いまやすっかり当たり前になったコネクテッドカー。HDマップを利用した運転支援機能やOTAソフトウェア更新も各メーカーから登場するようになり、これからはクルマのオンライン化による差別化が問われる時代になる。日産自動車 コネクティド技術開発&サービスオペレーション部 部長の村松寿郎氏に、コネクテッドカーへの取り組みについて聞いた。
村松氏は4月23日開催のオンラインセミナーコネクテッド・OTA2021(無料)に登壇し詳細を講演予定だ。
グローバル対応のコネクテッドサービス用クラウド
---:コネクテッドサービス用のクラウドプラットフォームを、ルノー・日産・三菱自動車アライアンスで統一されましたね。
村松氏:ルノーと共同開発で、2019年3月に「アライアンス インテリジェント クラウド」というクラウドサーバーを新たに構築しました。インフィニティブランドも含めた日産のコネクテッドカーは、この新しいクラウドプラットフォームにつながっていることになります。
そこで提供されるサービスは、OTAのアップデートを含めて、いわゆる情報提供だけではなく、リモートのコマンドによるクルマの操作や、クルマの状態を見ることができるようになります。前の世代のコネクテッドサービスでも一部提供していたのですが、電気自動車の場合は、例えばクルマに乗る前にエアコンを操作する「乗る前エアコン」や、バッテリーの充電状態をチェックするなど、以前からの機能がさらに進化しています。そのほかにも、リモートでのドアロック・アンロックや、スマートフォンアプリを介した連携によってサービスの拡充をしています。
---:ルノーと共同で、クラウドをグローバルで統一してサービスを提供していく、ということでしょうか。
村松氏:そうですね。やはりクラウドシステムの開発にはそれなりのコストと、人も含めた資産が必要なものですから、アライアンスのスケールメリットを生かして共同開発しています。
---:グローバルで発生しうるニーズに対応できるような、さまざまなAPIや機能が盛り込まれているのでしょうか。
村松氏:そうですね。ベースとなるプラットフォームはグローバルで共通です。その上で、日米欧それぞれの地域で異なった要望や、ディーラーおよびお客様リストとの連携はシステムが異なりますので、そういった連携を地域ごとにカスタマイズするといった対応をしています。
---:顧客サービスも考慮されているんですね。
村松氏:お客様のクルマとつながることによって、カーライフを通じてサポートすることができ、お客様にとっては安心なサービスになりますし、我々としても、よりよいサービスが提供できます。
---:地域として日米欧を挙げていらっしゃいますが、中国は含まれていないのですか?
村松氏:中国は、今までローカルのサービスは提供されていたのですが、これから連携を進めていきます。とはいえ中国は、マーケットもそうですし、技術的にも特殊なところがありますので、中国ユニークなところは結構残ると思います。
コネクテッドによって運転支援が進化
---:運転支援機能が進化するにつれて、地図データを利用した運転支援機能が最近増えています。スカイラインに実装された「プロパイロット2.0」は、HDマップ(※)を利用していますが、HDマップの配信もこのクラウドプラットフォームを通じて提供されるわけですね。
※HDマップ:高精度3次元地図データ。車両の視点から見た3Dの点群データで構成されており、自車位置から対象物までの距離を高い精度で推測するのに用いられる。日本国内においては高速道路および自動車専用道路がカバーされている(2021年4月時点)。
村松氏:はい、そうですね。
---:新型のノートにも、ナビ連携のプロパイロットがありますが、これはHDマップとは違うんですか?
村松氏:はい。HDマップではなくて、いわゆるナビ地図です。そこからプロパイロットに連携できるデータを出しています。
---:ルートの先のほうの道路の曲がり率をみているんですね。
村松氏:そうです。
---:これまでのプロパイロットにはナビ連携機能がありませんが、ノートのプロパイロットとは、どういうシーンで差が出てくるんですか?
