オートバックスセブン小林喜夫巳社長、BSサミット提携でネットワーク戦略を加速させる[インタビュー]

オートバックスとBSサミットが業務提携
オートバックスとBSサミットが業務提携全 7 枚

8月20日、株式会社オートバックスセブン(以下、オートバックス)がBSサミット事業協同組合(以下、BSサミット)との整備事業におけるローカルネットワークモデル構築に向け、包括的業務提携を発表した。提携の狙いはどこか。オートバックスセブン小林喜夫巳社長とBSサミットの磯部君男理事長、両トップに対してインタビュー取材を行った。

オートバックスの進化はオープンピットの歴史、BSサミットの理念は選ばれる工場

1947年に自動車部品の個人商店として創業したオートバックス。「まだカー用品というマーケットが無かった時代に、創業者の“マーケットを創造する”という強い思いのもと、ユーザーに作業を見せるオープンピット方式や、タイヤからオイル交換までを一括でできるサービスを整えました。また作業料(タイヤ工賃)をお客さまから頂いたのも我々が最初で、そうした取り組みが徐々にお客さまに浸透していったと思います」。

2016年に4代目社長となった小林喜夫巳氏はカー用品販売でありながらピット作業が重要だったと話す。カー用品マーケットの開拓に成功した後、モータリゼーションの伸長に合わせ、大商圏に向けたスーパーオートバックスの展開や国外への進出などを経て、2000年代に入ると、車検ビジネスもスタート。現在では年間約64万台を誇る事業に成長した。

「それぞれの時代で事業環境のステージは違ったが、ピットでできることを増やしていった結果、そこに集まって下さるお客様が増えてきました」

一方のBSサミットは、1983年に「RSサミット21研究会」として発足したのが始まりの車体整備におけるプロ集団として、現在約380の組合員工場を持つ全国組織だ。

「シャッターを開けていればお客さまが来る時代じゃない。その意味でDRP制度を導入したことで、この業界の活性化に貢献できた」。BSサミットを立ち上げた磯部君男理事長は、まだ日本に無かったDRP(=ダイレクトリペアプログラム)、ユーザーの事故発生時に損害保険会社が指定した提携修理工場に事故車両を誘導する仕組み、の導入をきっかけに鈑金という業態の地位を確立できたと言う。

「選ばれる工場であることが最重要だ。保険会社はもちろん、今後は依頼主すべてが工場を選ぶようになる。選ばれる工場になるためには、常に最高の技術と設備は不可欠だ。BSサミット組合員工場はそれらを満たす精鋭集団であり続けなければならない」と自負を語る。

『BS』には「ボディ・ショップ(車体整備工場)」の意味のほか「ベスト・サービス」を提供する「ベスト・ショップ」の意味も込められており、技術面・接客面でも最良・最優秀の頂点(=サミット)を目指すという磯部理事長の協同組合に対する強い想いが感じられる。

提携を促した“クルマの進化”と“特定整備制度”

それぞれ革新的な市場を創ってきた両者だが、取り巻く環境はまさに激変している。大きな要因は自動車の進化・高度化である。衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速防止装置に代表されるADAS(先進運転支援システム)はすでに標準装備となっている。そして今後はレベル3以上の自動運転機能が市販車に実装されてゆく。

このようなクルマの進化は国の車検整備のルールを変えた。従来のクルマを対象とした分解整備に加え、先進システム車両に対応した「電子制御装置整備」を範囲に拡大した「特定整備制度」がすでに、2020年4月1日より施行している改正道路運送車両法によりスタートした。自動ブレーキなどすでに高度化が進む車両に対してだけでなく、今後増えてゆく自動運転を行う「自動運行装置」付きの自動車の整備に備えようというものだ。

オートバックスセブン小林喜夫巳社長オートバックスセブン小林喜夫巳社長オートバックスセブン小林社長は急速に増える高度運転支援システム搭載車両に対してスピーディに整備対応することが重要でありそれが今回の提携を促したきっかけであるという。

