xEV市場の現状と展望 サスティナブルなxEVとは?…矢野経済研究所 田中善章氏[インタビュー]

xEV市場の現状と展望 サスティナブルなxEVとは?…矢野経済研究所 田中善章氏[インタビュー]
xEV市場の現状と展望 サスティナブルなxEVとは?…矢野経済研究所 田中善章氏[インタビュー]全 1 枚

世界中で電動化の流れがさらに加速するいっぽう、足元のxEV(電動車全般)市場は政策依存の側面も否定できない。xEVの普及を目指す各国の政策、主要メーカーの電動化戦略、リチウムイオンバッテリーの動向について、矢野経済研究所 インダストリアルテクノロジーユニット デバイス&マシナリーグループ 主任研究員の田中善章氏に聞いた。

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政策に依存するxEV市場

---:xEV(電動車全般)に対して政策が与える影響についてお伺いします。

田中氏:はい。ここまで中国のxEV市場が成長してきたなかで、政策に依存してきた部分は否定できません。また欧州でも、昨年はEVやPHEVが非常に売れましたが、こちらも燃費規制(95g/km)やコロナ禍において補助金が手厚くなったという政策が関係しています。

---:中国も昨年は非常に伸びましたね。

田中氏:中国については、補助金の延長が決まったことも要因の1つと見ています。また、低価格の低容量EVが非常に売れるようになりました。この低容量EV向けにも補助金が用意されています。

以前から中国には、鉛電池を積んだ小型の低速EVの市場があるのですが、その鉛電池EVを低容量のリチウムイオンEVに置き換えていくという動きがあります。これに対して補助金が出ており、これを使うと従来の低速EVと同じくらいの価格で買い換えられるようで、結果として低容量タイプのEVが売れています。加えて、50万円ぐらいとこれまでのEVに比べ非常に安価な価格設定となっており、新社会人等、若い世代の方が最初の1台目として購入しているといった話も中国からは聞かれます。

また、昨年から上海テスラでの本格的な生産が始まり、中国でより手に入りやすくなったということもあるでしょう。

---:北米や国内市場はいかがですか。

田中氏:アメリカは政権が変わったことから風向きが変わって来ました。具体的な影響はこれからですね。

日本に関してはハイブリッドが根付いているという実情があるので、そのなかでどこまでEVが広がっていくのか。EVも以前に比べると街でも見かけるようにはなりましたが、車を買い替える際の第一候補に、ガソリン車と同等にEVが選択肢として挙がるかというと、まだそこまでではないのが現状です。これは世界共通ですが、中古車マーケットとしてのEVの価値がある程度確定することが、ガソリン車からの乗り換えの時の大きなポイントになると思います。

---:日本と欧州を比較すると、EVの普及率にかなり差がある印象です。

田中氏:欧州におけるEV普及率に関しては補助金等の政策の影響が大きいと思いますが、一般の方がどれくらい買っているのかというとまだ確信が持てません。欧州でEVやPHEVが注目されているのは、昨年自動車市場全体がへこんだ中で、唯一成長を続けた市場として注目度が高まっている側面はあると思うのですが、実際に一般の人が当たり前にEVやPHEVを買うというレベルになっているかというと、そこはどうなのだろう、という思いはありますね。

自動車メーカーの動向

---:まず最大のEVメーカーであるテスラの動向についてお聞かせください。

田中氏:テスラはEVのマーケットにおいて、ラグジュアリーのセグメントで成功実績を打ち立てました。モデル3にシフトしていくなかで、大衆車市場に徐々に移ってきていますので、コストを下げなければならないという命題があります。電池調達に関して従来はパナソニック一社だったところ、昨年から韓国のLGエナジーソリューション、中国のCATL、この二社が新たに加わりました。これまでのラグジュアリーセグメントから大衆車市場への領域拡大でいかに成功できるか、テスラの次のテーマになると思います。

---:欧州勢ではフォルクスワーゲンがEVの販売を伸ばしました。他のメーカーに比べても投資額が突出している印象があります。

田中氏:フォルクスワーゲンに関しては、ディーゼルゲートの問題もあり電動化に進まざるを得ない側面があると思います。また、昨年欧州で補助金が手厚くなりましたが、フォルクスワーゲンが準備していたEVがちょうどそのタイミングに合わせてうまく市場に出すことができた、という点もあると思います。

