「ヤマハSRはすでに文化」生産終了も人気が再燃、その理由をプロショップに聞いた

ヤマハSRメンテナンス/カスタムショップ「ナインゲート」
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ヤマハ発動機は3月15日に発売された「ファイナルエディション」を最後に『SR400』の国内向け生産を終了するとアナウンスした。2月の発表から数日で6000台を超える予約があり、この時点で国内の年間販売台数の2倍以上となった。

1978年の登場から約43年間、基本設計を変えることなく販売され、いつの時代も一定の支持を受けてきた同車の魅力とはどんな部分にあるのか?そしてSRの「これから」とは…SRのメンテナンス/カスタムを得意とするショップ「ナインゲート」の細井啓介氏に伺った。

ロングセラーの秘密は“程よさ”

「SRが長年にわたって支持されたのは『程よい性能』だったからだと思います。突き抜けたものがない代わり、どんな使い方をしてもそれなりに楽しめる懐の深さがある。単気筒なので車体は絶対的にコンパクトでスリムですし、エンジンの鼓動やトルク特性が人間の感性にすごくフィットする。どの回転域でスロットルに開けてもパワーが急に立ち上がることがないため、初心者も安心して扱えます。もっとも、いまでこそ注目度の高いSRですが、僕が二輪免許を取得した80年代末頃は目立たないバイクでした。当時はとにかくハイパフォーマンスなレーサーレプリカが若者に人気だったので」(細井氏)

78年発売の初期モデルはディスクブレーキが採用されていたが、85年にドラムブレーキへと「逆進化」。その後、2001年から再びディスクブレーキが採用された。78年発売の初期モデルはディスクブレーキが採用されていたが、85年にドラムブレーキへと「逆進化」。その後、2001年から再びディスクブレーキが採用された。
SRはもともとエンデューロバイクである『XT500』をベースにしたライトウェイトスポーツとして登場。当時の国産車では珍しい大排気量単気筒エンジンを搭載するロードスポーツバイクとして一定の人気を集めた。しかし、その後すぐにレーサーレプリカブームが到来。各社が異常なハイペースで新型車をリリースする80年代後半になるとSRの影はめっきり薄くなってしまったのだ。

「SRに再び大きな脚光が当たるのは90年代中頃です。ファッションの一部としてバイクに乗る若者が急増したことで市場動向が激変したんですね。当時流行だったライダースジャケットと親和性の高かったSRは、カフェレーサーなどのカスタムのベースとして若者たちの憧れの1台になりました。その後、都市部では「ストリートカスタム」という新たなジャンルのカスタムも生まれ、様々なメーカーからSR用のカスタムパーツが販売されました」(細井氏)

SRの独走を競合他社が指を加えて黙っているはずもなく。ホンダは『CL400/CB400SS』、スズキは『テンプター』を発売するなどしたが、いずれもSRの牙城を崩すことなく短命に終わっている。

ライバルが超えられなかった造形美

必要にして十分な性能と空冷単気筒ならではの機能美で多くのライダーを魅了するエンジン。2009年に燃料供給方式がキャブレターからフューエルインジェクションに変更されるという大きな変革があったが、ボア×ストローク比などのプロファイルは43年間不変だ。必要にして十分な性能と空冷単気筒ならではの機能美で多くのライダーを魅了するエンジン。2009年に燃料供給方式がキャブレターからフューエルインジェクションに変更されるという大きな変革があったが、ボア×ストローク比などのプロファイルは43年間不変だ。
「個人的に大排気量エンジンを搭載した後発のライバルとの違いはエンジンの造形美にあったと思います。SRはドライサンプ方式の空冷SOHC 2バルブであることに加え、キックスターター式で、エンジン脇に始動用のモーターも付いていない。とてもすっきりしています。ライトウェイトスポーツはやはりシンプルであるほど魅力的です」(細井氏)

SRは基本設計が古いため、運動性能や快適性といったパフォーマンスでは最新モデルにはっきりと劣る。しかし、それはSRの面白さと表裏一体と細井さん。

「高速道路をSRで連続走行すると振動でどっと疲れます(笑)だけど、都内と箱根を往復する程度の距離のツーリングでもすごく充足感がありますね。あと車体が軽くてエンジン特性もおっとりしているので、のんびり下道を走ってもストレスを感じにくいです。走行中に良い風景と出会ったら気軽にマシンを止めて写真を撮ることができる。速いバイクや重いバイクだと、一度走ってしまうと止まることが億劫になりがちですから。そういう意味では細い山道の多い日本を旅するにはぴったりなバイクだと思います」(細井氏)

SRを取り巻くシーンはひとつのカルチャー

先述のように、ひと頃はカスタムのベースモデルとして若者に人気だったSR。近年はそうした状況にも変化が見られるという。

「あくまで体感的なものですが、現在は老若男女問わず幅広い層に人気ですね。どちらかというと若いライダーはクラシックなスタイルに、年配ライダーは身の丈にあった使いきれる性能のバイクとしてSRを選んでいることが多い印象です。カスタムの傾向も少しずつ変わってきていますね。従来のようにキャブレター仕様の中古車をゴリゴリにカスタムするコアなユーザーがいる一方で、見た目は極力オリジナルを尊重しつつ、設計の古さからくる弱点だけを改善してブラッシュアップさせるスタイルも増えてきました。いわゆるファインチューンですね」(細井氏)

SRのメーター周り。今となっては珍しい2連アナログ式であるSRのメーター周り。今となっては珍しい2連アナログ式である
歴史のあるバイクだけにオーナー同士による交流も盛んだという。単一車種としてはかなり規模の大きいオーナーミーティングが全国各地で定期的に開催されているそう。

「残念ながら新車の生産は終了しますが、カスタムをはじめとするSRのシーンは今後もあまり変わらないと思っています。SRはすでにユーザーやカスタムビルダーたちの間で『文化』として根付いているので」(細井氏)

初期のモデルは電装系の純正部品が欠品するなど、維持が難しくなってきているが、90年代以降なら車体も部品もまだまだ豊富に流通しているそう。ただし、中古相場は少しずつ上がっているので、欲しい人は早めに入手するのが吉だ。

ナインゲート代表 細井啓介氏 二輪部品メーカーの設計・営業を経て。2016年に東京都東久留米市に「ナインゲート」を開業。ヤマハSRをメインに国内外のバイクのメンテナンスやカスタムを手掛ける。ナインゲート代表 細井啓介氏 二輪部品メーカーの設計・営業を経て。2016年に東京都東久留米市に「ナインゲート」を開業。ヤマハSRをメインに国内外のバイクのメンテナンスやカスタムを手掛ける。

《佐藤 旅宇》

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