トラを守るためにできること…寅年特集

トラ
トラ全 8 枚

これまで3回にわたりご紹介してきたトラは、20世紀の乱獲と環境破壊によって「絶滅危惧種」に指定されており、絶滅を食い止めるため、国際的な努力が続けられています。今回は、トラを守るための取り組みを中心にご紹介します。

依然として減少傾向

絶滅の恐れがある野生動物をまとめた「レッドリスト*」によると、現在生息しているトラは2154から3159頭と推定されています。ちなみに、IUCN**の ガイドラインでは、この数を「繁殖能力があることが判明している、または推測される個体の推定頭数」と定義しています。野生動物を絶滅の危機から救うためには、子孫を残すことのできる個体がどれくらい生き残っているかを把握することが大切だということでしょう。

世界自然保護基金(WWF)***ジャパン森林グループの岩渕翼博士によれば、最新のデータは2016年に集計したもので、推計でおよそ3900頭だそうです。野生動物は詳細な調査が難しいため統計数値にはある程度の幅がありますが、いずれにしても20世紀初めの10万頭からは激減しています。

地域ごとに異なる保護対策

野生のトラが増えている地域もあります。WWFによればインドやロシア、ネパール、ブータンなどでは数の回復が認められているそうです(絶滅を食い止めるのに十分な数ではありませんが…)。

一方、インドシナ地域では絶滅寸前とされています。20世紀の終わりにはベトナムやラオス、カンボジアの森に1400頭いた「インドシナトラ」が、森林伐採が進んだ今ではタイとミャンマーにしかいなくなったとのこと。WWFは、生息地の状況に応じた手段を講じることが重要だとしています。

生活圏の重なり

トラが絶滅に瀕している原因は生息地の激減と密猟です。トラの暮らす森林は伐採され、この100年で9割以上が失われたそうです。トラの食べ物となる動物たちもいなくなり、生きていくことができなくなります。岩渕博士は、「実際は、これらの問題が複雑に絡み合っています」と言います。「大きな脅威となっているのは、違法な森林伐採です。そのほか合法的なものも含め、森林開発を行う時には道路が作られます。すると、森に入る人間が増えます。農地を作る人が増えて森林伐採が加速したり、密猟者が入っていったり、罠が仕掛けられるようになったりもします」

また、森だった場所に人間が暮らし始めると、お腹を空かしたトラが家畜を襲うこともあります。人と出くわすこともあるでしょう。住民にとって、トラは自らの命や生活を守るための駆除の対象になります。したがって、地域周辺に暮らす人々の生活も考えながら保護を行う必要があります。

トラと地域住民の共生

WWFジャパンによると、近年における森林伐採の大きな要因の一つは木材のほか天然ゴムやパーム油(植物油)を生産するための農地開発だそうです。関連産業で生計を立てている人たちも多く、住民の生活とトラの保護を両立させる施策が重要です。状況によっては政府が経済的なサポートを行い、森林を伐採しなくても生活できる産業を育成する仕組みづくりが必要でしょう。生産性を高めたり、安く買いたたかれないように交渉力を高めたりするなど、既存の農園を拡大せずに資源を有効利用するための指導も大切です。

違法行為の取り締まり

トラの生活圏破壊につながる森林の違法伐採をはじめ、トラの密猟やブラックマーケットでの取引などの違法行為も依然として大きな問題です。各国でトラの狩猟は違法とされています。また、ワシントン条約(正式名称「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)が、トラの毛皮や骨などの輸出入を禁じています。しかしながら、トラは漢方薬の材料として、いまだに高い需要があるそうです。

生態調査と「コリドー」の設置

森林が失われた結果、トラが住む地域は小さく分断されてしまいました。食べ物がなくなっても、他の地域に移動できません。新しいトラと出会うこともできなくなります。近親交配が進み、体に障害をもつ個体が増えることが懸念されています。複数の生息地をつなげ、トラが行き来できる環境を作るため「緑の回廊(コリドー)」を設ける計画が進められているそうです。

また、保護計画を立てる上で、正確な情報は欠かせません。トラが暮らすのは深い森林のため、人間が入っていくのは難しく、行動範囲や生息数など不明な点もまだ多いそうです。WWFジャパン森林グループの天野陽介さんによれば、主な調査方法は糞や足跡などの痕跡を調べることと、「カメラトラップ」とよぶ自動撮影カメラを使うものだそうです。

「糞は食べ物の特定に役立ちますが、熱帯地域ではすぐに分解されてしまうため見つけるのは簡単ではありません。湿地などについた足跡からは大きさの推定ができますが、硬い地面には残らないので行動範囲を特定するのは困難です。糞と足跡による調査は、雪の上で行うロシアで情報量の豊富なデータがとれます」(天野さん)

サプライチェーン全体での持続可能性

WWFジャパンは、サプライチェーン全体を見ながらトラの生息地を含めた自然環境を守る努力が大切だといいます。例えば食品メーカーなどとの話し合いを行い、パーム油の生産と利用を持続可能なものに変えていく取り組みを推進しているそうです。

パーム油はアブラヤシという木から採れ、世界で一番使われている植物油です。パンやポテトチップスなどの加工食品や洗剤、シャンプーや石けんにも使用されており、日本は100%輸入に頼っています。WWFジャパンで自然保護に関する広報を統括している三間淳吉さんによれば、アブラヤシは生産性が高く、うまく管理すれば環境負荷を抑えられる植物だそうです。現地の農業技術を向上させ、例えば生産効率を倍にすれば農地面積は半分で済み、自然環境へのダメージを減らすことができます。

一人一人ができること

このように、トラの絶滅を止めるためには幅広い取り組みが必要です。生息域における努力だけでなく、地球規模での努力が求められます。そんな中、私たちにも日常的にできることがあります。

トラの住む森林を伐採して得られた資源は、日本で日常的に使われている製品にも使われています。家具や日用品には、多くの木が使用されています。

また、身の回りの植物油の多くがパーム油です。そうした資源を大切に使う行為の積み重ねが、やがては大きな力となるでしょう。もちろん、すぐに大きな変化が現れるわけではありませんが、そうした意識を持って生活することは今からでも実行に移せます。

木材や油の使い方など、毎日の行動の積み重ねが将来的には大きな動きになり得るでしょう。そんなことも考えながら、この寅年を過ごしてはどうでしょうか?

次の寅年に向けて

今年の9月には、「トラサミット」が開かれます。前回開催された12年前にはトラの生息地である13か国の政府代表が集まり、「2022年までにトラの数を倍にする」という目標が掲げられました。その評価と、今後の保護に関する取り組みが話し合われる予定です。まずは、「3200頭から6000頭以上へ」という目標が達成されたか、その結果が待たれます。

* The IUCN Red List of Threatened Species
** International Union for Conservation of Nature and Natural Resources
*** WWFでは包括的なトラの保護活動を行っている。生息状況の調査、森林火災対策、違法行為の監視、森林の再生、負傷したトラの救護支援、密猟ワナの撤去、野生復帰、環境に配慮した生産と消費の推進、違法路地引の防止と、内容は多岐にわたる

参考:IUCN Red List of Threatened Species、「これを読めばトラ博士?!絶滅危惧種トラの生態や亜種数は?」(WWFジャパン)

トラを守るためにできること…寅年特集 vol.4

《石川徹》

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