【ボルボ S60 PHEV 新型試乗】三菱PHEVの思想とは似て非なるものだった…中谷明彦

ボルボ S60 リチャージプラグインハイブリッド T6 AWD インスクリプション
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ボルボは2019年から全モデルを電動化し、2019年から2021年の間に5台の電気自動車を発表するとアナウンスをしている。今回、そんな中で新しく追加設定された『S60 リチャージプラグインハイブリッド T6 AWD インスクリプション』を北陸方面の一般道で試乗してきた。

S60はミドルクラスのセダンであり、日本国内での使用を考えるとちょうどいいサイズといえる。この上位にはプレミアムセダン『S90』があり、それも非常に完成度が高く感心させられたのだったが、S60はS90を一回り小さくしたようなパッケージングとなっている。

外観的には、新世代ボルボの斬新なスタイリッシュなデザインが採用されていて、特に中国の吉利集団(ジーリー)傘下となってからは潤沢な開発予算に後押しされたのか、各モデルが非常に高い完成度を示し世界中で高く評価されている。

S60もその流れの中で多くの開発予算が注ぎ込まれ、電動化モデルとしての設定がなされたと言えるだろう。

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ガソリン車と電動モデル車に差を与えない戦略的な発想

今回試乗した「リチャージPHEV」は、いわゆる「プラグインハイブリッド」なのだが、車体のセンタートンネルにバッテリーを搭載。フロントにエンジン、リアにモーターを搭載し四輪駆動モデルとして構成されているものだ。

試乗車は「S60 リチャージプラグインハイブリッド T6 AWD インスクリプション」というモデルで、ガソリンエンジンは2リットルの直列4気筒にインタークーラー付きターボチャージャーと電動のスーパーチャージャーを備えた253psを発生するものである。

最大トルクも350Nmを1700回転から5000回転の範囲で発揮でき、これだけでも相応な動力性能を備えていると言えるわけだが、加えてフロントに34kWのモーターを搭載。リアにはさらにパワフルな65kWのモーターを搭載しPHEVシステムを構成している。

モーターの最大トルクはフロントモーターが160Nmを0回転から2500回転まで発揮でき、リアモーターは240Nmを0回転から3000回転の間で発揮できる。

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ここで特徴的なのが、リアモーターが7000回転まで回る高回転型であること。これはモーターに最高速度180km/hをカバーできるという特性を与えていることによる。

ボルボ車は、ICEガソリンエンジン車も含め最高速度を180km/hに制限する政策を世界中で始めており、これはガソリン搭載車と電動モデル車の最高速度に差を与えないという今後の戦略的な発想によるものといえると思う。搭載バッテリーはリチウムイオン電池を96セル搭載し、350Vの電圧をかけている。

機械的に結合されていないという意味においては三菱と似てるが…?

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トランスミッションは8速ATを搭載している。三菱の『アウトランダーPHEV』や『エクリプスクロス PHEV』 などに搭載されているものは同じPHEVという呼称でも、モーターが直接ホイールを回すのでトランスミッションを持たない。

ボルボのPHEVは、ガソリンエンジンと駆動モーターに8速ATを組み合わせて通常はハイブリッド車として走行するが、コクピット中央にあるモニターを操作してドライビングモードを選択することができる。表示されるのは基本的にはデフォルトが「ハイブリッドモード」という日常運転モード。また「ピュア(Pure)モード」というEV走行も状況に応じて可能になるモード、そして一番下にはスポーティーな「パワーモード」というものもある。加えて「コンスタントAWD(四輪駆動)モード」もあり、これは後輪のモーターを常に駆動してフルタイム四輪駆動のような走行性を与えるものと言える。

フロントのパワートレインとリアのパワートレインが機械的に結合されていないという意味においては三菱のPHEVと似ていると言えるが、制御や完成度を試乗しながらレポートしてみたいと思う。

高級車に相応しい乗り味

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一般道においては、いわゆる電気で走るEVモード走行シーンはほとんど得られない。基本的にハイブリッドモードはエンジンで発進するのをモーターがアシストするような形の走行パターンでエンジンは8速のギアを適時選択して最適な駆動力を与えている。したがって、「EVモードで何km走れる」(EV走行可能距離:45.1km カタログ値)みたいな話は今回はできないのだが、全体的にハイブリッド車として燃費を稼ぎ環境性能を高めるような制御となっている。