「今後は新制度に対応するための場所や人の確保、技術力の向上や設備機器の投資もしなければなりません。クルマの進化とルール変更の中でスピーディにお客様の利便性を上げていくという課題がある中で、BSサミットさんと手を組む判断をしました」

一方で、板金修理に事業の主軸を置いてきたBSサミットにとっては、自動ブレーキシステムなどにより“ぶつからないクルマ”が増えて交通事故数が激減していることは直接の売上減に繋がり、その逆風の中で新しい制度への投資は大きな負担になっている。

「修理鈑金だけではない。事故が減るということは、ロードサービスなども含めて同時に減るということ」と磯部理事長は苦悩を露わにするが、一方で「ベスト・サービス」「ベスト・ショップ」の旗を降ろすわけにはいかない。BSサミットの磯部君男理事長BSサミットの磯部君男理事長

提携により全国に約600もの店舗網を持つオートバックスと協力することで、中破以上の高度な板金修理やガラス交換、エーミング、ロードサービスなどオートバックスが取り扱っていないサービスについて入庫が期待できる点は大きい。投資を活かせる機会が増えるのだ。

磯部理事長は「オートバックスさんのお客さまのクルマをお預かりする訳だから、緊張感を持って良い仕事で応えなければならない。たとえ今後“空飛ぶ自動車”が登場しても、修理できる体制を作る。“BSサミットに直せないクルマは無い”ということをオートバックスさんにはお伝えしたい」とベスト・ワークを誓った。

オートアフターネットワークづくりへ積極攻勢

オートバックスは、すでに4月にカーフロンティア(三菱商事グループ)との合弁会社「BEAD」社を通じて、タイヤECサイト『TIREHOOD』の共同運営に乗り出している。オンライン販売の強化と、すでに『TIREHOOD』が構築している約4,000店のガソリンスタンドとの連携が狙いだという。今回のBSサミットとの提携では約380の整備工場との連携を得た。しかも車検対応の整備工場であるだけでなく、オートバックスがカバーしていない修理や、24時間365日のロードサービスに対応している。

小林社長もBSサミットとの整備ネットワークづくりを「きっかけではあるが、車検対応だけではない」と言い切る。

「例えばオートバックスでできていないガラスの交換やエーミング(先進安全技術の機能調整作業)も今後必要になってくる。またBSさんがやっているロードサービスの7割と言われるタイヤやバッテリーのトラブルに対しても、将来協力し合える部分はあるのではないか」と、今回の提携が包括的に育ってゆくことに期待をにじませた。

オートアフター業界の雄が新たなネットワークづくりに動き始めることと、日本市場の新車販売の約半数を握るトヨタが地域のディーラー再編を促していることとは無縁ではあるまい。市場の縮小をピンチと見るのか、クルマの進化をチャンスと見るかの違いかもしれない。

「新車販売店という意味でのディーラーは淘汰されていく。今後無くなるのではないでしょうか」と小林社長は大胆なことをいう。

最近も、トヨタは直資の販売子会社5社を地元資本の販売会社への売却を発表している。一方オートバックスはフランチャイズに対する出資や買収など、ここに来て積極策が目立っている。

「トヨタも新車販売店のビジネスは衰退してゆくと見込んでいるのではないでしょうか。逆に私はまだまだオートアフター市場には成長の余地があると思っています」

今回の業務提携は、新しい電子装備をもったクルマへの整備の対応、車検の対応などがメインとなっている。最後に対応後の新しいステージでの展望についても聞いた。

「クルマの進化とともに、クルマの使い方も変わります。ユーザー発のリアクションに注目しています。そこに新しいマーケットが生まれ、そこにどう食い込むか。私たちはクルマの進化にしっかり対応し、安心安全にクルマに乗れる状態のサポートをしていかないといけないと考えています。その意味で足らない部分を補い合うことはとても重要なのです」

《インタビュー:三浦和也 まとめ:JCR松岡大輔》

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