ハイブリッド温存は業界延命につながるか…自工会の電動化戦略を検証する

トヨタ・ヤリス新型(HV)
トヨタ・ヤリス新型(HV)全 4 枚

日本自動車工業会(自工会)が14日、メディア向け説明会を開催した。11月の政府発表やその後の都知事による「脱ガソリン車」宣言で揺れる業界だが、自工会としてその立場や考え方を表明するものだった。

自工会の基本的な考え方は、菅総理の2050年までのカーボンニュートラル政策については「国際ポジションを高める英断」と称し、自動車業界とも政府方針に貢献するため全力でチャレンジする」とした。しかし、その実現には技術的ブレークスルーに加え、諸外国同様な政府支援・政策措置も欠かせないとも付け加えた。

自工会としてもカーボンニュートラルに舵を切ったことを明確にしたことになるが、自工会や日本の自動車産業が、全面的にEV・FCVにシフトすることになるかというと、そうでもない。政府方針も東京都の宣言も、ハイブリッド車(HV)は「脱ガソリン車」で排除される側には含まれていない。

日本はハイブリッドを温存する形でカーボンニュートラルを実現しようとしているのだ。では、どのような戦略でそれを実現するのか。もちろん、現時点では政府は「2兆円の基金を設立して10年間のイノベーションを後押しする」ことを述べたくらいで、予算の詳細や施策はこれからだ。自工会の立場では、現時点では「いずれロードマップを発表する予定」としたものの、具体的な戦略は「コメントできない」だ。

ただ、発表内容から戦略の大筋を見通すことはできる。まず、電動化パワートレインについては、短距離:BEV、中距離:HV/PHEV、長距離:FCVが基本的な考え方となる。具体的には、マイクロモビリティやパーソナルモビリティと呼ばれる小型車両をBEVとし、既存の自動車(軽・普通登録車)をHV/PHEVで対応する。トラックなど大型車両はFCVという用途と機能ごとに振り分ける。

つまり、ハイブリッドを温存しながら、電気自動車(BEV)はラストマイル移動や地域交通の足とし、旅客物流用途は水素による燃料電池車を当てる。これを基本戦略としながら、CNG、バイオ燃料、合成燃料など新しい燃料ソースも模索するという。

日本はハイブリッド技術が先行し、市場も形成されているので、しばらくはこの戦略で問題ないと言える。しかし、世界に目を向けるとそう楽観視はしていられない。カーボンニュートラルは各国が積極的に取り組んでいるが、それにハイブリッドを環境対応車両に含めているのは日本くらいだ。つなぎとしてハイブリッド車両を見直す動きもみられるが、根本的に内燃機関を利用するハイブリッド系車両では、長期的な政策・環境規制には対応できない。

国内では、ハイブリッドと電気自動車では、ハイブリッドのほうが環境負荷が少ないと言われている。バッテリーの製造時や廃棄時のCO2排出(主に火力発電による電力を使うから)が問題なのだが、両者の違いはわずかで、バッテリーの進化とともにトータルのCO2排出では逆転しつつある。

また、近年CO2排出削減や電動化戦略の議論で取り上げられるLCA(ライフサイクルアセスメント)は、さまざまな製品の製造から廃棄までもライフサイクルの環境負荷を見るための指標で、EUでは内燃機関と電気モーターの比較だけでなく、その元になるエネルギー政策の評価指標である。EUでは、産業全体のCO2排出をLCAで考えたとき、産業規模の指標である電力のソースを再生可能エネルギーにシフトする必要があると考えている。

車をハイブリッドにしようが電気自動車にしようが、電力を石炭などに依存していては解決にならないということだ。ただし、再生可能エネルギーへのシフトが進めば、内燃機関より電気モーター(あるいは水素)のほうがCO2削減が進む。つまり、脱炭素社会を目指すなら、再生可能エネルギーを拡大し内燃機関は縮小する方向となる。

国内市場だけをみるなら、2050年までハイブリッドでいけるかもしれない。しかし、内燃機関やハイブリッド技術負けている中国やEU勢の戦略的な思惑があるとしても(あるからこそ)、海外市場では通用しない。とはいえ、国内では政策的にもハイブリッドが温存される下地ができてたともいえる。自工会・自動車産業は、これをただの延命として捉えるのではなく、次への投資・変革につなげることが期待される。

トヨタほど体力があれば、FCVや全固体電池で巻き返す戦略をとれるが、そうでないところは内燃機関・ハイブリッド・EV・FCVの全方位戦略は難しい。各社なりの活路をどこに見出すか、高度な戦略を求められている。

《中尾真二》

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