誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組み~自動車メーカーが考える5G・V2X~…本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏[インタビュー]

誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組み~自動車メーカーが考える5G・V2X~…本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏[インタビュー]
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2050年交通事故死者ゼロの実現に向けて、歩行者、自転車を含むすべての交通参加者を通信で繋ぎ、社会の安全の総量を高め、誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組みを進めている。

8月31日に開催される 【無料・オンラインセミナー】5G時代の自動車V2X技術では、Tier1サプライヤーのアイシンがこれらの変革にどう取り組んでいるのかが語られる予定だ。このセミナーに自動車メーカーとして登壇するのは本田技研工業 経営企画統括部 安全企画部 部長 兼 本田技術研究所 先進技術研究所 安全安心・人研究ドメイン統括 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏(※はしごだか)だ。講演に先立ち高石氏に話を聞いた。

---:ホンダの交通安全に対する取り組みについて教えてください。

高石氏:現在世界では年間135万人が交通事故で亡くなっています。ホンダは創業以来、根本的な考え方として人命尊重と積極安全という安全理念をもって取り組んできました。また今年4月23日には、社長の三部が2050年に全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロを目指すということを対外発信いたしました。

誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組み~自動車メーカーが考える5G・V2X~…本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏[インタビュー]誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組み~自動車メーカーが考える5G・V2X~…本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏[インタビュー]

そのためには、技術を進化させるだけではなく、ホンダ独自の5つのE、「5E」という考え方に基づいて活動しています。5つのE とは、分析(Evaluation)、教育(Education)、技術/インフラ(Engineering)、法律(Enforcement)、救急医療(EMS)です。このように全方位で取り組んでいます。

従来の安全対応というのはどちらかというとハード中心で、新しい技術を積み重ねていくことを繰り返してやってきました。しかし、車やオートバイの個体、つまり車両にハードをどんどん積み重ねていくと、コストが高くなってお客様が購入できなくなってしまいます。

今よりも進化した安全技術を普及させるために、これからはいかに個体への負荷を軽くする、つまり、通信によってサーバーやクラウドと連携した安全技術を進化させることが重要です。その鍵となるのがV2Xをはじめとした通信技術です。

---:通信によって安全技術を進化させるということですね。

高石氏:はい。安全だけでなく安心まで提供していきたいと考えています。ホンダの考える将来の安全技術コンセプトに「Caring Safety Technology(ケアリング セーフティ テクノロジー)」という言葉があります。一人ひとりのお客様を重視していきたい、パーソナライジングやオンデマンドを重視してやっていきたいという考え方です。

お客様は様々な不安を抱えて車に乗っています。この不安というのは一人一人さまざまなので、それぞれのお客様に合わせて不安を解消し、安心して移動していただけるようにしたいと考えています。

ホンダが考える安心とは、安心な移動が保証されて思い通りに出かけられるということです。積極的に移動をする、自由な移動を楽しむ、そういったお客様の願いをかなえていきたいと考えています。

安全技術コンセプト「Caring Safety Technology」

高石氏:Caring Safety Technology(ケアリング セーフティ テクノロジー)は、「統合安全技術」と「安心醸成技術」の二つの柱で構成されています。ひとつ目の柱である「統合安全技術」とは交通事故を無くすための技術です。

ひとつの事例として、現在アメリカのオハイオ州の中心部とホンダの研究所をつなぐ道でSmart Mobility CorridorというV2Xの実証実験を行っています。途中のMarysville市では多くの車に通信機を載せ、信号機にカメラを付けて、V2I/V2V/V2Pも含めてSmart Intersection(スマート交差点)として実証をしています。

また、V2X・5Gに関連する実証実験なのですが、アメリカのミシガン州で、ベライゾンとコラボレーションをした実証実験も行っています。セルラーのV2Xで、MEC (Mobile Edge Computing) サーバーやスマートカメラによって歩行者や自転車を検出し、専用通信機のない車両に対しても警報するなどといった実証実験です。

高石氏:もうひとつの柱である「安心醸成技術」についてですが、これは我々が重視している部分である「誰もぶつからない社会」をどう実現するかということです。言い換えると、一人一人のお客様の想いにどう応えていくかというアプローチを考えています。そして、人としての喜びというのはどこにあるか、というところまで含めて追求していきたいと思っています。

このようなことをかなえるためには、まず人を理解する技術、ということを徹底的にやっていかなければならないと考えています。

事故の原因はヒューマンエラーがほとんどだと言われており、実際に90%以上がそうである、というデータもあります。ヒューマンエラーがあるのだから人には運転をさせず、自動運転にすればいいのではという考え方がありますが、ホンダとしては積極的に移動したい、という意思を持った人をしっかりと支援していきたいと思っています。

ヒューマンエラーには様々な原因があるのですが、ここを根本的に補正していくことはできないだろうかということで、脳科学の領域まで踏み込み、ヒューマンエラーの解明を行い、この研究結果を活用していこう、ということを現在進めています。

