ニュル400秒切りめざすSTI E-RA、開発の理由…東京オートサロン2022[インタビュー]

STI E-RA CONCEPT(東京オートサロン2022)
STI E-RA CONCEPT(東京オートサロン2022)全 8 枚

東京オートサロン2022のSUBARUブースに置かれた『STI E-RA CONCEPT』。ニュルブルクリンクで400秒切りを目指すと宣言されたこのマシンをなぜ開発することになったのか。開発担当者に話を聞いた。

スバルテクニカインターナショナル新規事業推進室部長兼設計情報管理室部長の森宏志さんスバルテクニカインターナショナル新規事業推進室部長兼設計情報管理室部長の森宏志さん

◆STIの将来を見据えて

----:ティザーなどで東京オートサロン2022に何かが出てくるとはありましたが、こういったマシンだったとは想像もしませんでした。そもそもなぜSTI E-RA CONCEPTを開発することになったのでしょう。

スバルテクニカインターナショナル新規事業推進室部長兼設計情報管理室部長の森宏志さん(以下敬称略):カーボンニュートラルの時代がいずれ来ます。それに伴いモータスポーツの世界もどんどん電動化の流れがあるわけですけれども、その時にSTIとして、将来スバルで行うモータスポーツの電動化の部分を技術開発しておかないと乗り遅れてしまいます。現在STIの中には全くEVの知見もないし、全て初めてなんです。でもいまやっておかないといけません。そこでやるからにはやはりレコードアテンプトでずっと培ってきた世界に挑戦する、世界一を目指すところでやっていくべきだろうと、難しいところから始めていこうとしているのです。

----:とてもハードルが高いところですよね。

森:そういうことですね。しかしそこを極めておかないと、将来生き残っていくのは難しいんじゃないか。電動車で世界記録を目指せるようなクルマを作ることを考えた時に、まずフォーミュラEが頂点にはあるんですけれども、フォーミュラカーは我々STIの世界観とは違います。量産をベースにしたダートなどのTCRもエレクトリック化されてきていますけれど、我々がやるのであればやはりGTレースにいま出てますので、そのGTの将来の姿に一番近いと思っているFIAのエレクトリックGTカテゴリーだと思っています。そこで、そのあたりのカテゴリーで世界を狙えるクルマを研究してみようかということなのです。

STI E-RA CONCEPT(東京オートサロン2022)STI E-RA CONCEPT(東京オートサロン2022)

----:来年か再来年ぐらいにニュルアタックで400秒切りということをおっしゃっていましたが、それ以降の話として、これをベースにしてレース参戦も考えているのですか。

森:いまはこのクルマが出られるカテゴリーがありませんので、出来ればエレクトリックGTカテゴリーに、STIとして参戦出来るようなクルマを作りたいと思っています。そこで性能的にはその参戦も可能なクルマをいま技術的に作っておいて、レギュレーション上どうするかは今後色々検討していかなければいけません。ベースは2ドアクーペのEVという量産車がないといけませんので、それは残念ながらスバルには現在ありません。そこをどうするかは悩みの種なんですけれども、でもそういうクルマを作り上げられるベースを開発しておきたいと考えています。

----:つまりこのクルマが、今後のSTIとしての電動化戦略のベースとなる技術を培うものになるわけですね。

森:はい、そうですね。そのためにエレクトリックGTも2モーターもしく4モーターというレギュレーションですので、我々はAWDでやろうと、最初から4輪独立のAWDでこのクルマを仕上げて、それを4輪トルクベクタリングで走らせるところを目標にしています。

◆最高出力は1088ps

----:このクルマのスペックを教えていただけますか。

森:モーターはヤマハ発動機製で、1機あたり200kwを4つ搭載していますので、800kw、馬力にすると1088psというスペックです。もちろんこれは最大出力であって、実際にニュルにしても富士にしてもサーキットごと、目標性能ごとに必要な最大出力は電動車の場合変えていかないといけません。ですので出せる最高出力は800kw、1100Nmというシステムを使って、それを四輪独立のトルクベクタリング制御でコントロールしていこうとしています。

STI E-RA CONCEPT(東京オートサロン2022)STI E-RA CONCEPT(東京オートサロン2022)

----:因みにインホイールモーターは考えなかったのですか。

森:そこは技術も全く新しくしなければいけませんし、もちろんニュルを走るためには色々と変えてはいけませんが、今回の足回りの基本コンポーネントはGT300のクルマから流用することを考えていますので、インホイールモーターは当初から想定していませんでした。

----:つまり基本的には市販車にフィードバック出来ることも視野に入っているということですね。

森:そうです。

----:バッテリーの航続距離などの想定も相当難しそうな気がします。

森:そうですね、いま60kWのバッテリー容量を考えているんですけれど、目標性能、例えば加速性能ですとか、航続距離を上げていこうとすると、その分バッテリー容量を上げていかなければなりませんので、いたちごっこになってしまいます。まずはどのカテゴリーでどういう性能を目指すかを決めないと、EVのスペックは決めにくいんです。そこでこのバッテリーEVに関しては、ニュルを1周アタック出来るぎりぎりで成立する大きさにして、それで目標のタイムが出るかどうかをシミュレーションして決めています。

----:実際に今年後半ぐらいからテストを開始出来るかなというイメージでしょうか。

森:今年の夏以降かなという感じはしています。

◆STIらしさの接地感がニュルへの強み

----:走りに関してお伺いしたいのですが、当然ニュルアタックですからいかに走りやすくしなければいけないと思います。もう一方でSTIがやるのですから、その個性や強みも出さなければいけないと思うのです。そのあたりはどうお考えでしょう。

森:そうですね、ニュルをドライバーが安心して1周全開アタックして帰って来られるようにするためには、接地感、四輪の接地をいかに確保出来てるかが一番重要です。これはガソリン車でもEVでも変わらないんですけども、そこを四輪に強大なトルクが出るモーターをそれぞれにつけているクルマで、本当にドライバーが狙ったラインをぴたっと走れる必要なところまで制御が出来ていないと、走るのは無理だと思っています。そして、そこがSTIで、スバルでずっとやってきたドライバーの意のままの走りというところです。四輪の接地をいかに確保するかというすべての技術の知見を生かして、このクルマに入れていきます。その制御とベースの諸元の部分が大きいと思っていますので、その両面でしっかりといま作り込んでいこうとしているところです。

----:最後にチャレンジに関して語っておきたいことはありますか。

森:いまの時代のEVは、未来を見ているという感じもあるんでしょうが、例えば今年生まれた子供が物心がつき、大人になる頃にはEVは世の中の当たり前の世界になっていると思うのです。そんな世界でスバルのEVって良いじゃないというようなものを今後に引き継いでいかなければいけません。そういう意味ではやはりEVになっても、STIらしい走りやクルマでずっと挑戦し続けているという姿を見せる、そんなクルマにしていきたいと思っています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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