カタログによれば満充電でピュアモードを選択すれば、排出ガスはまったく発生させずにWLTCモードで45.1kmをEV車として使えると記載があるが、実際にはエアコン作動や坂道、発進加速などアクセル操作要求等によりエンジンが始動する頻度が極めて高く、完全にEVとして走行させるには相当に配慮した運転操作が必要だ。

今回の北陸試乗会場には充電設備はなく、試乗車は充電されていない状態で貸し出されていたため、EV走行できるのは低速発進など極めて狭い条件の時に限られていた。三菱のPHEVでは「EV」スイッチが備わり、それを選択すればエンジンを一切掛けずにEV走行をバッテリーの充電状況に応じて安定して行える。ちなみに市街地で燃費計によって燃費の状況を見てみると、1リットルあたり16km前後の燃費性能を示していた。

高速道路に入り加速を試みると、後輪モーターにも強力な駆動力が発揮され4WDらしいトラクションの高い力強い加速を引き出すことができる。高速道路の流入などでは非常に楽に車速を乗せることができた。また、四輪駆動モードを選ぶと常に四輪に駆動力が加わり直進安定性や走行の重厚感のようなものが感じられ、高級車に相応しい乗り味になっているといえる。

駆動配分は、まず後輪にかかるという印象

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北陸道のはずれには「千里浜なぎさドライブウェイ」という場所があり、海岸沿いの砂浜を走れる区間がある。そこへ立ち寄ってみると四輪駆動車としての性能の如何も確認できた。砂浜であるだけに非常に駆動力が失われやすく二輪駆動の一般車だと立ち往生してしまうような状態だが、四輪駆動システムによってスタックすることなく波打ち際を走ることが可能だった。

駆動配分の方式としては、FF前輪駆動ベースの場合だと通常まず前輪が駆動し、そこが滑ると後輪に伝えるというのが一般的だが、ボルボの場合は駆動力はまず後輪にかけている。実際、車の発進において加速Gが発生すると後輪に荷重が移るので後輪を駆動する方が効率は良い。

従って、発進時には積極的に後輪を駆動するというようなことがわかるのだ。後輪が砂で若干空転を起こすと前輪も駆動力を強めてスタックしないようにしていることが感じ取れた。

黙って乗せられたらPHEV車であることがわからない使い勝手の良さ

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次にセダンとしてのパッケージングを見てみると、全長が4760mmの中でホイールベースは2870mmとられている。この数値以上に後席の居住空間が広くデザインや配色の良さもあって非常に快適な居住空間が得られていた。特筆すべきはリアシートバッグが倒せてトランクスルーとして大きな荷室容量が確保できている点である。

通常のハイブリット車やPHEV車などは、バッテリーやコンバーターなどの電気系回り部品がリアアクスル上に置かれていて、トランクルームと居住空間が完全に分離されてしまっている場合が多い。トランクスルー機構がないために寸法の長い荷物を積むことができない。

しかしこのS60は、普通のガソリン車と同じように長尺物もトランクスルーで、例えばスキーの板なども収納できるという使い勝手の良さがある。黙って乗せられたらPHEV車であることがわからないような使い勝手の良さを確立できていた。

CHAdeMO急速充電未対応。その理由は?

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今回、リチャージの充電機構を試すことはしなかった。それはCHAdeMOの急速充電に対応していないためで、充電機構としては一般的な200Vの家庭充電での充電システムのみを装備している。そのために購入にあたっては購入家庭に充電システムを設置するよう推奨しているのである。

またPHEVはガソリンを入れておけば走行できる。そうした車が急速充電施設を占有してしまわないように、今後BEV(バッテリー駆動電気自動車)の普及を考える上では充電インフラを有効活用する上では必要な考え方と言えるのかもしれない。

三菱は大きなバッテリーを搭載し基本はEVとして走行することにより、レンジエクステンダーとしてのPHEVなわけだが、ボルボのPHEVはガソリンエンジン主体として長距離を環境に配慮しながら走るためのPHEVということで、両者の思想は似て非なるものだった。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★

中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。

《中谷明彦》

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