【ヤマハ YZF-R7 開発者に聞く】「長いバンクセンサーは限界域の高さの裏返し」MT-07との違いとは

ヤマハ YZF-R7(北米仕様)
ヤマハ YZF-R7(北米仕様)全 30 枚

ヤマハが欧米で発売を開始したミドルスーパースポーツが『YZF-R7』だ。日本市場への投入を控え、前回はそのプロジェクト立ち上げの経緯を開発チームに聞いたわけだが、第2回目となる今回は、ベースモデルになった『MT-07』との違いや装備の詳細について解説してもらった。

ヤマハ YZF-R7(北米仕様)ヤマハ YZF-R7(北米仕様)

【インタビュー参加メンバー】
今村充利
PF車両ユニット PF車両開発統括部 SV開発部 SP設計グループ プロジェクトリーダー主査
車体設計や外装設計に携わり、ビッグスクーターからスーパースポーツ、モペットと幅広く担当。YZF-R7では開発プロジェクトリーダーを務めた。現在の愛車はXSR700。

蓮見洋祐
PF車両ユニット PF車両開発統括部 車両実験部 プロジェクトグループ主事
車両実験のプロジェクトチーフとして進捗状況の管理の他、実走も担当。これまではYZF-R25/R3やボルトなどを担当してきた。愛車はセロー、TRX850、R1-Zなど。

大家竜太
パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC実験グループ
MT-07やTMAX、NMAXなどの開発を経て、YZF-R7ではエンジン実験のプロジェクトチーフを務めた。愛車は2台のセローとSR500。

脇本洋治郎
PF車両ユニット PF車両開発統括部 SV開発部 SP設計グループ主事
MT-09やトレーサーの開発を担当した後、YZF-R7ではボディ設計のプロジェクトチーフとして従事。トリッカーの他、YZF-R6のレースベース車を所有し、サーキット走行を楽しんでいる。

中川利正
パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ主事
並列2気筒エンジンの設計を広く手掛ける他、市販モトクロッサーYZシリーズのエンジンも担当。DT200RやTY250スコティッシュ(空冷と水冷の各1台)を所有している。

佐藤 俊
PF車両ユニット 電子技術統括部 電子システム開発部 プロジェクトグループ主務
FJRやTDMの他、YZ250/450の電子システムを担当。現在はTMAXを所有している。

アマチュアライダーがどこでも気軽に走れるスーパースポーツ

ヤマハ YZF-R7(北米仕様)ヤマハ YZF-R7(北米仕様)

----:YZF-R7の車体とエンジンは、MT-07の基本コンポーネントが元になっているとリリースに記載されています。とはいえ、変更点は多岐に渡るかと思いますが、最もカギになった部分はどこでしょうか。

今村:走行性能と商品力を引き上げるためにも、倒立フォークの採用はマストでした。もちろん、MT-07の正立フォークを単に交換しただけではバランスが崩れますが、ひとまずテストしてみたところ、想定以上に「楽しい」というポジティブな評価が集まり、本格的に開発がスタートしました。前回お話した通り、それが2017年のことです。

----:実際、楽しさ(=Fun)はコンセプトにもなっています。YZF-R7における「楽しさ」とは、具体的にどういうものだとお考えですか?

今村:ごく簡単に言えば、私のようなアマチュアライダーがいつでもどこでも気軽に走れることをひとつの指標にしました。『YZF-R1/M』はもちろんのこと、『YZF-R6』のようなミドルスーパースポーツでもパフォーマンスが発揮できる場面は限られています。フルサイズのサーキットに持ち込んでも常に緊張感を保っている必要がありますが、そのハードルを下げて、積極的に乗り手が介在できるように仕立てています。バイクに乗せられている、もしくは負けていると思わないで済む、手の内感と言ってもいいでしょう。

ヤマハ YZF-R7(北米仕様)ヤマハ YZF-R7(北米仕様)

----:では、そのサスペンションに関して具体的な変更点をお聞かせください。

脇本:倒立フォークはKYBのフルアジャスタブルタイプを採用しています。単体で評価すると正立フォークよりも剛性が増し、ブレーキング時の安定性も向上するわけですが、もともとはMT-07向けに最適化している車体なので、フロントだけを強くすると前と後ろで動きにバラつきがでます。

蓮見:リヤを含めて踏ん張る足まわりにする必要がありましたから、バネレートを全体的に上げて減衰特性もリセッティング。走行中のアベレージスピードが10km/hほど上がることを想定しています。それに備え、標準装着タイヤもミシュランのロード5(MT-07)からブリヂストンのバトラックス・ハイパースポーツS22に変更しています。

脇本洋治郎氏のこだわりはセンターブレース脇本洋治郎氏のこだわりはセンターブレース

----:フレームはそのままですか?

