取り組みの出発点は「乗り物愛」…社長が語るカワサキ オフロード四輪車の魅力と可能性

カワサキ TERYX4 S LE、TERYX KRX 1000、MULE PRO-FXT EPS(左から)
カワサキ TERYX4 S LE、TERYX KRX 1000、MULE PRO-FXT EPS(左から)全 19 枚

カワサキモータースジャパン(KMJ)は2022年10月からオフロード四輪車の国内導入を開始した。ラインナップは『TERYX4 S LE』、『TERYX KRX 1000』、『MULE PRO-FXT EPS』、『MULE PRO-FX EPS』の4機種だ。同年12月には愛知県豊田市のオフロードコースを備えた施設で試乗会を開催。導入の経緯、今後の展望、社長の想いを聞いた。

◆4つのターゲット層を想定、安心安全は絶対条件

北米では主にアウトドアのレクリエーションを目的としたオフロード四輪車の市場拡大が続いている。同社は、2025年には市場規模が1.4兆円に上ると想定。米国工場の生産能力増強やメキシコ工場の新設など生産能力増強の投資も行い、「今後も市場拡大を見込む最も期待出来る分野」と位置づける*。

オフロード四輪車はナンバーが取得できないため、日本国内において公道での走行は不可となっている。並行輸入などで使用されている例はあるが、同社営業統括部 販売サポート部の又川浩久部長は「登録が発生しないため絶対数が掴めない中、どのような販売戦略を取るのか非常に腐心した」という。フィールドワークを通して、運用のされ方やユーザー像などを調査した結果、オフロード四輪車や水陸両用ビークルなどがビジネスユースで使用されていることや正式導入ではないため部品供給やアフターサービスにおいて問題点が生じていることがわかった。国内でもアウトドアアクティビティが広がりを見せていることもあり、「カワサキグループの扱う商材として正式にお届けしたい」(又川氏)という想いから国内初導入を決めたという。

正規の販売ネットワークを確立すると共に、同社が重要視するのが安全安全の提供だ。「どんな商材においても絶対に欠かせないこと」とし、従来オプション設定とされているTERYX KRX 1000の6点式シートベルトを日本国内では標準装備としたり、最低限の操作方法や安全のために守るべきことなどを記したクイック操作ガイドを用意する。

カワサキ TERYX KRX 1000カワサキ TERYX KRX 1000

ターゲット構造としては、一般の人がオフロードシーンを楽しむ「ユーザーユース」、農場、林業などの法人対応を中心とした「ワークユース」、アウトドアレジャー施設などでの「レジャー・リゾートユース」、災害現場などでの「特殊需要」の4つを想定。特殊需要においては、「車が入って行けないような場所、瓦礫がある場所にも行ける走破性を備えるため、社会貢献の一環として重要視している」(又川氏)という。

オフロード四輪車のターゲットカテゴリーオフロード四輪車のターゲットカテゴリー

2022年12月時点で7法人と契約し、取扱店は8店舗を展開。今後も、ラインナップの拡大や販売店の拡充、アフターサービスメニューの充実などを行っていく。販売予定台数は2023年度で120台、2024年以降200台としているが、又川氏は「基本的に対面販売で正しく安全に使用していただくことを前提とし、適切なお客様に販売するということが重要だと考えている。数だけを追いかけるのではなく、安全に楽しく利用してもらう。それが日本国内のマーケットを作ることになるので、焦ることなく一歩一歩進めていきたいと考えている」と話す。

カワサキ オフロード四輪取扱店カワサキ オフロード四輪取扱店

◆「こんなに楽しい乗り物をつくっているんですよ、ということを知ってもらいたい」…桐野社長

2021年10月、KMJ代表取締役社長に就任した桐野英子氏は、オフロード四輪車の魅力や可能性についてどのように考えているのだろうか。試乗会の会場で話を聞いた。

----:桐野社長の考えるオフロード四輪車の魅力とは?

