【ベンガルール通信 その14】 新規事業のスピード感と競争環境

夜遅くまで動き続ける都心の建築現場。単に朝が遅い分の皺寄せか。
夜遅くまで動き続ける都心の建築現場。単に朝が遅い分の皺寄せか。全 1 枚

南インドより、ナマスカーラ!

2022年は1月14日とされた Makar Sankranti で改めて新年を祝って以来、明らかに気温が上がって来たのを実感する。マンゴーは花をつけ始め、アボカドは一日に何度も払うほど車の上に花や葉を積もらせる。

当地ベンガルールでは Makar Sankranti もしくは Pongal として祝われる、いわゆる 「立春」。友人が送ってきたメッセージに付された地図には、インド各地がそれぞれこの暦の上の日付・期間を何と呼ぶかが記され、その呼び名ごとに色分けされていた。北インドのデリー、西インドのムンバイも、当地と同じ色で Makar Sankranti が通じそうだが、全国は実に16色にも塗り分けられている。同一州内に複数併記されているところもあり、当地ベンガルール市が位置するカルナタカ州南部には Makar Sankranti とあるが、北部には全く脈略の見出せない単語がある。隣接するタミルナド州は、北西部には Pongal とあるが、他に3つの記載がある。欄外に補足的に記された「その他」まで含めると、インド全国では少なくとも30通りはありそうだ。日本であれば「立春」の二文字を誰もが等しく読んで理解するが、年中行事ひとつをとってもこれだけのバリエーション。どう祝うかは呼び名以上の多様性に富むであろう。

一事が万事こんな調子だから、間違っても「インドをきちんと理解しよう」などという日本人気質は捨てた方が身のためだ。知らない事象に出くわした際、逐一、戸惑ったり恥じたりするよりも、むしろ、知らないことは知らないと素直に相手に伝えて教えてもらうのが楽だ。当地で見知らぬ相手とビジネスをしようとする際、議論の土俵を揃える会話から始めるのが常道だが、モノカルチャーの日本の特定業界・企業の中で生きてきたビジネスパーソンにとっては、もしかしたらこの「はじめの一歩」が最も難しく、間違い易いのかもしれない。

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2年前の全土ロックダウン以来、何もかもが取り寄せ可能になり、特に都市部の消費者にとっての買い物環境が大きく変わったことは何度か伝えている。だがふと思い返すと、この2年の間にも「この分野」は大きく変化・進化している。

日本で新規事業を考える際は「お客様のお困りごと」を探す活動から始めがちだが、当地で「ゼロベースの市場調査」や「日本で考えた質問表」によるニーズヒアリングが何かの参考なることは少ない。その場の思い付きや身勝手な要求ばかりで、当地事情に明るくないなら尚更、返って惑わされる情報ばかりが集まる。世の中も、現実解が示されて初めて潜在ニーズがあったことに気付くから、何かアイディアがあるなら具体的なサービスに仕立てて実際に提供してみるのが手っ取り早い。加えて日本企業にとっては、事業インフラの信頼性、パートナーとの認識の相違、規制・基準の明確さなど、期待と現実のギャップに気付く機会も必要だ。その意味でも実証実験・PoC (Proof of Concept) 型の参入アプローチが欠かせない。

この市場の難解さというか障害の多さというかは、特に日系や外資に限ったことではない。大手財閥であっても地場の中小零細でも、基本的な競争環境は同じ。多少の経験に違いはあっても、全てはその時その場の立ち居振る舞い次第。咄嗟の判断と行動を重ねていかにその瞬間に最大の成果を引き出せるか、その経験を踏まえて再現性を持った「事業」を築けるか、が全てだ。そういった意味では、潜在市場を信じて開発した商品・サービスを世に問うスタートアップの動き方には、船頭が多くなりがちな日本企業にとって学ぶところが大きい。

《大和 倫之》

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