「トヨタとテスラが再び提携」は誤報か---可能性を検証する

テスラ・モデルY
テスラ・モデルY全 3 枚

『朝鮮日報』が3月末、「トヨタとテスラが小型SUVの共同開発の最終調整に入った」と報じている。この報道はメキシコの自動車関連媒体が取り上げるなどしているが、記事というより噂話に近い。しかし、興味深いテーマなので掘り下げてみたい。

記事は、「トヨタのプラットフォームを使い、テスラがEVパワートレインとソフトウェアを提供する形で、小型SUVを開発する」と報じている。さらに「トヨタは2020年に独自プラットフォームを使ったEVの発売を発表している。テスラもまた3万ドル以下の廉価普及モデルの市場投入を発表している」と続き、トヨタのeTNGAを使ったEV(SUV)がテスラパワートレインで実現することを示唆している。

しかし、その根拠や関連についての明言はない。また、『朝鮮日報』はアップルカーについて現代グループとの提携で微妙な飛ばし記事を報じている。こちらは世界中の各紙が後追い報道をしたが、結局現代グループはテスラとの交渉そのものを否定している。交渉途中の情報が漏れたためご破算になったのか、本当に交渉がなかったのかは不明だが、今回のトヨタ=テスラ提携も注意して読む必要がある。

仮に、この話が本当だとしたら、トヨタとテスラにはどんなメリット、あるいは狙いが考えられるだろうか。トヨタは次世代車両やモビリティ革命への市場変化に対して「全方位」で取り組むと表明している。その中では、HVもEVもFCVも市場に合わせた調達戦略となるはずで、eTNGAに載せるパワートレインがマルチサプライヤーであっても不思議はない。

トヨタ・アイゴXプロローグトヨタ・アイゴXプロローグ

とくにFCVは、海外勢に先行されているEV市場を巻き返す切り札でもある。半面これからの投資も莫大で、トヨタにとってEVとて全力をかけて取り組む対象ではない。EU勢がHVを捨ててEVに賭けるなら、トヨタはEVを捨ててその次のFCVに賭ける戦略だ。EVも、本来なら共同開発する必要はないくらいのリソースを持っているはずだが、各社との共同開発は、投資とリスクを分散させる効果が狙える。

テスラの視点では、自社工場の稼働を考えたら出口は多いほうがいい。自社ブランドだけのビジネスにこだわる理由はない。イーロン・マスク氏は、以前から台車・パワートレイン・バッテリー、もちろん完成車の供給先について誰とでも組む用意があると述べている。

トヨタ・アイゴXプロローグトヨタ・アイゴXプロローグ

日本では、いまだにテスラはイロモノ扱いで品質や販売体制、ビジネスモデルに疑問を持つ層が少なからず存在する。品質については、文化的、あるいは日本国内基準で相容れない部分はある。しかし、トヨタブランドで製品化されれば、市場の評価は変わるだろう。トヨタへのパワートレイン提供は、テスラとしては、完成車販売以外の日本市場開拓のよいスキームとなる。

とはいえ、この報道は鵜呑みにできない部分も多い。お互いに提携の動機は十分にあるが、方法論では課題が多い。まず、eTNGA+テスラパワートレインのSUVはどんな車両になるのか。朝鮮日報の記事では、トヨタとスバルが共同開発しているSUVか、欧州で発表されたトヨタ『Xプロローグ』コンセプトの量産仕様あたりを示唆していると思われるが、この可能性は低い。

それ以外の新型だとして、どの市場を狙うだろうか。中国・EUでは、テスラそのものが順調に売れている。テスラが発表している廉価普及モデルは、ギガキャストとCATLバッテリーによりコスト的な課題はクリアできる状態にある。トヨタと組んで廉価モデルを作る必然性は低い。日本と北米に目を向けると、国内はスバルとの共同開発SUVがある。北米向けに「テスラの心臓を搭載したトヨタ車」として市場にアピールできる可能性が残る程度だろう。

最大の課題はソフトウェアだ。記事では、ソフトウェアはテスラが供給としている。テスラの車載ソフトウェアは、従来のECUとはアーキテクチャが異なる。自動運転を想定した統合ECUをベースとしたアーキテクチャを採用している。ソフトウェアがテスラ製となると、コックピットのHMIやドア・灯火類他の制御系もテスラ車となる。

さらに車両データを管理するクラウドプラットフォームをどうするかという問題もある。テスラ車両をトヨタのMSPFに接続することは技術的不可能ではないが、テスラは自社クラウド経由を主張したいはずだ。

EVに限らずCASE車両はクラウドサービスとソフトウェアアーキテクチャが付加価値の源泉となり、商品戦略の中心となる。ここを外部調達にしてよい製品が作れる時代は終わりつつある。この視点で見ると、ソフトウェアを押さえている企業がその車両の企画や設計に責任と主導権を持つ。合意が記事どおりなら、トヨタとテスラはお互いどう落としどころを見つけるのか、非常に興味がある。

《中尾真二》

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