官民ITS構想 これまでの7年と、この先の10年の目標の違いとは…内閣官房 IT総合戦略室 参事官補佐 榎本太郎氏[インタビュー]

官民ITS構想 これまでの7年と、この先の10年の目標の違いとは…内閣官房 IT総合戦略室 参事官補佐 榎本太郎氏[インタビュー]
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2021年6月、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室から「官民ITS構想・ロードマップ」が発表され、これまでの取組みの成果と今後の基本的な考え方が公表された。新たに示されたITS構想とはどのようなものなのか、参事官補佐の榎本太郎氏に話を伺った。

榎本氏は、7月30日開催のオンラインセミナー 官民ITS構想・ロードマップと新「交通政策基本計画」に登壇して詳説する予定だ。

---:ITS・自動運転に係る政府全体の戦略として掲げられた「官民ITS構想・ロードマップ」。2014年のスタート以降、これまで毎年改定されてきましたが、今年の策定内容にはどのような変化があるのでしょうか?

榎本氏:今までの官民ITS構想・ロードマップは、日本の自動運転の政策を取りまとめていたもので、2020年を目標に様々な施策に取り組んできました。ですので、目標としていた2020年が終わって、今までどうだったかを振り返りました。また、9月のデジタル庁発足以降に、新構想を打ち立てていきたいと考えているところです。

---:これまで7年間、自動運転の実現に向けた取り組みの成果として、どのようなことが挙げられますか?

榎本氏:具体的な目標に対する評価を紹介しますと、自家用車の分野では2020年の実現を目指していた「高速道路での自動運転(レベル3)」をホンダ『レジェンド』が実現し、市場化しています。また「運転支援システムの高度化」について、高精度3次元地図を利用した高速道路でのハンズオフの運転支援を日産など実現しています。

物流サービスの分野では21年以降の実現となりますが、高速道路でのトラックの後続車有人隊列走行や後続車無人隊列走行が計画通り進められています。そして、移動サービスの分野では、「限定地域での無人自動運転移動サービス」を実現しています。秋田県の上小阿仁村で自動車専用空間を走行する自動運転のサービスを、福井県の永平寺では、遠隔監視の下で自動走行する無人自動運転移動サービスを実現しています。

これらは、単純に車両を開発すれば出来るものではなく、技術開発と制度整備の両方が整うことでできることです。官側が関連する法律を整備し、民側ではセンシングの技術を開発するなど、官民一体となって取り組んで実用化に結び付けることができました。

また、もう一つ、オールジャパン体制でダイナミックマップ基盤株式会社が設立され、日本の高速道路と自動車専用道における高精度3次元地図を整備することができました。

---:2020年までの成果を受けて、将来像はどのように描いているのでしょうか?

榎本氏:今後のモビリティ社会の目指すものとして、2030年の将来像を地域それぞれの特徴に合わせて描きました。

一つは「地方部」です。高齢化が進み今まで車で移動していた人たちが免許を返納すると移動手段がなくなってしまう可能性がある課題がある中、高齢者が暮らしやすいような社会像を描いています。

無人自動運転移動サービスのようなものに皆で乗り合って効率的に移動したり、そもそも移動しなくても、サービスを備えた車両が住民のほうに移動してサービスを提供する。地方部では安全に車とヒトが歩調し合い、より共存したかたちで移動が行われる社会を描いています。

二つ目として「自家用車による移動が中心の都市部」。いわゆる地方都市ですね。通勤などで自動車を使い、大きな駅で乗り換える中、交通渋滞が発生している都市です。渋滞が発生すると生活の中の移動の時間が増えてしまうので、渋滞を無くすことで1日に使える時間を増やせるような社会の実現を目指します。

具体的には、いま取り組まれているMaaSのようなサービスをもっと広げ、よりシームレスな移動を行えるようにしたり、デマンド交通のように交通需要に合わせた最適な量の車両を配置するなどして、少ない車両で効率的に運ぶことで渋滞を減らすことができると考えています。

そして三つ目。東京などの「公共交通が普及している都心部」です。ここは電車やバスなど色々な公共交通がありますが、それを有効活用することで、より利便性の高い移動社会を作り上げていくことを目指します。そのためにはMaaSのようなデータ連携によるサービスも必要になってきますし、効率的なエネルギーマネジメントを実現できるようなシステムも必要だと考えています。

これらの社会像を実現する上で重要なのは、自動運転の車が世の中に出れば課題が解決されるというものではなく、この車や他のモビリティをどう使うか、モビリティサービスが重要だということ。そして、自動運転やモビリティサービスを地域のニーズに合わせて、地域に調和するかたちでサービスを実装していくということで、今抱える社会課題の解決につながっていく。これが新たな構想の考えです。

---:2030年の目標を教えてください。

榎本氏:「国民の豊かな暮らしを支える安全で利便性の高いデジタル交通社会を世界に先駆け実現する」。日本としてこのように目標を掲げ、「安全・安心」、「利便性」、「環境」、「自由な移動」、「ヒトとモノの移動のDX」という5つの観点をキーワードに具体的な施策を打っていこうと思っています。

目標の中にある「デジタル交通社会」という言葉は、新しく作った言葉です。「デジタル社会形成基本法」でデジタル社会が定義されていますが、そこから交通分野に限定したものをデジタル交通社会としています。AIやIoT等の情報連携を駆使してサービスを作っていく、そんな社会を実現したいと考えています。

---:あらためて、今回発表されたITS構想の基本的な考え方を教えてください。

榎本氏:技術は日々進化するものですので、今描いている社会像が必ずしも正しいものではなく、常にアップデートしてヒトやモノの移動について目指すべき未来の姿や
課題から取るべきことを考えながら進んでいく、いわばフューチャー・プルの発想によるアプローチを進めていきます。

今、自動運転が広がりはじめ、MaaSのようなサービスが進められ、モビリティとしても大きな変革期に差し掛かっている時代にあります。今までは技術開発や研究だったフェーズが今、社会実装に来ているということです。

この現状を踏まえ、重点取り組みとして3つを掲げています。

一つは新たにデジタル庁として取り組もうしているもので、モビリティサービスをつくるための官側のシステム環境整備をする「新たなモビリティ社会の実現に向けたデジタルプラットフォームの構築」。二つ目はレベル3からレベル4を目指すための「自動運転等の一層の発展」。そして三つ目として、自動運転というのは車だけに限らずに自動配送ロボットやドローンなどにも目を向けた「多様なモビリティの普及・活用」です。

これまではどちらかというと技術開発と制度整備の両輪を回して、自動運転の実用化を目指していこうというものだったと思います。しかしこれからは、社会実装に広げていくことを目指すことになります。道路インフラを作るだけでなく、IoTのアセットとしてのコネクテッド実装を合わせて取り組む必要があったり、新しい移動社会を作り上げるためのプラットフォームが必要になります。そして社会的受容性ですね。自動運転の車が走った時、国民の皆さんがどういった受け止めをするのか、そういった受容性の醸成にも取り組みながら、2030年の社会を実現していこうと考えています。

榎本氏が登壇する7月30日開催のオンラインセミナー 官民ITS構想・ロードマップと新「交通政策基本計画」はこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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