550万人は守れるのか?…自工会が掲げる重点課題への取り組み

日本自動車会議所が運営する日本自動車会館(東京都港区)
日本自動車会議所が運営する日本自動車会館(東京都港区)全 2 枚

1月27日に行われた日本自動車工業会(自工会)の記者発表では、年頭理事会によって決定された自工会としての2022年以降の取り組み、業界の優先検討事項5つが提示された。発表内容をもとに、国内自動車産業が抱える問題を考えてみたい。

◆2022年はとにかく動いて仲間を増やす

自工会では従前より「550万人を守る」のフレーズとともに、変革期における自動車関連産業の重要性をアピールしてきた。22年に入ってからは元旦の新聞一面の意見広告やテレビCMなど消費者へのアピールにも力を入れている。この活動の変化は、質疑応答の中で豊田彰男会長が述べた次の言葉で説明できる。

「2020年末に発表された政府カーボンニュートラルの方針を受け、業界では2021年の1年をかけて、『カーボンニュートラルとは何か?』の問い直しから始め、業界や社会に、敵は二酸化炭素、選択肢を残す、登山道(方法論)はひとつでない、ということを延べてきた。この理解は進んだものとして、2022年は業界としてとにかく動く。仲間を増やす1年とする」

豊田会長がいう「理解が進んだ」は、主に自工会会員や産業界への浸透を指すものと思われる。豊田会長は、国際社会での理解は十分とはいえず、またエネルギー諸問題は国内外の政策も絡み、さらなる啓発・情報発信は必要という主旨の発言もしている。新聞一面広告やテレビCMは、この1年の「動く・仲間を増やす」取り組みのひとつと言える。

◆「成長と分配」「税制改正」に取り組む

取り組みは他にもある。5つの重点課題の筆頭であり、活動の「背骨」(会長談)である「成長と分配」では、自動車の保有・滞留から回転への転換を掲げた。現在の新車販売実績が年間約500万台とすると、その車両の平均保有期間が15年だという。これを10年にすることで年間販売台数は800万台まで上乗せすることができるという試算から、この施策に取り組むという。

税制改正も5つのテーマのうち2番目に掲げられた取り組み課題だ。自工会として従前より主張している車体課税の簡略化、ユーザー負担の軽減策をあらためて検討し、必要な補助金・政策支援の継続と合わせて政府に働きかけるとする。特にカーボンニュートラル政策は、燃料課税による税収減となる。これを車体課税やその他で消費者や業界にかぶせることは絶対に避けなければならないとした。

次期副会長である日産自動車の内田誠氏からは新しいタスクフォースについての言及もあった。電動化やカーボンニュートラルでは、業界の垣根を超えた協力と活動、とくに若手の力を生かす取り組みを考えているという。

◆具体的な成長戦略が見えない

発表は、国内産業を取り巻く状況を前提によく考えられている。だが、半面玉虫色な内容でもある。成長と分配のプレゼンでは、自動車業界の過去の経済貢献について、数字を上げて説明していた。自動車・部品産業の平均賃上げ率は2.5%(2014~19年)であり、これは全産業のトップである。納税額は過去10年で10兆円。株主還元は11兆円。コロナ禍の2021年でも自動車産業は+22万人(日本全体ではマイナス59万人)の雇用を増やしているという。

だが、いずれも過去の分配実績であり、肝心の成長に関する施策が語られていない。もちろん企業の成長戦略はそれぞれが考えるべきことで、自工会が指針や施策を強制するものではない。自工会として具体的な成長戦略は出せない事情はわかるが、業界の方向性が「全方位」なのでサプライヤーや中小企業は戦略を絞れない。

EUは良くも悪くも各国政府やEU委員会が明確に脱炭素(脱内燃機関)を打ち出しているので、企業側も「国が言うなら」と政策にコミットしやすい。正解がないからとすべての答えを準備しておく戦略は合理的だが無駄も多い。

◆「550万人を守る」の意味

550万人を守るというのも、あまり感情論で考えるべきではない。現在の550万人の末端までの個社・個人を守るのか、業界の産業規模として550万人を守るのでは、意味も戦略も変わる。前者は人間的でだれもが幸福になる施策に見えるが、そのために改革や新興勢力を逆に規制することになる。現状維持や延命では、新陳代謝が損なわれ成長につながりにくくなる。

厳しいようだが、資本主義の産業においては、規模としての550万人の保護・拡大を優先すべきだろう。「誰一人取り残さない」は重要かつ決して否定してはいけないが、それこそまさに新しい資本主義における政府の責任だ。企業や企業コンソーシアムの社会的責任も否定しようがないが、終身雇用が維持できない現実があるなら、役割分担や社会構造の変化も避けられない。

自工会としては、日産の内田氏が述べた「業界垣根を超えて若手を生かす」やホンダの三部氏が「水平分業かどうかは企業による。市場が答えを出す。ソニーの参入を歓迎する」という言葉こそ、今後の活動に取り込んでいってほしい。

《中尾真二》

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