ボルボのデザインに新ディレクター、狙いは「ボルボとポールスターの差別化」か?

ボルボのエクステリアデザイン新ディレクターに就任したT.ジョン・メイヤー氏
ボルボのエクステリアデザイン新ディレクターに就任したT.ジョン・メイヤー氏全 16 枚

ボルボは5月11日、エクステリアデザインの新しいディレクターにT.ジョン・メイヤーが就任したことを発表した。これまで同職にあったマクシミリアン・ミッソーニは、兼任していたポールスターのデザインディレクターに専念する。メイヤーとはどんなデザイナーなのか? そしてこの人事にはどんな意味があるのか? 

コンセプト・クーペの作者

ボルボ コンセプト・クーペボルボ コンセプト・クーペ
「彼の業績がすべてを物語っている。電動化するボルボの未来に向けて、チームを引っ張っていくのに最適な人材だ」とデザイン本部長のロビン・ページが語るように、メイヤーは近年のボルボのデザイン改革に大きく貢献してきた。なかでも重要なのは、2013年の『コンセプト・クーペ』のエクステリアを創案したことだ。

コンセプト・クーペは現行世代ボルボ・デザインの先駆けとなったコンセプトカー。35案ものスケッチ提案から4案を選び、さらに2案に絞って原寸大クレイモデルを作った結果、メイヤーが手掛けた案が晴れて2013年フランクフルトショーに出品されることになった。

実はコンセプト・クーペは、それに続く『コンセプト・XCクーペ』、『コンセプト・エステート』を含めた三部作企画の第一弾だったので、もちろんメイヤーはそれらのエクステリアも担当。そしてこの三部作に携わったチームがそのまま『S60』/『V60』/『V60クロスカントリー』を手掛けた。その開発を終えて、メイヤーはアメリカに転勤。今年4月までカリフォルニアのデザイン拠点の責任者を務めていた。

ポールスター・ブランドの存在

ポールスター1ポールスター1
ボルボは2017年、傘下のポールスターを電動化パフォーマンス・ブランドにすると発表。その第一弾として2019年に発売されたのがPHEVクーペの『ポールスター1』だが、これはコンセプト・クーペのデザインをベースに生まれたものだ。

メイヤーによれば、「コンセプト・クーペをデザインするとき、SPA(60系/90系用プラットホーム)のハードポイントをすべて織り込んでいた」という。「だからポールスター1はコンセプト・クーペによく似ている。最初からパッケージ要件に載せてデザインした結果、それが可能になったのだ」

第二弾となった2020年の『ポールスター2』はBEVの5ドア。こちらのデザインは2016年に『コンセプト40.2』として発表されたコンセプトカーのデザインを、量産に向けてリファインしたものだ。当然ながら、ボルボらしさが色濃く漂う。

ちなみにトールハンマー(ヘッドランプ内のT字型DRL)はコンセプト・クーペに端を発する現行ボルボの目印のひとつだが、ポールスター1/2もそれを備えている。つまりそもそもボルボは、ポールスターのデザインを積極的に差別化しようとは考えていなかったわけだ。

ボルボ コンセプト・クーペのヘッドライト。現在のボルボデザインに受け継がれているボルボ コンセプト・クーペのヘッドライト。ポールスターとも共通のデザインだ

ボルボとポールスターの差別化

電動化ブランドとしてスタートしたポールスターだが、ボルボ本体も電動化を急いでいる。今年3月、2030年までにEV専業になる経営計画を発表した。どちらも電動化を掲げるボルボとポールスターが棲み分けていくには、デザインの差別化が必須だ。今回の人事はそれが狙いだろう。

ポールスターに自前のデザインスタジオはないので、そのプロジェクトも実務はボルボのデザイナーやモデラーが担う。それを統括管理するのは、ボルボのチーフデザインオフィサーとポールスターのCEOを兼務するトーマス・インゲンラートと、ボルボ・デザイン本部長のロビン・ページだ。

ページの下にエクステリア、インテリア、カラー&マテリアル、ユーザーインターフェイスのディレクターがいるわけだが、以前はポールスターのプロジェクトでも各ディレクターはページにレポートしていた。しかしメイヤーが新たにエクステリア・ディレクターになり、彼はボルボのエクステリアについてページにレポート。ポールスター専任になったミッソーニは、CEOのインゲンラートに直接レポートする。レポートラインが整理されたので、少なくともエクステリアに関しては、ボルボとポールスターがそれぞれの独自性を発揮しやすくなるはずだ。

メイヤーという逸材

ボルボのエクステリアデザイン新ディレクターに就任したT.ジョン・メイヤー氏ボルボのエクステリアデザイン新ディレクターに就任したT.ジョン・メイヤー氏
T.ジョン・メイヤーは米国コネチカット州生まれ。名門カーネギーメロン大学で工業デザインを専攻すると共に、副専攻では経営管理を学んだ。さらにカリフォルニアのアートセンター・カレッジでカーデザインの専門教育を受け、2006年にフォードに入社。そこで上司のアンドレアス・ニルソンに出会ったことが、ボルボで働くことになるきっかけだった。

ニルソンはボルボがフォード傘下だった時期にフォードに異動したデザイナーで、中国のジーリー・ホールディングスがボルボを買収した2009年にボルボに戻った。メイヤーはそのニルソンに誘われて、2011年にボルボに移籍したのである。

2011年当時のボルボのデザイン本部長はピーター・ホルバリーだったが、彼がジーリーのデザイン統括役員に転身したため、その後任として2012年にインゲンラートがVWから移籍。彼はVWグループのベントレーからページを、VWからミッソーニを招き、ページがインテリア、ミッソーニがエクステリアを担当する体制を構築した。ページが本部長に昇進したのは、インゲンラートがポールスターのCEOに就任した2017年のことだ。

ちなみに前出のニルソンはボルボに戻ってショーカーやデザイン戦略を手掛けた後、2017年からジーリーのスウェーデン・スタジオでLYNC & COブランドのデザインディレクターを務めている。ホルバリーが雇ったデザイナーで、ボルボ本社のディレクターの座にいるのはメイヤーだけ。インゲンラートやページにとって、メイヤーがいかに大事な逸材であるかがわかるというものだ。

ボルボ コンセプト・エステートボルボ コンセプト・エステート

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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