AIで活躍の場を広げる産業用ロボット最新動向…デンソーウェーブ 澤田洋祐氏[インタビュー]

AIで活躍の場を広げる産業用ロボット最新動向…デンソーウェーブ 澤田洋祐氏[インタビュー]
AIで活躍の場を広げる産業用ロボット最新動向…デンソーウェーブ 澤田洋祐氏[インタビュー]全 1 枚

産業用ロボットといえば、自動車の製造ラインで黙々と溶接をこなす、といったイメージがあるが、近年では食品・医薬品・食品のような産業にも急速に広がっているという。

AIで活躍の場を広げる産業用ロボットの最新の取組みや導入事例について、株式会社デンソーウェーブ FA・ロボット事業部 ソリューションビジネス推進部 部長の澤田洋祐氏に話を聞いた。

澤田氏は、5月31日開催の無料・オンラインセミナー 「困りごとを解決し台頭するロボット~産業別導入事例と最新動向~」で講演する予定だ。

---:産業用ロボットというと、決められた動きをずっと繰り返すアーム型のロボット、というイメージがありますが、役割ごとに種類が分かれているのでしょうか。

澤田氏:ロボットの動きを決めるプログラムを、システムインテグレーターと呼ばれる企業が書いて、そのロボットの役割を決めるということですね。

ちなみに欧米では、比較的専門家であるインテグレーターがシステムをインテグレーションしていますが、日本の場合は少し特殊で、自動車業界など大手企業がインテグレーションする部署を持っているケースもあります。

いずれにせよ、汎用ロボットに専用的なプログラムを入れたり、何かをつかむためのハンドをつけたりして、そこで専用機にするという作業があります。その専用機が工場で稼働するという流れです。

クルマの場合、操作系のインターフェースもメーカー間でほぼ共通化されていますので、クルマのメーカーを変えたからといって運転できなくなってしまうということはありません。ただ、FA機器の場合は、はメーカーが変わると、ハードも、通信のプロトコルも、プログラムをつくる環境もほとんど変わってしまいます。

ですからインテグレーターは幅広い知識を持たなければなりません。とはいえ、一人のエンジニアがすべての分野において高い知識を持つということはなかなかできませんので、品質や納期を守るためには、設備全体のコストを考えるとエンジニアリング費が増えてくることになります。

特にヨーロッパでは、ロボットもさまざまな部分において規格化,オープン化しようという動きが出てきています。まずはプラットフォームを汎用的なものにしようといった動きや、専用のハードウェアではなくパソコンを使ったらどうだろうかという動きが活発になってきています。

そうやって(FA機器が)ソフトウェアドリブンになってくると、ハードウェアは汎用化されたプラットフォームになり、ソフトウェアを入れることによって機能が付加するようになります。またプログラムの開発環境や通信は少しづつ規格化されてきています。

---:これまでは専用機、専用ソフトウェア、専用プロトコルで、縦に閉じたクローズドプラットフォームだったところから、ソフトウェアもハードウェアも規格化されて。オープン化が進んでいるということでしょうか。

澤田氏:メーカーによってそれぞれの方針があると思いますが、デンソーウェーブは2006年ぐらいからヨーロッパで先行してオープン化の戦略に出ています。ヨーロッパはそもそもオープン化の土壌があり、かつシェアの少ない我々がクローズド戦略でいっても勝てないというところから、ロボットをもっとパソコン化しようという形でオープン化してきました。

---:スマートフォンやウェブサービスなど、ほかの事例を見てもオープン化によって市場が成長するのは自明ですよね。

澤田氏:そうですね。IoTが入ってきて、オープン化を止められなくなってきたというのは、メーカーも市場も認知していると思います。

---:産業ロボットにも重工業で使うような大きなものから、軽作業をする小型のものまでいろいろありますが、御社の得意分野はどの領域なのでしょうか。

澤田氏: 最近,大型ロボットをリリースしましたが,やはり得意分野は小型ロボットですね。小型ロボットは、大型に比べて比較的汎用性が高く、インテグレーターやユーザーのアイデア次第で幅広い作業に適用できます。例えば、自動車部品の組立,食品のピッキング、細胞培養など同じロボットアームでも作業用途の幅は制限なく広がっていきます。

---:小型ロボットの市場は拡大しているとのことですね。

澤田氏:いま一番大きく広がっているのが、人協働ロボットの市場です。産業用ロボットには、国の法律やガイドラインなどで、人を傷つけないという安全を確保する義務があります。ですから安全な柵の中でロボットを動かし、扉を開けたら必ず止まることが産業用ロボットの使われ方でした。その分、ロボットの高速性は向上できました。

しかし、人と協働するための規格ができ、技術も追いついてきたことから安全柵のない、人が働く環境でロボットも作業をする、コラボレーションロボット、人協働ロボットの分野が急成長しています。

---:IoTやAIによって、できることが広がっているということでしょうか。

澤田氏:はい。今はまだ、人にしかできない仕事ばかりですがAIによって出来るようになってきた作業もあります。例えば、秤量といって粉体の山からすくって粉を入れるという作業です。人間なら「少しだけすくおう」とか「多めにすくおう」というようにさじ加減ができます。しかし、すくうたびに粉体の山の形が変わってしまうので、これをセンサーとロボットのプログラムでやろうとすると、とてつもない複雑な作業になってきます。

我々はこれを「言語化できない作業」と呼んでいるのですが、例えば「このモノを取って、ここに置きなさい」というように言語化できることに関してはプログラム化することができます。しかし言語化できない、言語化しにくい作業は、おそらく次元数が多すぎて人のロジックでは表現できないのかと思います.

