【メルセデスベンツ Sクラス 新型試乗】日本に最大限アジャストしたSクラス…中村孝仁

メルセデスベンツ Sクラス 新型(S400d 4MATIC)
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見た目とは裏腹にずいぶんと新しくなった

「すみません、ハンドル切ってもらってもイイですか?」と、一緒に撮影をしていた某雑誌の編集部員が声をかけてきた。

一瞬??だったのだが、聞くとリアの操舵する様をビデオ撮影したいのだと…。そうだった。このクルマは4輪操舵するのである。何でも最大で4.5度ほど(逆位相の場合)切れるという。後で他の人にステアリングを切ってもらい、その様子を見てみたが、目ではっきりとわかるほど大胆に切れる。おかげで全長5210mmの巨体でも最小回転半径は5.4mとかなりコンパクトに収まるから、街乗りでもかなり重宝すると思う。

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それにしても新しい『Sクラス』は見た目とは裏腹にずいぶんと新しくなった。見た目はというと、一瞬で過ぎ去ったクルマを見て新型か旧型か聞かれてもすぐには返答に困るかもしれない。少なくともエクステリアのデザインは、そう大きくは変えていない。それでも例えばドアハンドルなどはキーを持って近づくと自動手にボディからせり出す最新のものになっている。

もっとも素晴らしく利便性が良いかというとそうでもない。例えばドライバーは車両内にいて、パッセンジャーが外から近づいてもキーは車内にあるわけだから、ドアハンドルは当然せり出してこない。仕方がないのでちょっとしたドアハンドルの凹みを押すとせりだし、さらに通常のドアと同様に手前に引いてドアを開けるというダブルアクションが必要になる。まあ、セーフティ的には良いのだと思うが…。

乗り込むと肌で感じられる正常進化

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今回試乗したのは「S400d」と呼ばれる、現行日本市場のSクラスでは最もベーシックなモデルである。とは言うものの、素の価格でも1293万円で試乗車はオプション込みで1541.8万円と結構なお値段である。

先代からあるOM656というコードネームを持つ3リットル直6ターボディーゼルは、今もってこれを凌駕するディーゼルに遭遇していないほど、完璧な動力性能を持っている。電動化が声高に叫ばれる今、一切のその種のデバイスを装備していないにもかかわらず、何ら不都合は感じさせない。

VWが『ゴルフ』でBEVとディーゼルのLCA(ライフサイクルアセスメント)におけるCO2排出量を比較した結果では、案外差はなく、発電構成が火力に偏っている日本などでは却ってディーゼルの方がCO2排出量では優位かもしれないのである。だからいくら白い目で見られても大手を振ってディーゼル車を乗り回せばよい(今のところ)と考えている。

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新しいSクラスは室内に乗り込むとその新しさが肌で感じられる。センターコンソールには12.8インチの有機ELディスプレイが鎮座する。ディスプレイのサイズだけを競うのはナンセンスで、特にナビゲーションは進行方向にサイズが大きいのが良くて、その点ではテスラ『モデルS』や最新のボルボなどはナイスであるのだが、ディスプレイのサイズを拡大しましたと大見得を切ったものの、天地方向は小さくやたらと横方向に伸ばしているメーカーもあって、意味のないサイズ拡大ならやらない方がまし(それでコストが抑えられるなら)とも思えるものが散見される。その点新しいSクラスのそれはまさに正常進化で、見易い。

一方で操作系はインターフェイスが変わって、基本すべてがタッチ式もしくはボイスコマンドになったので、初めて乗るとだいぶ戸惑う。先代までは指でなぞって操作できるマウスのような機能を持ったコマンドだったが、今はそれは無い。このあたりは慣れの問題もあると思うので、時間が解決するものだろう。

日本に最大限アジャストした乗り心地と乗り味

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冒頭日本市場に最大限アジャストしたと書いたのは、乗り心地と乗り味だ。ニューモデルは全車エアマチックが標準装備となった。それに4MATIC(四輪駆動)も全車標準である。で、問題にしたいのは乗り心地のスイートスポットがどうも日本の国情に合ったスピードレンジに下がっているのではないかという点である。

その昔、メルセデスの海外試乗会に行くとオーバー200km/hの世界で極上の乗り味を堪能できた。その分ガシっとした強固な脚の作りは中低速ではそれなりのハーシュネスを伴い、魔法のじゅうたん的(乗ったことはないが)“超が付く快適さ”はより高いスピードレンジで堪能できたように思う。翻って最新のSクラスは今回試乗する限り、60~80km/h程度の乗り味が極上であった。勿論その上だって、下だって、文句なくライバルを凌駕していると思うが、それでもこと乗り心地に関しては敢えて、快適と感じさせるスピード領域を下げている印象が強い。

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考えてみればドイツだって今や速度無制限のアウトバーンなどほとんどなく、大抵は130km/hで規制がかかる。それに今時無暗に飛ばすのは時流に反するというわけで、そのあたりも作る側がそれなりに考慮しているのではないかと感じたわけである。日本市場も一頃と比べて高速での平均スピードが下がっていると感じる人も少なくないと思う。

ライバルと呼ばれるドイツのハイエンドメーカーが競合車を出してはいるものの、まあ、個人的な感想としてはこのセグメントで買うならこれしかない…というのが偽らざる思い。ジャガーも消えてしまったことだし…である。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《中村 孝仁》

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