【マツダ MX-30】開発目標は“気軽に滑らかに”…開発者[インタビュー]

マツダ MX-30
マツダ MX-30全 10 枚

デザインをはじめソフトの領域で注目を集めているマツダ『MX-30』。しかしハイブリッドシステムをはじめ多くのハードにもこだわりを持って開発されている。そこでトランスミッション開発担当者にその特徴などについて話を聞いた。

普通に走った時に効率良く

----:早速ですが、MX-30のハイブリッドシステムについて、制御面ではどういったことを重視して開発したのでしょうか。

マツダパワートレイン開発本部走行環境性能開発部第一走行環境性能開発グループ主幹の津田顕さん(以下敬称略):とにかくお客様に滑らかに乗ってもらう、気軽に滑らかに走行してもらえるよう、そこに特に注力して制御しています。

ですので、普通に走ってもらって、結果としてその時に一番エネルギー効率として最適になるような制御を裏で緻密にしています。走行中のエネルギー、バッテリーの充電状態をはじめ、走行条件等色々計算しながらエネルギーの収支も考えて、いまはアシストした方が良い、いまは発電を止めてバッテリーから電源を供給した方が良いなど、その都度考えながら制御しているのです。

----:そのように切り替えを行う際に、違和感を覚えないほど良く出来ていますね。これはコンピューターの演算速度以外に、人の感覚がすごく入っているようにも感じたのですが、その辺りはいかがでしょう。

津田:走るところでは、躍度(やくど 。加速度の変化率)を使い、マツダとして方向性は同じにしつつ、その変化率はMX-30全体の商品のイメージに合わせ、全体としてマッチするようにチューニングをしています。ブレーキを踏んだ時も、モーターで回生しながらブレーキとの配分を変えるのですが、そこも緻密にエンジニアがチューニングしています。マツダはモデルベース開発と呼んでいますが、最後は人がしっかり乗って感覚に合うような形で仕上げています。

滑らかで心地良い走り

----:いま仰ったMX-30全体の商品イメージとはどういうものですか。

津田:最初にお話した、気軽に乗ってもらえるというところです。全体的に滑らかで心地の良い走りに合うようにパワートレインもチューニングしています。

----:例えば、『マツダ3』とは具体的にどこがどのように違っているのでしょうか。

津田:本当に微妙なところなのですが、アクセルを踏んだ時の加速の初期の立ち上がりなどのセッティングを微妙に変えています。

----:実際に運転すると、とても乗りやすかったのですが、アクセルの踏み込みに対して最初のトルクの立ち上がりがちょっと急かなという印象がありました。

津田:発電した電力をアシスト側に動いている時であっても、エンジンのトルクに上乗せはしていません。出力を100出すとしたらエンジンが90でモーターが10など配分を変えています。それと無発電といって走行中は普通のクルマですとオルタネーターで発電し、その負荷がかかっているのですが、そのぶんをバッテリーから必要な電源を供給することで、走行中は発電しなくてもよくしています。そのぶんの発電負荷が下がるといったところが影響しているかもしれません。

----:MX-30には二駆と四駆がありますが、制御は変えているのでしょうか。

津田:微妙にチューニングのところでは変わっています。基本的な制御のストラテジーとかシステムとしては変わりませんが、味付けの部分で違っています。

----:四駆ですからリアに駆動がかかるので変えていると思いました。

津田:基本的に四駆になってもエネルギーの収支を考えているのは変わりません。もちろん走行にかかる抵抗は二駆と四駆で変わって来ますが、そこを踏まえて最適になるように制御をしています。

効率化の苦労

----:今回の開発において一番苦労したところはどこでしょうか。

津田:エネルギーマネージメントの制御を考えるところは苦労しました。小さいモーターと小さいバッテリーですから、あまり出来ることは多くはありません。だからこそ賢くエネルギーをしっかり回収出来る時に回収して、使える時もどこに使ったら一番効果が上がるかを制御することに苦労しました。これは色々な条件下において一番効率が良く、優先度が高いところにエネルギーを配分出来るようにしたモデルベース開発が役に立っているという意味合いでもあります。

----:そこからMX-30の味付けをしていくわけですね。

津田:そうです。エネルギーマネージメントの制御がベースにあって、MX-30全体のイメージに合うようにしていくのです。

----:具体的にどのようにするのですか。

津田:最後の味付けはエキスパートエンジニアの感覚に頼っているところが大きいです。クルマの全体感としては走りだけではなく、走る、曲がる、止まるというダイナミクスに関わる各部門のメンバーと共有しながら進めていますので、そこは議論しながら、アクセルを踏むところだけではなく、クルマのダイナミクストータルとしてこういう雰囲気だよねというところを共有しながら開発していきました。

----:竹内さん(マツダ商品本部主査の竹内都美子さん)は、360度すべての領域において気持ち良さを感じられるように作りたかったと仰っていました。これはMX-30の肝だと思っていて、それを踏まえるとハイブリッド制御はテストドライバーの感覚をどう捉えるのかがすごく難しく思うのですが。

津田:マツダの中では“匠”というエンジニアを育成しています。マツダでは大きくは、設計部門と実研(実験研究)部門に分かれていますが、設計、実研、両方に匠はいます。つまり、マツダとして大切にしないといけないクルマ作りの考え方を理解して、それを形にするために、感覚の領域を設計メンバーに分かりやすく伝えたり、設計の立場から、例えばエキスパートドライバーの感じていることを汲み取ったりしています。

例えば、エキスパートドライバーがいっている、こんなクルマを作りたいねというものづくりにつながる部分を、エンジニアに通訳するようなイメージです。実は私もエキスパートドライバーの資格を持っているので、(テストドライバーが)いっていることはすぐにわかります。そことモデルベース開発はマツダの両輪として上手く噛み合うように動いています。

----:最後にMX-30について一言お願いします。

津田:とにかく普通に気軽に乗ってもらえるよう、その心地良い走りを最高の効率で実現しています。そのために黒子として影でハイブリッドシステムはしっかり働いているのです。なかなかアピールするのは難しいのですが、お客様には本当に自然に乗ってもらいたいという思いで開発しました。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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