脇本:MT-07のしなやかさを残すため、基本骨格はそのままです。ただし、ピボットまわりの設計を変更したり、アッパーとアンダーそれぞれのブラケットを削るなど、各部の剛性をチューニングしています。

今村:目に見える部分としては、センターブレースが分かりやすいかと。フレームの外側を覆うことで補強の役割を持たせているわけですが、MT-07のそれは樹脂で成型され、フローティング状態でマウントされています(=剛性部材として機能させていない)。YZF-R7ではその部材をアルミダイキャストに変更し、上下を締結。これによってピボットまわりの剛性が格段に上がっています。

やたらと長いバンクセンサーは限界域の高さの裏返し

----:剛性アップの度合いは数値的に示せるものでしょうか?

蓮見:MT-07比で約20%の向上です。体感的にもYZF-R7の動きにはソリッド感があり、ライダーの入力に対して機敏に反応します。スーパースポーツを名乗るにふさわしいハンドリングが与えられています。

今村:サスペンションの変更だけに留まると、どうしても腰くだけ感が気になってきます。そこでデザイナーにリクエストする前に、現場作業で鉄パイプやアルミパイプを溶接しながら実走と解析を進めました。その結果が新しいセンターブレースに活かされているというわけです。

蓮見:リヤサスペンションのリンクも土壇場で設計変更するなど、かなりきめ細かく作り込みましたから、シャープなコーナリングをぜひお楽しみください。

----:コーナリング性能の高さは、やたらと長いバンクセンサーに表れていますね。

ヤマハ YZF-R7のかなり長いバンクセンサーヤマハ YZF-R7のかなり長いバンクセンサー

今村:安全性のためですが、やはり気になりますか? 限界性能が大きく上がり、どんどんバンク角も深くなった成果とご理解ください。MT-07にカウルを装着しただけではその分、バンク角が浅くなりますが、それだとスーパースポーツを名乗る意味がありません。そこでステップ位置を上方&後方にオフセットし、アンダーカウルもギリギリまでエンジン側に寄せながらも、マフラーだけは残さざるを得ませんでした。結果、高荷重を掛けた時にマフラーの一部が接地する可能性があったため、あのバンクセンサーが必要と判断しました。限界域の高さの裏返しと捉えて頂けるとありがたいです。

----:エンジンに関してMT-07と異なる部分はありますか?

中川:最高出力や最大トルクといった数値的な部分は踏襲しつつ、新たな機構としてアシスト&スリッパークラッチを採用しています。MT-07に対して「エンジンブレーキが効き過ぎる」という声があり、スポーツ走行を比重が高くなるYZF-R7では緩和した方がよいと判断しました。

パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ主事の中川利正氏パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ主事の中川利正氏

----:欧米仕様はオプションでアップ側のシフターが装着できると聞いています。スリッパークラッチに加えて、ダウン側のシフターも採用されるといいと思うのですが?

大家:確かに理想はそうですね。ただ、MT-07もYZF-R7も現状はスロットル調整をワイヤーで直接行う機械式を採用しています。これだとダウン側の制御が難しいため、スリッパーで補っているというわけです。将来的に電子制御スロットルに切り換わっていけば、ダウン側のシフターはもちろん、各種電子デバイスの可能性も広がっていくと考えています。

「世界中の人々に乗って頂ければ最高の喜び」

今村充利氏のこだわりはアンダーカウル今村充利氏のこだわりはアンダーカウル

----:今回集まって頂いた皆さんは、それぞれ車体やエンジンのスペシャリストなわけですが、YZF-R7で最もこだわったポイント、あるいはお気に入りのポイントを教えてください。

今村:私は外装ですね。その中でもアンダーカウル。自分で図面を引いたのですが、空力とスリムさと放熱のバランスに苦労した分、いい出来栄えだと思っています。

蓮見:新作のラジアルマスターシリンダーです。量産市販車でブレンボの純ラジアルは世界初採用ですから、そのコントロール性にご期待ください。(他はセミラジアル)

脇本:私はやはり剛性チューニングの要になった、センターブレースですね。MT-07と見比べて頂けると、両モデルのキャラクターの違いがよく分かるかと思います。

大家竜太氏のこだわりはアシスト&スリッパークラッチ大家竜太氏のこだわりはアシスト&スリッパークラッチ

大家&中川:エンジン担当としては、アシスト&スリッパークラッチの採用が大きなポイントになりましたから、クラッチの操作性やシフトダウン時のスムーズな減速フィーリングをお楽しみください。

佐藤:メーターはMT-07とは異なる完全新設計です。ネガティブ(反転)液晶を採用し、視認性が向上しています。昼夜問わずグラフィックがクッキリと映えるディスプレイに注目して頂きたいですね。

----:ありがとうございます。それでは最後に、YZF-R7をどういったライダーに楽しんでもらいたいとお考えですか?

今村:やはり、これまで『YZF-R25』や『R3』をお楽しみ頂いた方々のステップアップに選んで頂く、というのがストレートなところですが、リターンライダーの方々の久しぶりのスポーツバイクにもちょうどいいパフォーマンスだと思います。つまるところ、ビギナーもベテランも、男性も女性も、タウンユースもサーキットユースも問わず、世界中の人々に乗って頂ければ最高の喜びですね。そうなると70億台ほど売れる計算になりますが(笑)、それくらいの意気込みをぜひご体感ください。

伊丹孝裕氏とヤマハ YZF-R7伊丹孝裕氏とヤマハ YZF-R7

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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