メタバース時代に必要な車載機能は?…日本総研 創発戦略センター シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]

メタバース時代に必要な車載機能は?…日本総研 創発戦略センター シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]
メタバース時代に必要な車載機能は?…日本総研 創発戦略センター シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]全 1 枚

CASE革命と言われるが、その中でもコネクテッド(C)による変化はまだまだこれから本格化する。特に映像や音楽など様々なコンテンツを、インターネット経由で車内にて楽しめるようになることで、乗車空間と移動体験に新しい価値を与えるという変化が想定される。

今後、車載コンテンツ市場は10兆円以上になるという予想もある。ソニーがEVへのコミットを強める中、次世代HMIや車載コンテンツ市場はさまざまな業種を巻き込んで拡大しようとしている。このトレンドのひとつにAR/VRを活用した取組みがある。日本総研は車のウィンドウでのAR/VRなど車載コンテンツのプラットフォームを作ろうとしており、今回セミナーに登壇する日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー 程塚正史氏に聞いた。

程塚氏は1月27日開催のオンラインセミナー 3ー5年後に生まれる車載コンテンツ市場~求められるコアシステムと産業構造の変化~で詳細について講演予定だ。

◆自動車業界と車載コンテンツ市場の可能性

--:日本総研が車載コンテンツのプラットフォームに取り組んでいると聞きました。なぜ、日本総研が個別の事業にコミットするのか。背景などを教えてください。

程塚氏(以下同):弊社はシンクタンクとしての機能もありますが、「Do Tank」として新しい市場を創出するインキュベーション活動を展開しています。車載コンテンツのプラットフォーム、あるいはミドルウェアと言い換えてもいいのですが、その構築に取り組むのは、車載コンテンツ市場が今後立ち上がるもので、その際には誰かがエコシステム形成を担わなくてはならないものであり、ひいてはその活動が日本の自動車産業をより強くすることにもなるからです。

車載システムやソフトウェアについてはトヨタの「アリーン」やVWの「VW.OS」といったOS(ソフトウェア基盤)の議論が進んでいますが、そのひとつ上の車載コンテンツやアプリのプラットフォームはまだ見えてない状態です。とくに今後必ず進化する車両のHMI機器を用いたメタバースのような仮想現実、拡張現実の分野での取組みは世界的にもまだまだ緒に就いたばかりです。

--:なるほど。ゲームや映像ソフトといったエンタメ要素以外に、ナビゲーションや運転支援など実用面でも応用が期待できそうですね。

程塚氏:はい。現在「バーチャルウインドウ」というベンチャー企業の独自技術を応用し、将来のコンテンツ事例を表現する自動車シミュレータのようなプロトタイプを製作し、さまざまな企業と話をしているところです。この技術は、車両の窓越しに見える景色を踏まえ、ドライバーや同乗者の視点にあわせて適切な位置にリアルタイムに映像や画像、あるいは音声を表現させるというものです。たとえば、車のサイドウィンドウにチーターが並走するアニメーションを表示したり、ビルの間にゾウやゴジラが現れるような風景を作れます。

◆車載コンテンツのプラットフォームをつくる

--:現在実用化されているヘッドアップディスプレイや地下鉄の車窓に表示される広告のようなイメージでしょうか。

程塚氏:それらは窓をディスプレイとして利用していますが、そこに見える景色と映像は同期していません。その場合、チーターは窓に表示されているようにしか見えません。今回私たちが応用している技術では、実際の景色のなかを走っているような位置にARを見せることができます。ビルからビルに飛び移ったり、他のクルマを避けたりといった表現もリアルタイムで可能です。

--:様々な会社と連携しているそうですが、どんな企業とどんな利用が想定されているのでしょうか。

程塚氏:具体的な社名はまだお伝えできませんが、車載機器関連の大手メーカーなどと話をしています。コンテンツを制作する側に関しては映画・映像関係の会社やVRコンテンツを手掛ける会社も興味を持ってくれています。映画やアミューズメント業界は、自社のコンテンツの新しい配信先として車の中に注目しています。テレビやネット以外の新しいメディアになる可能性があるからです。

これらの企業にはコンソーシアムという形で集まってもらっています。自治体や旅行会社、テーマパークや大規模商業施設など、いわゆる車の「目的地」となる事業者などとも話をしています。移動中の車内で目的地までの気分を上げるコンテンツを表現したり、目的地の施設案内やイベント紹介、クーポンといったPR・送客機能が期待できます。

◆特定メーカーに依存しないオープンプラットフォーム

--:自動車の車内空間の利用、HMIの進化という点では、テスラやNIOがさまざまなアプリを展開しています。コンソーシアムを作りプラットフォーム構築を目指す理由はなんでしょうか。

程塚氏:テスラやNIOの事例は、提供されるソフトやサービスはスマホアプリの転用か、各社に閉じた専用のものです。テスラでNetfilxが視聴できたりゲームが出来たりするのも、NIOでAIと会話ができるのも、言ってしまえば既存の大型ディスプレイの延長でしかありません。テスラやNIOでしか使えないので、オープンなプラットフォームとはなりません。

車載コンテンツ市場が広がるには、アプリやコンテンツにサードパーティが参加できるオープンプラットフォームである必要があると考えています。

--:その場合、自動車メーカーはどのような立場になるのでしょうか。どんなポジションで車窓AR/VRなどのコンテンツを利用できるのでしょうか。

程塚氏:先ほど、ミドルウェアと述べました。ミドルウェアとは、ユーザーが利用するアプリとOSの間で稼働するソフトウェアです。車載コンテンツのプラットフォームは、「アリーン」や「VW.OS」のような車載OSの上で動くソフトウェアのひとつになります。車窓へのAR表示をはじめとする各種コンテンツを、開発したり管理したりするためのプラットフォームです。

自動車メーカーとしては、自社が開発あるいは選定する車載OSの上にこのミドルウェアを組み込むことで、サードパーティが開発・提供するアプリやコンテンツを自社の車両に実装できるようになります。

◆課題は保安基準など制度の整備

--:実装に向けて課題があるとすればなんでしょうか。

程塚氏:いろいろありますが、車載コンテンツ市場の形成には、法整備など制度面の課題があります。現状、車内のAR/VRを禁止する法律はありませんが、フロントウィンドウと前席のサイドウィンドウに関しては保安基準の制限があります。これまで技術的に想定されていなかったからというのもありますが、運転席まわりでのコンテンツの表現をどうするか、今後の議論が必要です。

程塚氏が登壇するオンラインセミナー 3ー5年後に生まれる車載コンテンツ市場~求められるコアシステムと産業構造の変化~は1月27日開催です。

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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