村松氏:いいご質問です。まず、道路の曲率を事前に把握できるかどうかというところが非常に大きなポイントになります。道路の曲率が先読みできると、カーブの手前で自動的に減速します。減速した上でカーブに入っていって、カーブから抜けたらまた加速するというように、通常、人間が運転していてカーブに差し掛かったときにすることをできるようになるというのが、ノートのプロパイロットです。
---:そうすると、高速道路でより自然な加減速ができるようになるわけですね。
村松氏:そうですね。そういったナビ地図情報がないと、どうしてもセンサーの限界はあるので、カーブの曲率が非常にタイトなところだとレーンキープ機能をいったんキャンセルするケースがあるのですが、そうなる可能性がより低いということです。
---:なるほど。そうすると現時点でプロパイロットには、ナビ連携ありと無しの2種類があるということになりますが、今後はナビ連携がコネクテッド機能の1つとして増えていくことになるんでしょうか。
村松氏:はい。
---:運転支援機能も含めて、これからのコネクテッドカーの付加価値にはどのようなものがあるのでしょうか。
村松氏:まずプロパイロットとの連携では、コネクテッドのベネフィットはデータをアップデートできることです。HDマップやナビ地図をOTAアップデートできることが大きな価値になっていますし、お客様からも、地図更新が自動でできるのは非常にいいという反響をいただいています。
※OTAアップデート:Over The Air =ワイヤレス通信によるアップデート。
それから今後についてですが、外部サービスとの連携がどんどん増えていくだろうと考えていますし、お客様もそれを望んでいると思っています。(今年発売される予定の)アリアにはAmazonアレクサとの連携機能を搭載する予定です。これでクルマの中でもAmazon Musicを楽しむことができますし、スマートホーム家電を車内から操作することもできます。
例えば「電気をつけて」とか「エアコンを入れておいて」とか、あるいは日本では「お風呂を沸かしておいて」といったことが可能になります。スマートホーム連携というコンセプトはかなり前からあったのですが、やっと現実のサービスになったという感じですね。
車両データをクラウドで活用
---:車両データをクラウドで活用することについてはいかがでしょうか。
村松氏:お客様のベネフィットにつながるものでは、Usage Based Insurance、いわゆるUBI(※)があります。
※UBI:クルマの利用状況や走行距離、運転性向などの要素を加味して掛け金を調整する自動車保険
車両に後付けユニットを装着してデータを取るものはすでにあるのですが、我々にはコネクテッドのプラットフォームがあるので、そこからデータを吸い上げたほうが合理的です。お客様のご承諾のもと、車両データを保険会社と連携することによって、お客様によりよい保険プランを提案することができます。
---:なるほど。後付けユニットよりも正確で緻密なデータがあるので、それを活用してよりよいプランをお客様に提案できそうですね。
村松氏:はい。それからEVについては、クルマの充電状況を鑑みながら、電力会社と電力の需要予測をテストしたり、ダイナミックプライシングのパイロットプロジェクトを進めています。
電力会社としては、需給バランスが崩れた時は、電気をもっと使ってほしいタイミングがあるようですし、逆に使ってほしくない時もある。ですのでこのパイロットプロジェクトでは、お客様に「今は電気がちょっと高いですよ」などということをお伝えして、お客様の満足度が上がるかということを検証しているところです。
それからEVに関してもうひとつ、一台一台の充電ニーズにとどまらず、その地域を包括してバッテリーの充電状況がどうなっているか、という観点も重要になってくると思います。
---:最近は他の自動車メーカーから、バッテリーに通信機能を搭載してより細かくステータスを管理するという発表がありますね。
村松氏:バッテリー状況のモニターは、リーフを世の中に投入したときからずっと継続してやっていますし、もちろん新しいプラットフォームでも継続してやっています。
村松氏は4月23日開催のオンラインセミナーコネクテッド・OTA2021(無料)に登壇し詳細を講演予定だ。