【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その10

ガレージフィックス 特定技能ズオン氏(右)、新氏(左)
ガレージフィックス 特定技能ズオン氏(右)、新氏(左)全 2 枚

日本で初めてのベトナム人「特定技能」

株式会社ガレージフィックス(石川県金沢市)は、日本で初めてのベトナム人特定技能(自動車整備)を採用した企業だ。

ガレージフィックスでは5名のベトナム技能実習生が自動車整備人材として働く。4名の技能実習生と特定技能(自動車整備)のベトナム人ズオン君が働いている。ズオン君は、日本におけるベトナム人で初の特定技能1号取得者だ。元々ガレーフィジックスに在籍していた技能実習生であった。外国人整備士の人材紹介を行う株式会社アセアンカービジネスキャリア(東京都千代田区)のサポートで特定技能への移行が実現した。

ガレージフィックスでベトナム人対応をしている新(あたらし)氏は、「ベトナム人の国民性は日本人に近いです。勤勉さ、向上心など、昭和時代の日本と同じような感じがして素晴らしいです。最初は人材不足の解消の目的で採用をしました。しかし今は、1人の社員として日本人と同じ扱いに変わってきました」と語る。

カーステーションエムアイ ティン君(中央)、伊藤社長(右)カーステーションエムアイ ティン君(中央)、伊藤社長(右)

「技能実習3年目が終わったベトナム人は、技能実習という制度上、今まで帰国する必要がありました。ベトナム人が帰るということで日本人フタッフは仕事が回るか不安がっていました。特定技能は転職が可能ですので少し心配ですが、再び働いてもらえるのは良い制度だと思います」(新氏)

更に「初めての技能実習生の受入れには、コミュニケーションが取れるのかは不安でした。実際、作業は教えればわかることですが、技能実習生にどのように伝えるかが大変でした。しかし、特定技能の人材がいれば楽です。特定技能までいけば、N2レベルの日本語ですので不自由なくコミュニケーションが取れます。コミュニケーションが難しいベトナム人の通訳もしてもらえます。特定技能のズオンは一番年次が古いので、技能実習生たちを全員取りまとめる立場になっています」(新氏)。

ベトナム人は勤勉な国民性や工業系大学で自動車の知識を学んだ人が多いほか、日本の自動車への興味が高いことから、技能実習を終了した後も、特定技能(整備)として日本で継続して活躍することが期待されている。

◆新しい在留資格、特定技能(整備)人材とは?

「特定技能」とは2019年4月1日に開始された日本の新たしい在留資格だ。今まで原則として外国人労働者の従事が禁止されていた業種の中で、特に人手不足が深刻であると認められた14分野で外国人労働者の就労が可能となった。

特定技能の認定への道は大きく2ルートある。1つ目は技能実習ルートだ。日本で3年間、技能実習生として働いた後に特定技能へ移行。同業種であれば自動移行が可能だ。これにより更に5年間の日本での就業が可能となる。2つ目は試験ルートだ。技能試験と日本語試験に合格してもらうことで特定技能の申請が可能となる。14分野の中には自動車整備も含まれている。

2020年9月末時点での法務省統計によれば、日本で働く特定技能(自動車整備)は90名。日本で働く特定技能(自動車整備)は、ほぼ100%が技能実習生からの移行だ。そのため、技能実習に比べ、技術が高く現場の即戦力として活躍ができる。日本語でのコミュニケーションも問題がなく、日本での生活やビジネスにも慣れている。初めての外国人採用の企業であっても、登録支援機関が外国人の定着や生活のサポートを行う。自動車整備分野の登録支援機関になるには、整備士の登録が必要となる。そのため一定レベルの専門性が必要とされている。

日本の外国人受け入れ政策の拡大により、外国人整備人材の在留資格が広がった。2019年にできた新在留資格である特定技能は、人材不足に悩む、新車・中古車ディーラー業界、整備業界にとって魅力的な在留資格プログラムになっていくと予測される。整備士を採用できず事業が困難なってからではなく、多少余裕があるうちに外国人の活用について真剣に考えるタイミングにきている。

初めて採用した外国人は、ベトナム人特定技能人材

有限会社カーステーションエムアイ(伊藤正人社長、大分県日田市)は、新在留資格「特定技能1号」を取得したベトナムからの自動車整備人材であるティン氏を採用した。カーステーションエムアイにとっては初めての外国人となる。

「募集をかけても応募が来ませんし、人がいなくては新しいビジネス展開も出来ません。これからの時代はグローバル化になりますし、マンネリ化した組織風土に新しい風を入れていくことも必要かと思いました。技能実習後に5年間の在住が可能ということ、これだけの期間があれば戦力として充分です。それに今後は10年とかに延長されるのではないかと期待しています」(伊藤社長)。

入社後は初心者の日本人を教えるように店長が1か月ほど張り付いて指導。プライベートの時間も共有した。社長と協力して日曜日や休みには自宅に招き、一緒に食事や宿泊をして、フォローをしていった。

外国人を上手に活用している会社の共通点として、「職場の居心地が悪い」と感じさせないように心がけているということだ。孤独にさせない仕組みをつくる。仕事以外のコミュニケーションの場に誘ったり、常に社内の誰かがケアしてあげる。上司が定期的に面接するのは理想だが、それが難しければ頻繁に声をかけるだけでも構わない。「メンター制度」を導入するのも一つの手段となる。

伊藤社長は「面接の時に雇ってくださいという一生懸命さを感じたので、日本人を雇う感覚で採用しました。日本人以上に素直で、指導したことに応えてくれます。だから会社の雰囲気にも変化が生まれました。楽しそうに一生懸命仕事をしてくれる姿を見て、店長も良く面倒をみてくれています。仕事や日本語をどんどん覚えてくれているし、仕事後や休日に教習所に通って自動車運転免許も取得しました。車検やリコール対応も可能なので、現場作業は日本人の整備士と変わりがないです」と語る。

ティン氏の将来の夢は「ベトナムに会社を作ること、そして日本に一生住むこと、この2つを実現したい!」。子供の時ベトナムでトヨタの『コンフォート』をみて自動車が大好きになったティン君。職場での言葉、特に自動車部品の日本語名が難しいと言いながらも、一生懸命日本語を勉強し、自動車整備技術の向上を目指して働いている。

「今では社内の朝礼当番も行って、唱和も日本人と同様に実施しています。自ら作った生春巻きを会社に持ってきて、『これ作ったので食べてください!』と振舞ってくれることもあります。日本の文化や習慣を理解し、人付き合いも上手にできていると思いますよ」(伊藤社長)。

新たな日常の中で、公共交通機関ではないプライベート空間で移動ができる自動車は見直される結果となった。コロナ禍により国内の人手不足が解消されたわけではない。感染を抑止し、経済の再生を図っていく中、外国人の働き手の確保は欠かせない。そのためには、最初の外国人の活用に向けて「第一歩の行動」をしていくことが求められている。特定技能の人材は、日本語でのコミュニケーションもとれ、現場での即戦力人材にもなる。若い技能実習生のリーダー的な存在として、これから活用の幅は増えてくるだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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