自動車はコマーシャルビークルの時代へ…矢野経済研究所 森健一郎氏[インタビュー]

自動車はコマーシャルビークルの時代へ…矢野経済研究所 森健一郎氏[インタビュー]
自動車はコマーシャルビークルの時代へ…矢野経済研究所 森健一郎氏[インタビュー]全 1 枚

変化を嫌う日本社会においては、CASEやMaaSといった変革・改革をネガティブにとらえる声もある。だが、コロナ禍によるライフスタイルの変化と、CASEの波は業界のチャンスでもある。とくに商用車はCASE・MaaS市場の主力になる可能性がある。

矢野経済研究所 ICT・金融ユニット 主席研究員の森健一郎氏は、8 月29日開催の無料オンラインセミナー「クルマを売った後の儲け方~コネクテッドカーのマネタイズ~」に登壇し、「商用車コネクテッドのウルトラインパクト!」をテーマに講演する予定だ。同社の調査、予測によれば、乗用車主体から商用車主体の市場に変わるという。セミナーに先立ち森氏に話を聞いた。

コロナ禍・CASE/MaaSが商用車市場を刺激する

――さっそくですが、なぜ商用車の時代がくるといえるのでしょうか。

森氏(以下同):ひとつはコロナ禍による社会様式、人々のライフスタイルの変化があります。これが商用車のコネクテッド化を加速させる要因になっています。在宅勤務はフードデリバリや宅配の増加につながっています。ロックダウンや移動制限もラストマイル輸送需要を後押ししています。また、同乗制限が電動キックボードなどパーソナルモビリティという新しい市場も喚起しています。

これらラストマイル輸送の需要増加は、小型モビリティや軽トラック、フリート車両(ここではトラック・バス以外の業務用車両)の需要に直結しています。

一方で輸送ニーズの増大が、ドライバー不足や倉庫不足などロジスティクス全般の問題を広げ、効率化や省力化の圧力にもなります。車載端末の進化、DX化などコネクテッドカーの普及整備も急務です。ドローンや宅配ロボ、法改正によって「わ」ナンバー以外の車両のレンタルやシェアリングがしやすくなったことで、商用車そのものの定義も変わろうとしています。

――商用車の市場は拡大していくということでしょうか。

はい。現在の国内乗用車保有台数は6000万台くらいなので、数の上では及びません。2020年トラック・バスの保有台数はおよそ1427万台ですが、我々の予測では2035年には50万台ほど増加して1470万台に達するとみています。同じ予測では乗用車の保有台数は数百万台規模で減少していきます。つまり、車両全体の台数は減少傾向が続いても商用車は増えていくということです。

もちろんこれは予測ですが、逆にいえば、新しいニーズや行動様式の変化に対応すれば、増える需要や新しい市場で成長することができます。

実際、業界の中でもその動きがみられます。2020年に発足したCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies株式会社)です。CJPTは、トヨタ、日野自動車、いすゞ、UDトラックス、ダイハツ、スズキ、MONETテクノロジーズ他、サプライヤー各社が、電動トラック、商用車コネクテッド機能の協調領域について標準化と新しい技術について議論するコンソーシアムです。

CASE市場における協調領域:ビッグデータ

――商用車という枠組みで各社が協調するのはなぜですか。

商用車の走行データについては、国交省を中心に2014年ごろから標準化してビッグデータとして活用しようという動きがありました。ですが、各社の仕様や機能がバラバラでなかなかまとまりませんでした。ならば民間主導でとトヨタを中心に動いたのがCJPTです。

ビッグデータ活用にはプラットフォームが必要です。ドラレコやデジタコ、車載端末が収集する車両に関する運行情報や車両情報が、統合されたプラットフォーム上に集約されることで、データの利活用が進みます。共通のプラットフォームがあれば、サードパーティが新しいサービスを作りやすくなります。

――商用車の統合データプラットフォーム実現や新しい商用車の時代はいつごろ実現しそうですか。

業界主導の取り組みは始まったばかりですが、トヨタのeパレット、日野自動車のスケートボードアーキテクチャなど、次世代商用車の開発は進んでいます。2025年ごろにはこれらの市販モデルが見えてくるのではないでしょうか。2030年ごろにはトヨタの「Arene」などビークルOSが一般化していると思われます。そのころには、シェアカーなどのMaaS車両やeパレットのような自動運転EVのような新しいフリート車両が40万台規模の市場になるとみています。

国際自動車工業会のデータでは、2019年の乗用車と商用車(トラックとバスのみ)生産台数の比率は3:1です。およそ1/4が商用車ですが、我々は、2040年にはCASEの各分野で商用車の比率が半分に達すると予想しています。このときの商用車には、新しいフリート車両やラストマイルモビリティ、電動キックボード、eバイク、配送ロボットなども含みますが、コネクテッドカー、自動運転カー、EVといった各項目の新車の半分近くが商用車になるという予測です。つまり現在は自動車にカテゴライズされていない車両までが商用車としてカウントされるようになり、コネクテッド化されて、データ共通し、「つながる」ということです。

車は所有から利用の時代へ、などと言われますが、この動きは商用車ほど顕著に現れると思っています。売り切り型のビジネスモデルから、売ったあとのサービスにビジネスの比重が移ります。経済性や合理性が優先される商用車ほどこの変化に適合しやすいといえます。

破壊的革新にどう対応していくか

――しかし、いっぽうでそのような変化は既存ビジネスを破壊するものとしてネガティブにとらえる意見もあります。

商用車向けコネクテッド端末としては、2030年ごろにドラレコ・デジタコなど既存コネクテッド端末の縮小が始まるという予測がありますが、その分は次世代型のMaaS端末、ビークルOS対応システムが増えるはずです。商用車自体もトラック・バスだけでなく、シェアリングカーなどのフリートや配送ロボット、ラストマイルモビリティなども含めて考える必要があります。このような市場の変化への対応は必要ですが、冒頭で述べたように商用車におけるデータ活用ニーズはむしろ増えるので、あまりネガティブにとらえる必要はありません。

安全性、稼働率やメンテナンスが重視される商用車においては、車両ハードウェアそのものの性能や機能がすべてのベースになります。eパレットやスケートボードアーキテクチャでは、台車の上に店舗から病院までさまざまな車体を実現する必要があります。架装の技術にITやクラウドを利用したサービスをセットにしたビジネスになるわけです。

既存モデルの破壊と考えるのではなく、既存モデルの上に新しい技術やサービスを載せていくと考えるべきではないでしょうか。

森氏が登壇する無料オンラインセミナークルマを売った後の儲け方~コネクテッドカーのマネタイズ~は8月29日開催。

《中尾真二》

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