目の部分もそうです。定形物といわれる決まった形のものであれば「これと同じものを見つけなさい」というのは画像処理システムで識別・判別することができますが、例えばジャガイモやから揚げのような不定形物の場合、一つとして同じものはありませんので、やはりAIの力が必要になってきます。

食品、医薬、コスメティクスといった市場は、従来のルールベースの技術だけでは太刀打ちできないことが多いです。

---:ロボットは、そこに入ってきているということですか。

澤田氏:そこをAIという技術とロボットアームとの連携で克服したいと考えて、商品化しました。

---:アームにカメラとニューラルネットワークの小さなチップが載っていて判断するというイメージですか?

澤田氏:いえ、パソコンの中にニューラルネットワークを入れてしまって、そのパソコンからロボットを動かす形です。

---:なるほど。そうすると、ロボットのスキルを変えるときは、パソコンから「今度はこの役目で」と入れ替えて使うわけですね。

澤田氏:そうです。ニューラルネットワークを切り替えて仕事を変えるというような感じです。

---:市場が広がっている中で、デンソーウェーブの製品の強みはどういったところなのでしょうか。

澤田氏:売り上げの中心はやはりクルマと電機業界向けですので、そこで当社が訴求してきたのは、高速な動作や高い精度、高耐久性という点での品質です。品質面で信頼を得て,各お客様とのビジネスを継続してきました。
今広がってきている食品や医薬といった市場に対しては、日本よりも先にロボット化が進んでいたヨーロッパでニーズをつかみ、医薬用ロボットなどを作ってきました。

---:医薬生産ラインにおけるニーズをカバーできるような汎用機ということでしょうか。

澤田氏:そうです。産業用ロボットで初めてグッドデザイン賞の大賞を受賞したロボットなのですが、医薬・医療用向けにサニタリー性を高めるため、表面の微細な凹凸を廃して、微生物などが発生しにくいようなデザインしました。その結果、見た目がピカピカになり、とてもきれいな機体になっています。

かつ、過酸化水素などの強い酸化剤で滅菌するのですが、普通のロボットでは壊れてしまうので、それにも耐えられる設計にしています。

---:薬品の生産などに使われているのですか。

澤田氏:日本だと再生医療の分野で細胞培養に使われるケースが多いです。ヨーロッパで多いのは、薬の調剤です。抗がん剤のような、人が直接触れてはならない薬を扱うことも多いです。人に害がある場合や、逆に人が菌を持ち込んでは困る場面で使われています。

---:自動車業界での取り組み事例はありますか?

澤田氏:自動車もやはり多種少量生産で高難度作業が増えてきています。当社がロボットを始めた90年代は、右から左にモノを運ぶだけでOKでしたが、今はそんな単純な作業はありません。

例えば「モノを取る」という作業でも、2D・3Dのカメラがついて、バラバラにおかれた部品の山からモノをピッキングできる画像処理という技術が入っています。

また、ロボットの手首に力覚センサーという力を検知するセンサーをつけて、ギアなどのはめ合わせの作業をするときに、センサーのフィードバックで、はめ合わせの手ごたえを検知するなど、付加価値が高い作業が多くなってきていますね。

---:そのほかに新たな取り組みはありますか。

澤田氏:「COBOTTA」という小型の協働ロボットがあります。重さ4キロほどで片手で持てるくらいの大きさですが、このような小型で人と協働ができるロボットは、まだ業界にはありません。

多種少量生産への対応を考えて作られたロボットなので、台車に乗せたり、手で持ち運べるというポータブル性も特長の一つです。ロボットも役割に応じて働く場所を変えていく、という想定の下に作られました。

用途としては、今は教育の現場で用いられていることが多いです。数年前から工業高校や高専などではAIやロボットのエンジニアの育成に力を入れていますので、そういった教育の現場でも使われています。

あとは、ラボラトリーオートメーションという新しい分野でも多く利用されています。研究や実験の現場で人の代わりに作業するために利用されている事例もあります。

---:専用のソフトウェアがついてきて、Windowsとつないでプログラミングして動作を決める、という使い方でしょうか。

澤田氏:そうですね。当社も含め,そのようなプログラミング環境は多いですが,ユーザの裾野が広がってからは、簡単化にも力を入れています。プログラムにまったく触ったことがない人でも、ウィザード形式でロボットに簡単な作業が教えられるプログラミング環境から、コーディングもできる上級者には、C#やPythonなどの好みのコンピュータ言語でプログラミングできる環境まで、さまざまなリテラシーに合わせた、簡単化のための開発環境を準備しています。

---:その人のレベルに合ったロボット作業の開発環境があり、APIもオープン化して、プログラムによって複雑な作業もさせられるということですね。

澤田氏:そうですね。オープン化も簡単化のうちの1つだと思っています。そうすれば好きな開発環境をユーザーが選べますし、得意な開発環境でプログラムが実装できれば、短い時間で高い品質のコードが実装できます。ですから、できるだけお客様のリテラシーや好みに合わせて開発環境は準備するべきだと思っています。

澤田氏が講演するオンラインセミナー(無料) 「困りごとを解決し台頭するロボット~産業別導入事例と最新動向~」はこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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