【池原照雄の単眼複眼】日産とホンダが自動運転車サービスの公道実験…交通の“空白”を埋める事業化に期待

日産・NTTドコモ  Easy Ride
日産・NTTドコモ  Easy Ride全 6 枚

日産は200人が参加し、国内最大規模の実験を横浜市で

自動運転車両によるモビリティサービスの実用化に向けた実証実験が今月、日本の自動車メーカー2社によって始まる。日産自動車が横浜市、ホンダが栃木県の宇都宮市および芳賀町で着手するもので、いずれも公道での実験だ。

高齢化や過疎といった社会課題に立ち向かう新たな移動手段として期待が高まる。各社の事業化の時期は明確ではないが、ホンダが掲げる「2020年代半ば」にはトヨタ自動車も含む日本3社によるサービス提供が本格化しそうだ。

日産は9月21日から、NTTドコモと共同で開発を進めるオンデマンドによる配車サービス「Easy Ride(イージライド)」の新たな実証実験に着手する。本社を置く横浜市のみなとみらいおよび中華街エリアに23の乗降地を設け、公募した住民など200人の希望者に利用してもらう。期間は10月30日までの予定だ。Easy Rideは2017年に開発に着手しており、18年には実現に向けた課題の詳細な検討、そして19年の2月から3月には横浜市内の道路を使った最初の公道実験を行っていた。

今回のフェーズでは日産の自動運転車両と、ドコモのAI(人工知能)を活用したオンデマンド交通システム「AI運行バス」を組み合わせて実験する。4台用意する車両は自動運転技術では「レベル2」だが、センサーや制御ソフトなどは市販車とは比較にならないほどハイレベルな装備としている。前回の公道実験車からも大きく進化させ、これまで必要だったアシスタント乗員をなくし、搭乗者は安全のために運転席に控える1人のみとしている。これによって利用者は従来の最大2人から3人が乗れるようになった。また、実験車のサポートのために用意していた伴走車両も廃止し、着々と実用化に近付けていく。

利用者はドコモがすでに21都道府県で実証を進めているAI運行バスのアプリをスマホで操作し、配車のデマンドなどを行う仕組みだ。開発の指揮を執る日産の土井三浩常務執行役員(日産総合研究所所長)は、今回の実験は公道での自動運転車の実験として「恐らく、日本で最大規模になると思う」と言う。自動運転によるモビリティサービスは、過疎による公共交通手段の廃止や高齢化による運転免許の返上など「地方部でのニーズが大きい」と指摘し、「各地域の日本の文化を守るためにも普及へと前進させたい」と強調している。

ホンダはGMクルーズと組んで栃木県内で実証へ

一方、ホンダの自動運転モビリティサービス事業は、広範な提携を図っている米GM(ゼネラルモーターズ)と共同で開発を進めていく。研究部門である本田技術研究所が本拠を置く栃木県芳賀町などを最初の実験地域とし、9月からまず自動運転に必要な独自の高精度地図の作成などに着手する。事業はホンダのモビリティサービスの運営子会社である「ホンダモビリティソリューションズ」(HMS、東京都港区)が担い、2020年代の半ばのサービス開始を目指している。

技術実証のための車両はGMの子会社であるGMクルーズホールディングスの自動運転車両である『クルーズAV』を使い、22年には公道走行を始める計画だ。その後、大都市や地方部などにも実証地域を広げ、地域ごとの多様なニーズを拾いあげたうえで事業化を図っていく。実験の後期や実際のサービスに使う車両はGMグループとホンダが共同開発している『クルーズオリジン』となる。

このモデルは、特定の条件下で車両が自動運転する「レベル4」の技術仕様とする。ホンダの高見聡モビリティサービス事業本部長(HMS社長)は、「ホンダがこれまで培ってきたモノ造りの知見をコトづくりに活用していく。既存交通システムの空白を埋めることが可能であり、実験でどのようなニーズがあるのかなどを検討していきたい」と話す。

社会の受容性へ関連法整備などが急務

トヨタ自動車の自動運転サービスは、電気自動車(EV)の『e-Palette』(eパレット)を専用車両として事業開発に取り組んでいる。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村内での選手らの移動手段として活躍した。パラリンピックの際には歩行者(選手)と軽微な接触事故を起こしたこともあったが、それも教訓として安全なシステム構築に取り組んでいる。

トヨタは目下、eパレットによるサービスについて、多くの自治体や企業などとも準備を進めており、今後さまざまな形態での実験が行われる見通しだ。トヨタが静岡県裾野市に建設中の未来モビリティの実証都市「Woven City(ウーブンシティ)」では、将来2000人規模を想定している住民らの移動手段としてシステム実装を図る。ウーブンシティの開設は25年ごろと見込まれており、その街中を自動運転によるeパレットが行き交うことになる。

自動運転車によるモビリティサービス実現への課題として、日産の土井氏とホンダの高見氏は異口同音に「安全確保と社会の受容性の醸成」を指摘している。利用者が身を委ねるシステムの安全はもちろんのこと、社会が安心して受け入れるための関連法などの整備が欠かせない。20年代半ばと目される実用化に向け、残された時間はもうわずかしかない。

《池原照雄》

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