSをベースとしたスマートシティ構想を進めています。豊洲は工業エリア・商業エリア・観光エリア・住居エリアと多様な属性を持つ地域です。都市のさまざまな課題が集中しているエリアともいえます。竹芝とは違った都市OSになるものと期待されています。

---:スマート東京が目指す都市OSの特徴はなんでしょうか。

松永氏:都市OSの定義や機能はさまざまですが、その多くは行政主導のものだと思います。先行実施エリアの都心部で目指す都市OSは、民間ベースを基本としているのが大きな特徴です。さきほどの3エリアごとにエリアマネジメントをする団体があり、この団体が各スマートシティ構想を立案・推進していきます。これらの団体は、デベロッパー、企業、交通機関など地域のステークホルダーによって構成されます。

この意味で、この3エリアの都市OSはビジネスプラットフォームにも近いものかもしれませんが、根底にあるエリアの課題解決という目的に向かってデータ活用を進めて貰うための基盤となっていくはずです。また、エリア限定に閉じてしまっても横展開が難しいので、他エリアへの移植が可能であることも重要なポイントになっていくと考えています。

---:スマート東京では西新宿も重点地域という位置づけだそうですが、西新宿ではどんな取組みをされていますか。

向本氏:西新宿では「西新宿スマートシティ協議会」を立上げ、デジタル技術を活用したエリアの課題解決に向けた取組みを行っています。取組み西新宿は都庁の所在地でもあり、都庁のDX化の拠点ともいえます。昨年8月に策定した「TOKYO Data Highway」構想では、西新宿が重点整備エリアの1つに位置付けられており、スマートポールの先行試行設置などの取組み等を通じ、5Gの整備を積極的に進めています。

そのため、協議会には地元のエリアマネジメント団体である(一社)新宿副都心エリア環境改善委員会、新宿区に加え、国内大手通信事業者が多く参加しています。NTT東、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天、JTOWERの参画により、デジタル技術と5Gなど通信技術を活用して、このエリアの課題解決に向けた取組みが加速することを期待しています。

現在、協議会の下に仮説検証PT(プロジェクトチーム)、課題解決PT、都市OS検討PTの3つを立ち上げ、外部委員も交えた議論と検討が行われています。また、広報に係るタスクフォースも立ち上げ各PTとの連携を図りつつ、この取組みの情報発信について検討を進めています。現状は、仮説検証がほぼ終わり、具体的な課題解決の検討に向け、スタートアップ向けピッチイベントの実施、一般向けの事業公募を行う予定です。

---:現時点で取り組む課題にはどんなものがでていますか。

向本氏:現在、大きく次の4つをこのエリアで取り組むべきテーマとして整理しました。地域の魅力の創出、地域への参画促進、移動環境の整備及び新たなワークスタイルの拡充です。これらのテーマに対し、デジタル技術を活用し、具体的な解決策を広く募集する予定です。

「スマート東京実施戦略」については、今回インタビューした加藤氏、松永氏、向本氏の3名が8月21日開催のオンラインセミナー「コロナ禍で高まるスマートシティへの期待と東京都のスマートシティ戦略」で詳しく説明される予定です。

《中尾真二》

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