---:日本勢についてはいかがでしょうか。

田中氏:トヨタはハイブリッドを軸にしているのは変わりませんが、テスラがビジネス的に成功しているということもあり、電動化を徐々に前倒しているという状況です。

ホンダも足元はハイブリッドがメインになっていますが、ここから徐々にEVに、という動きになってきているとは思います。

日産はリーフを含めてEVで大きな実績を持っていますが、一方でハイブリッドも展開していて、二軸でやっているというのが実態です。

---:EVの市場は、現時点では世界中でも百数十万台ぐらいの規模ですが、今後の成長についてメーカーはどのように見ているのでしょうか。

田中氏:自動車販売全体に対する比率ということでは、まだまだほんの一部と見ていると思います。xEV市場の我々の成長予測では、成長率の高いシナリオで2030年に半分くらいがxEV(ハイブリッド含む)というものですが、これは予測値の上限ですので、我々としてはもう少し慎重な見方が必要なのでは、というスタンスです。

リチウムイオンバッテリーの動向

---:リチウムイオンバッテリーの今後の動向についてはいかがでしょうか。

田中氏:高容量の電池を作って結果として価格を下げる動き、キロワットアワー単価という指標がありますが、この流れ自体は継続していくと思います。

いっぽうで中国では、正極材にコストの安いLFP(リン酸鉄)を使った電池が昨年から再び増えてきています。中国では短期的に高容量電池向かったことでEVの発火事故が発生する等、LFPが再び注目されているのは安全面での課題も背景にありますが、EVの価格を下げるための一つの選択肢でもあると見ます。

LFPはエネルギー密度が低いことが課題なのですが、CATLやBYDは、電池パックの中からモジュールをなくし、セルから直接パックを作る「Cell To Pack」と言われる技術を打ち出しています。モジュールをなくすことにより、体積あたりのエネルギー密度を向上できるので、LFPのデメリットを補い、かつコスト低減を図るものです。同コンセプトについては前向きな見解が聞かれる一方で、保守性等の課題もあるため、今後の広がりについては引き続きウォッチしていく必要もあると見ます。

---:もうひとつのトレンドであるコバルトフリーについてはいかがでしょうか。

田中氏:LFPもコバルトフリーもEVのコストを下げるという意味では同じです。三元系正極材の電池の場合、コバルトの調達価格がコストに影響します。児童労働という人権問題も含め、ネックであるコバルトをなくした設計にしていくべき、というのがコバルトフリーの目的です。

---:三元系でエネルギー密度を高めていく方向と、LFPのように低コスト化の方向の両方の動きがあるということでしょうか。

田中氏:二極化していくと思います。ハイニッケル三元系正極材の高容量のものはハイエンドやラグジュアリーカーをメインに使われていくでしょう。いっぽうでLFPは、低容量や中容量でも、比較的安価なEVを実現するための選択肢、という位置づけになるのではないでしょうか。

持続可能にするためにはリユースが必要

---:最後にxEV市場の展望についてお聞かせください。

田中氏: EV市場に対する注目度は非常に高まっていますが、実際の成長率に関してはより慎重な見方をしていく必要がありますし、サスティナブルな観点も欠かせません。具体的にはバッテリーのリユース・リサイクルです。特にEVの市場が拡大していくと、メーカーにとっての課題としてクローズアップされていくでしょう。

---:リユース・リサイクルで具体的な動きや事例はありますか?

田中氏:例えば、日産の関連会社のフォーアールエナジーで、EVバッテリーのリユースに取り組んでいますが、リユースについてはどの会社も事業が成り立ち、利益を生むには至っていません。リユースを実現するには、現在のようなバッテリーの売り切りビジネスだと難しいでしょう。バッテリーが必ず戻ってくるような事業形態を考えていかなければなりません。

バッテリー・アズ・ア・サービス(BaaS)というキーワードを韓国や中国を含めて良く耳にするようになりました。国内でもホンダやトヨタがバッテリーをエネルギー事業の一部として使っていくというコンセプトを打ち出しています。そのあたりの動きを捉えているのではないでしょうか。

---:古くなったバッテリーをそのままリユースするのでしょうか。

田中氏:車載のバッテリーパックをそのまま使うことができれば手間もコストもかからないのですが、EVに積まれているパックというのは、例えば家庭用として使うには容量が大きすぎるので、定置用の大きなESS(電力貯蔵システム Energy Storage System)に限定されてしまう側面があります。

中身を解体してセル、モジュール単位でリユースするという検討はされていますが、どうしてもコストがかかってしまいます。現状の車載用バッテリーはそもそも解体されることを前提に組まれてはいませんし、バッテリーの中身は各社バラバラです。明確な基準というものがまだない。それも含めてリユースを考えていかなければなりません。

田中氏が登壇する、無料のオンラインセミナー「カーボンニュートラルで高まるEV・バッテリーの最前線」が6月25日(金)に開催予定です。 詳細はこちらから

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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