中型路線バスが自動運転『渋沢栄一 論語の里 循環バス』…埼玉工大と深谷観光バスが描くビジョン

埼玉工業大学が開発した自動運転システムを中型路線バスに搭載、深谷観光バスが「渋沢栄一 論語の里 循環バス」として運行中
埼玉工業大学が開発した自動運転システムを中型路線バスに搭載、深谷観光バスが「渋沢栄一 論語の里 循環バス」として運行中全 10 枚

渋沢栄一の生まれ故郷、埼玉県深谷市で路線バスの自動運転が始まった。深谷駅の北側エリアでいま、埼玉工業大学の後付け自動運転AIシステムを実装した日野『レインボーII』が、「渋沢栄一 論語の里 循環バス」営業路線の一部区間を自動運転レベル2で走っている。

この日野レインボーIIベースの自動運転路線バスは、埼玉工業大学がこれまで日野『リエッセII』に実装して全国でテスト走行を重ねてきた自動運転AIシステムを、中型路線バスクラスにあわせてアップデートしたシステムを搭載。LiDARやカメラ、GNSSなどの自動運転用機材はリエッセIIとほぼ同様で、自動運転用ソフトウェアを埼玉工業大学が路線バスクラスにあわせてチューンナップしている。

車両は深谷市にキャンパスを構える埼玉工業大学が保有し、運行は同じく深谷市の深谷観光バスが担う。深谷観光バスは、この自動運転AI搭載レインボーIIに営業用車の緑ナンバー(一般貨物自動車運送事業許可)を取得し、道路運送法「21条許可」の認可を受けて路線バスルートを走らせる。

運行ルートは、深谷駅北口や岡部公会堂、道の駅おかべ、渋沢栄一記念館、大河ドラマ館など、合計11か所の停留所を結ぶ循環ルート26km。その一部区間を、深谷観光バスの乗務員が運転し、自動運転レベル2で走る。

エアブレーキも停留所接着もさりげなく自動でこなして……

自動運転AI搭載ブルーリボンIIの走りは、いつも街なかを走っている路線バスとほぼ同じ挙動。「いまハンドルもペダルも自動で走っている」と教えてくれないと、人が運転してると思ってしまうほど。

右左折の曲がり方、その手前の減速、右左折後の加速とも、人が運転しているようにスムーズ。しかもぐっと加速し、制限速度内で50km/h以上のスピードまで一気に加速し、気持ちよく走っていく。さらに停留所への接着も、さりげなくオートでこなしていく。

記者陣を驚かせたのは、交差点での停止時。「軽く踏み込むだけですばやく反応し、高い制動力でしっかりと停車できる」(日野自動車)というメリットがあるブルーリボンIIのエアブレーキを、自動運転AIとコンピュータ制御で、一度も前後挙動をみせることなく、スムーズに止まってみせた。

「エアブレーキをここまでなめらかに制御できるようになったのは、これまでのリエッセIIで培った自動運転AIシステムのアップデートや、アルゴリズム・プログラムの更新でなしとげたこと。まだまだ課題はいろいろあるけど」と話すのは、埼玉工業大学 工学部情報システム学科 渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)。

「路線バスの営業路線で、26kmのなかの約17kmを自動運転で、一部区間を法定速度内の50km/h以上で走り、停留所に自動で接着するような走り方は、国内で初めてじゃないか」(渡部大志教授)

車内も普通の路線バスのまま、定員も確保…全国どの路線バスでも横展開できる

埼玉工業大学 工学部情報システム学科 渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)埼玉工業大学 工学部情報システム学科 渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)この“自動運転AI路線バス深谷モデル”は、「これまでの自動運転バス車内にあった箱がない」という。車内をみわたすと、なんの変哲もない日野ブルーリボンIIの路線バス車内そのまま。その「箱」とは…。

「従来の自動運転路線バス実験車は、車内の1席を犠牲にして、そこに自動運転システムの機材を載せていた。われわれ埼玉工業大学と深谷観光バスの自動運転バスは、横向きロングシートの下にすべての機材を収納させ、1席も犠牲にしていない点も特長」と渡部教授はいう。

自動運転システム機材は座席下に収納できたいっぽうで、「座席に“座る人”にもまだ課題がある」と渡部教授。「このバスには、深谷観光バスのドライバーのほかに、埼玉工業大学のエンジニアがオペレータ・プログラマーとして左最前席に乗り込んでいる。さらに緊急時などに備え、後方に埼玉工業大学のドライバーも座っている。こうした人材を、自動運転AIシステムのアップデートと信頼性向上で、深谷観光バス乗務員1人ですべて操れるようにしたい」(渡部教授)。

今回の中型路線バスの自動運転システム搭載について、埼玉工業大学 渡部教授は、「大小を問わず、全国にある路線バス事業者にもこの後付け自動運転システムは横展開できる。バス事業者が保有する既存の中型バスに、埼玉工業大学が開発した自動運転システムを実装することで、スピーディーに“一部自動化”が実現できるはず」

地方の小さな路線バス事業者、深谷観光バスが描くビジョン

渋沢栄一 論語の里 循環バス(自動運転)渋沢栄一 論語の里 循環バス(自動運転)いっぽう、深谷市に本社をかまえる小さな路線バス事業者、深谷観光バスがなぜ、緑ナンバー(一般貨物自動車運送事業許可)を取得し、道路運送法「21条許可」の認可を受けてまでこの自動運転AI路線バスの運行を担ったか。

この自動運転AI搭載ブルーリボンIIはもともと、埼玉工業大学が令和2年度埼玉県先端産業創造プロジェクトのスマートモビリティ実証補助金をもとに開発した「事業本格化にむけた第一歩」の車両。

深谷観光バスの高田勇三代表は、「バス事業にも必ず迫ってくる自動運転という世界を、そのプロセスから関わって会社を前進させたい」という想いから、この埼玉工業大学の自動運転バスに注目。

「深谷観光バススタッフ全員の技術力向上にも期待するし、自動運転バスの進化のスピードを、同じ深谷市の埼玉工業大学の先進技術でいっしょに体感したいという思いもある。ローカルの路線バス事業者だからこそできる、小回りの効くパートナーシップをこの“自動運転AI路線バス深谷モデル”で実現させていきたい」(高田代表)

埼玉県・埼玉工業大学・深谷観光バス、そして渋沢栄一の故郷・深谷市など、産官学で走り出した、日野ブルーリボンIIベースの自動運転路線バス「渋沢栄一 論語の里 循環バス」。自動運転を実施するのは土休日の2・4・6・8・10・12便(偶数便)が基本。平日の便では、埼玉工業大学のオペレータやプログラマー、渡部教授らを乗せ、通常手動運行時にルートマッピングやアルゴリズムなどを更新していく。最新の運行情報は、深谷観光バス公式ホームページに掲載されている。

《レスポンス編集部》

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