【ホンダ ZR-V】開発責任者「コンセプトは異彩解放」、走りに直結するデザインとは

ホンダ ZR-V 開発責任者の小野修一氏
ホンダ ZR-V 開発責任者の小野修一氏全 18 枚

2023年春に発売予定のホンダの新型SUV『ZR-V』。価格を含めた詳細なスペックはまだ公開されていないが、そのコンセプトや走りの個性については徐々に明らかになってきた。プロトタイプの試乗を経て、開発責任者が語った言葉から、ZR-Vの姿にせまる。

ブランドコンセプトは「異彩解放」

ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)

ZR-V開発責任者の小野修一氏は、そのブランドコンセプトについて「異彩解放」という言葉を選んだと説明した。

「現代はスポーツカーブランドでさえSUVを作る群雄割拠の時代。そうしたなか異彩を放つ強烈なインパクトを持ち、仕事や生活に追い詰められる気持ちを解放するという意味合いをこめて“異彩解放”という言葉を選びました」と小野氏は語る。

いわれてみれば確かに世の中はSUVだらけで、今はセダンが基本のクルマではなくなってきている。このセダンとSUVの入れ替わりは時代が求めたものなので受け入れていくしかないが、そうなるとほかのSUVとは違うクルマが欲しくなるのは必然。異彩とはまさに今のSUVに求められている大きな方向性なのだろう。

「新型のSUVとして当たり前の実用性や信頼感といった部分はしっかりと備えています。そのうえで、2つの大きなキーワードをもうけました。ひとつはデザイン、もうひとつは走りです。この2つを別々にするのではなく、走りに直結するデザインを目指しました。神経直結で、爽快かつ快適な走りを目指しました」という。

ホンダ ZR-V 開発責任者の小野修一氏ホンダ ZR-V 開発責任者の小野修一氏

さらに話は続く。

「先代ヴェゼルは、お客様が気軽に乗れるクルマだという評価をいただきました。これはホンダが大切にしてきた“道具としての優秀さや人の気持ちに応える”ということに通じます。私は従来あまりSUVには乗っていなかったのですが、企画段階から世界中のいろいろなSUVに乗るようになりました。そうしたなかで気付いたのはデコボコ道や駐車場の輪止めなどを気にしなくなったのです。これは煩わしさからの解放であると感じたのです」

車高が低いスポーツカーなどに乗っていると、駐車場で輪止めギリギリまでクルマを下げることを躊躇したり、路肩に寄せる際に緊張したりするものだが、SUVなどに乗っているとそうした部分での気づかいは少なくて済む。

「クルマとの一体感を大切に、静かで快適でありながら、4輪が路面を鷲づかみにしいかなるときも離さないというような安心感を提供するということをキーポイントとして開発を推進してきました。意のままにドライブできるファントゥドライブの部分を高く設定するのはもちろん、普通はSUVでは不安感を覚えるような走行シーンでも安心、快適、信頼を持って走れるクルマを目指したのです」

シビックとの共通テーマは「余裕のトルクを意のままに操る」

ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)

SUVがクルマの基本になってくると、高い車高で荷物が積めるということが必須条件になるが、走りの部分ではセダンやステーションワゴンに比べると不利な条件が増す。それを克服するために行ったアプローチについては次のように語った。

「ZR-Vはシビックをベースにしています。パワーユニットは新開発の2リットル直噴エンジンに2モーターハイブリッドを組み合わせたもので、最大トルクは3リットルV6を超える315Nmを発生。モーターを使うので走り出しの瞬間から315Nmで走れます。シビックチームとは隣同士で開発していたのですが、両チームで共有していたテーマが“余裕のトルクを意のままに操る”ということでした。ZR-VはSUVなので、路面環境が変わる様なシーンでもこの“意のままに操る”を使えることを目指しました。ガソリンモデルもシビックと同様に1.5リットルターボにCVTを組み合わせていますが、SUV化に当たって重量が増したのでファイナルドライブを変更し、エンジンやミッションの特性も変更しています」

こうした動力性能だけでなく燃費がいいのもZR-Vの特徴。横軸を0-100km/h加速性能、縦軸をWLTC燃費としたグラフではガソリンモデルはライバル車と同ベルの燃費で加速がいい領域、ハイブリッドモデルは群を抜いて燃費も加速もいい領域にプロットされていた。

ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)

硬めの乗り心地でも「目線がぶれないクルマ」

「ZR-Vはフラットライドで目線がぶれないクルマを目指して開発しました。ロールはセダン並に少なく、風の影響も受けにくいものとしてフロントのリフトを減らす空力特性を与えました。荒れた路面に対してはサスペンションのダンピングを効かせて対応しています」

実際に試乗してみるとこの効果はしっかりと出ていて、ロール感はかなり少なく安心して乗れるタイプのクルマだった。

「ボディは高ハイテン材を効率よく使い、剛と柔を上手に使い分けるために構造用接着剤なども採用。ステアリングフィールを向上するためにステアリングホイールのレザーの材質や縫い方にもこだわりました。ステアリングシステムはデュアルピニオンのEPSとして各部のフリクションは極限まで低減しています。フロントサスペンションのサブフレームはシビックと共通ですが、大型化するタイヤによる最小回転半径の増大などに対応する必要もあり、ロアアームを含めてすべてサスペンションまわりはすべて新規です。シビックはFFしかないので、リヤサスはCR-V系を使っていますが、乗り味を調整するためゴム類などは新規となっています」

少し硬めの乗り心地だったが、それはホンダのいいところでもある。

ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)

「空力関係もかなり練り込んでいます。一例ですがバンパーに穴を開けてフェンダーの中を通す“エアカーテン”という方式を採用することでタイヤまわりの乱流を防いでいます。Cd(空気抵抗係数)低減のみならず、操縦安定性向上のためにも空力を利用しています」

空力の作用はなかなか違いを感じることがむずかしい部分だが、一般道試乗が叶えばより明確に感じることができるだろう。また、FFでもかなり曲がるタイプのセッティングだったが、4WDはさらによく曲がるイメージだった。駆動力配分はクラッチの締結力の強弱で行っているが、かなり細かく制御されているのだろう。

「4WDはプロペラシャフトのある機械式で、コーナリング中にはリヤへのトルク配分を増やすことでフロントタイヤの曲がろうとする力を積極的に引き出すことができるようになっています」

小野氏が走安性出身ということで、キッチリした乗り心地を譲らない気持ちが伝わるモデルに仕上がっていた。

ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)ホンダ ZR-V(e:HEV Z AWD)


《諸星陽一》

諸星陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

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