桐野英子社長(以下敬称略):オフロード四輪車の魅力は、なんといっても走破性の高さです。私自身、15年ほど前にフランス・アルプスのスキー場で体験しているんですが、人を乗せてミュールを走らせ、「こんな所に行けるの?」、「こんな所を登れるの?」とビックリしたことを覚えています。

私が初めてオフロード四輪車を体験したのはヨーロッパでしたが、メインマーケットは北米です。販売台数の実に95%を北米が占めています。これは広大な土地を有するアメリカならではの事情も影響しています。アメリカでは、オフロードならナンバーがない車両でも走れるんですよ。だから家族でオフロード四輪車に乗って遊ぶ機会も多い。「砂丘に走りに行く」なんて、私たち日本人にはなかなか想像できないことをしています。途中でバーベキューしたりしながら楽しんでるんですよ。

----:ターゲット層や販売網についてはどのようにお考えですか?

桐野:日本やヨーロッパは、オフロードでも公道とみなされるとナンバー付き車両以外は走ることができません。ですので、今回ご試乗いただいたミュールやテリックスは、個人でご購入いただくというケースは、正直それほど多くはないと思っています。

カワサキモータースジャパンは、2022年10月からオフロード四輪車計4モデルを国内で正式に販売していますが、だからと言ってアメリカのように需要が拡大するとは思っていません。ですが、オフロード四輪車はとにかく楽しい乗り物です。せっかくカワサキが造っているのですから、KMJが正式に国内導入することで、遊び方の提案や部品供給を含めたサービスの充実を図れればと考えています。

それはもちろん、コストが必要なことですから、少しでも需要が拡大すればうれしい(笑) でも、オフロード四輪車を販売するには、今までのバイクやマリンジェットとはまったく別の販路を開拓する必要があるんです。自治体やレジャー施設などを含め、新しく需要を掘り起こしていくことは、KMJにとっても大きなチャレンジということになります。

それでも真剣に取り組もうとしているのは、シンプルな動機です。それは、「カワサキは、こんなに楽しい乗り物をつくっているんですよ」と、より多くの方たちに知っていただきたいから。乗り物好きの私としては、「乗り物愛」が出発点なんです(笑)

----:「楽しさを伝える」という目的が根底にあるのですね。

桐野:少し話が逸れますが、私が社長に就任してから頑張っていることのひとつに、「社員のモチベーションを高めること」があります。せっかく楽しい乗り物をつくって販売するんですから、まず社員が仕事を楽しめるような環境を整えたい。社員が仕事を楽しめれば、その雰囲気は販売店さんに伝わります。そして販売店さんに伝われば、最終的にはお客さまにも伝わる。そうやって「カワサキに乗っていてよかったな」と感じていただけることが大事だと思っています。

それは、バイクもオフロード四輪車も同じです。今回の試乗会で、朝一番に私が言ったのは、「どれに乗っていいの?」でした。自分で運転する気マンマンだったんです。でも、メディアの皆さんが試乗する前に何かあってはいけないので、テストドライバーの助手席でガマンしましたが(笑)。

それぐらい楽しいうえに、ミュールなどは社会貢献できるという面もあります。最近は自然災害が増えていますよね。高速道路が大雪に見舞われ、大規模な立ち往生が発生したこともありました。人が雪の中を歩いてパンを配布していたようですが、寒い中非常に大変な作業です。そんな時、「ミュールが活用できるかもしれない」と思いました。

アメリカでは、「カワサキストロング」というスローガンを展開しているように、カワサキのオフロード四輪車は非常に頑丈です。楽しむことをベースにしながら、いろいろな形で社会の役に立てるのではないか、と考えています。

カワサキモータースジャパン代表取締役社長の桐野英子氏カワサキモータースジャパン代表取締役社長の桐野英子氏

* カワサキモータース事業方針説明会資料より(2021年10月)

<構成・まとめ レスポンス編集部>

《丸山浩》

丸山浩

丸山浩|プロレーサー、テストライダー・ドライバー 1988年から2輪専門誌のテスターとして活動する傍ら、国際A級ライダーとして全日本ロード、鈴鹿8耐などに参戦。97年より4輪レースシーンにもチャレンジ。スーパー耐久シリーズで優勝を収めるなど、現在でも2輪4輪レースに参戦し続けている。また同時にサーキット走行会やレースイベントをプロデュース。地上波で放送された「MOTOR STATION TV」の放送製作を皮切りに、ビデオ、DVD、BS放送、そして現在はYouTubeでコンテンツを制作、放映している。また自ら興したレースメンテナンス会社、株式会社WITH MEの現会長として、自社製品、販売車両のテストライド、ドライブを日々行っている。身長は168cm。

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