---:ヒューマンエラーという言葉に隠れた根本原因を突きとめようとしているということですね。

高石氏:ヒューマンエラーが起きる原因がどこにあるかということを、fMRIを使用して脳科学的に分析しています。これによって、運転している時に起きる人の様々な状態が分析できるようになります。

すべての交通参加者が共存できる世界

高石氏:冒頭にお話しした交通事故死者ゼロという目標を考えると、これまで積み上げてきた技術、教育だけでは足りません。事故は相手ありきなので、当然もらい事故もありますし、交通弱者と言われている歩行者や自転車、最近ではeスクーター、キックボードのようなものも走り始めていて、様々な要因が道路環境にはあります。それらも含めて対応をしていかないと、とても交通事故死者ゼロにはなりません。

そうするとやはり協調安全、すべての交通参加者が共存できるという世界観を作らなければならない。そこで重要になるのが通信である、と考えております。

---:今までには無かった交通手段も増える傾向ですし、混合交通はより複雑になっていきますね。

高石氏:そうですね。ただ、それを統制化して法律でがんじがらめにするのでは、一人一人の自由が保てないと考えています。ですので、そこは通信で繋ぐことで「ぶつからない社会」をどうにか作れないかという考え方になっています。

従来のV2Xはどちらかというと位置情報を中心にしたものでした。見えない危険を察知するという意味では非常に重要なものであり、有効性があると思っています。ただ交通事故死者ゼロに向けた取り組みとしては、もっと先に進んだものをやっていきたい。人を理解する技術が非常に大切だと言いましたが、道路環境に今後起きうるリスク、事故というものを事前に察知することが重要です。

ぶつかる寸前のリスクが高い状態になる前に、もっと早い段階からリスクを予測して、事前に回避してしまおうということです。そのためには、この道路環境にいる様々な交通参加者、その人たちの状態を理解し、行動を予測することが必要です。

車やオートバイのセンサーや、インフラ側のカメラやスマホ、そういったデータをMEC (Mobile Edge Computing) サーバーに集約し、AIによって道路環境に今後起こりうるリスクの予兆を捉えることができるシステムを作っていきたいということです。

その予兆を捉えたところで、その場の交通参加者に対し、リスクを回避するための情報を提供します。(車の)HMIを通してアラートを出したり、場合によっては運転の制御まで踏み込んで対応していく、という仕組みを想定しています。

---:運転の制御まで踏み込むのですね。

高石氏:はい。緩やかに速度を落としてあげたり、車線の幅の中で走行位置を少しずらしたり、空間を少し取ってあげるようなイメージです。やり方はいろいろあると思います。

---:以前、御社の研究開発で、顔の向きや手の上げ下げ、体の向きなど、人の仕草によってその人の未来の動きを予測する、という研究内容をお聞きしました。

高石氏:まさしくそういう技術も取り込んでいきますし、また車両からもいろいろなデータが取れています。今の車両はセンサーの塊です。ステアリング操作からアクセル・ブレーキ操作、すべてが信号で取れる時代ですので、その瞬間の異常値はもちろん、ふだんの運転データと比較した異常値も把握できます。さらには、運転者それぞれの比較も可能です。初心者とベテランとではスキルが違うなど、そういう比較です。

こういったことは、通信の速度とデータ量が進化してきたからこそ可能になりました。だからこそAIも活用できるようになってきましたし、いろいろな条件が揃ってきたので、いよいよこういう構想が語れるようになってきたという段階だと思います。

2050年交通事故死者ゼロに向けて

---:2050年交通事故死者ゼロという大きなゴールに向けて、その手前に何回かマイルストーンは設定されていますか?

高石氏:はい。この2050年交通事故死者ゼロは、地球上すべてを対象とした壮大な目標です。新興国で交通が未成熟な社会に、このような仕組みを普及させるのはかなり大変なことで、20年くらいはかかると想定しています。

いっぽう先進国では、2030年くらいからこのシステムを投入していく、という時間軸を想定しています。ただ、これを実現する前提として、様々なことを標準化していかなければなりません。その作業で5年以上はかかるだろうと思います。ですので、この先5年くらいが非常に重要な時期になりますね。

誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組み~自動車メーカーが考える5G・V2X~…本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏[インタビュー]誰もぶつからない交通社会の実現に向けた取組み~自動車メーカーが考える5G・V2X~…本田技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 高石秀明氏[インタビュー]

---:標準化というのは他社との標準化ということでしょうか。

高石氏:そうです。これはホンダだけでできる話ではありません。他社との協調であったり、官民連携でやっていくことが必要です。まさしく社会を変えるという領域まで踏み込んでやっていきたいと思っていますので、そういう意味では、賛同者をどんどん見つけていきたいですね。

社会標準・世界標準を成立させるためには、様々な要素や技術を提示して作り上げていかなければならないので、今はそれを一つ一つ積み上げている段階です。

高石氏は8月31日に開催される 【無料・オンラインセミナー】5G時代の自動車V2X技術に登壇し詳説する予定だ。

《佐藤耕一》

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