「Zらしさ」の神髄は“後ろ姿”にこそあり。新型『フェアレディZ』デザインの見所を解説

「Zらしさ」の神髄は“後ろ姿”にこそあり。写真は東京オートサロンに展示されたカスタマイズドエディション
「Zらしさ」の神髄は“後ろ姿”にこそあり。写真は東京オートサロンに展示されたカスタマイズドエディション全 30 枚

「Zらしさ」の神髄がようやく蘇った。焦点はルーフサイドのラインである。新型『フェアレディZ』はそれを平面視で絞り込んでいない。そう、左右のルーフサイドを平行に延ばすことこそ、実は初代S30からZ32まで長く受け継がれた「Zらしさ」だったのだ。

◆911とは違う個性を意図した初代

日産 フェアレディZ 初代S30(左)と新型(右)のフロント日産 フェアレディZ 初代S30(左)と新型(右)のフロント

初代S30の商品企画の狙いは、「アメリカでポルシェ『911』に負けない性能のスポーツカーを半額で売る」ことにあった。松尾良彦氏(故人)をチーフとする少数精鋭のデザインチームは、FRらしいロングノーズ・クーペのシルエットを軸に、短期間にいくつも原寸大クレイモデルを開発。そんななか松尾氏はポルシェ911を観察・試乗する機会を得る。

まだ60年代のこと。欧米の技術を学ぶため自動車工業会が911を輸入し、自動車メーカーに順番で貸し与えた。それが日産に回ってきて、松尾氏はひとつのことに気付いた。「911はルーフサイドを後方に向けて絞り込んでおり、リヤウインドウは逆台形だ。同じことをやってはいけない」

1972年モデルのポルシェ 911(カレラRS 2.7)1972年モデルのポルシェ 911(カレラRS 2.7)

真後ろから見て、絞り込まれたルーフサイドの外側に後輪が踏ん張る、というのは現代まで続くポルシェのアイデンティティだ。スポーツカーとして後輪の踏ん張り感を強調するのはひとつのセオリーでもあるが、松尾氏はあえて逆張りを選択。ルーフサイドを絞り込まず、リヤウインドウも台形ではなく長方形にして、ポルシェとは違う「Zらしさ」を表現したのである。

◆「復活のZ」の難しさ

歴代フェアレディZ。手前からZ32、Z33、Z34歴代フェアレディZ。手前からZ32、Z33、Z34

歴代Zのなかで、S30と並んでデザインの名作と誰もが認めるのが4代目のZ32だろう。その生産が2000年に打ち切りとなり、02年に「復活のZ」となったのがZ33だ。デザインの狙いは「Zらしさと新しさの両立」。Zらしさを求めて振り返ったのは、やはりS30とZ32だった。

しかし難しかっただろうと、いま振り返っても思う。S30からヒントを得たひとつがロングノーズのプロポーションだが、Z33はV35スカイラインのプラットフォームをベースとする。V35に対してホイールベースを200mm縮めたとはいえ、前輪中心からペダルまでの距離は縮まらない。ロングノーズを表現するには、限界があった。

S30型 日産 フェアレディZのリアセクションS30型 日産 フェアレディZのリアセクション

もうひとつZ33がS30に学んだのが、後ろ下がりのルーフラインだ。Aピラーの頂点付近から下がっていく「トライアングルルーフ」。これを「Zらしさ」として表現したのだが、S30に比べるとAピラーがかなり前寄りにあるのでキャビンが長い。それを活かして、キャビン後半部にはZ32の要素を持ち込んだ。

ベルトラインの延長上にテールゲート開口線を設けると共に、滑らかに下降したルーフが短いリヤデッキへとつながる。なるほどZ32のイメージではあるのだが、ではなぜZ32はキャビンが長かったのか?

◆Z32はミッドシップ発のデザインだった

Z32型 日産 フェアレディZZ32型 日産 フェアレディZ

S30からS130、Z31と進化するなかで、Zはだんだんグランドツーリングカーとしての性格を強めていった。排ガス規制で牙を抜かれたパフォーマンスを排気量アップで補い、太いトルクでゆったり走る。サスペンションは快適さを重視し、内装は質感を高めた。

そうした経緯から心機一転、「世界一のスポーツカー」を目指して企画されたのがZ32だった。FR、ミッドシップ、4WDそれぞれの可能性を探ることから開発が始まるなか、デザイナーたちはミッドシップにZの新たな世界を見出した。Z32のエクステリアは、実はミッドシップを前提に考えた初期案をFRにアレンジしたものだったのだ。

Z33型 日産 フェアレディZZ33型 日産 フェアレディZ

それまでのZとは逆に、Z32はAピラーを前進させたキャブフォワードのプロポーション。ベルトラインをテールゲート開口線につなげ、滑らかに下降したルーフラインの後ろに短いリヤデッキを設けたのは、キャビンから後ろを長く見せ、キャブフォワードを強調するためのものだった。

そんなZ32のキャビン要素を、一方ではロングノーズに見せたいZ33に取り入れたのだから、これをひとつにまとめるのは容易なことではない。しかし「復活のZ」がファンの共感を得るためには、S30とZ32という二つの名作をオマージュすることがどうしても必要だったし、Z33のデザイナーたちはそれをやり遂げた。

◆平行ガーニッシュと“コーダトロンカ”

Z34型 日産 フェアレディZZ34型 日産 フェアレディZ

2008年のZ34はホイールベースをさらに100mm切り詰めることで、ロングノーズ感を強調。テールゲートの開口線はルーフサイドのラインに沿うように改められ、キャビンがよりコンパクトに見えるようになった。そのプラットフォームとキャビン骨格を、新型Zも受け継ぐ。

新型Zも型式はZ34。見た目にはほとんどフルチェンジなのに型式が変わらないのは、レクサスの現行『IS』も同じだ。主要な構造部がキャリーオーバーなら、新たに型式を取得する必要はない。その範囲で新型Zが開発された。

Aピラーやウインドシールド、ルーフはキャリーオーバー。テールゲート開口部も、ボディ側の構造体は先代(旧Z34)と同じだから、リヤウインドウは逆台形だ。Z33でS30とZ32をオマージュした際、四角いリヤウインドウの「Zらしさ」が顧みられることはなく、それを先代も受け継いでいたのだ。

日産 フェアレディZ 新型のリアセクション日産 フェアレディZ 新型のリアセクション

しかし新型はルーフサイドにシルバー色のガーニッシュを設置。「トライアングルルーフ」をより明快に訴求すると共に、これを左右で平行にすることで、S30からZ32まで続いた「Zらしさ」をついに復活させた。9色あるボディカラーのうち7色はルーフ~テールゲートをブラックにしたツートーンだから、逆台形のリヤウインドウは目立たない。巧い工夫だ。

“コーダトロンカ”も復活した。リヤエンドをスパッと断ち切ったカタチにするのがコーダトロンカ。60年代にイタリアで考案された空力デザインであり、それをZはS30からZ32まで採用し続けた。Z33や先代では「艶めかしい後ろ姿」を重視し、曲面を組み合わせてリヤエンドをデザインしていたが、ようやくそこから脱して、Z32以前の「らしさ」に立ち返ったのである。

初代Z432Rと、オマージュした日産 フェアレディZ カスタマイズドエディション(東京オートサロン2023)初代Z432Rと、オマージュした日産 フェアレディZ カスタマイズドエディション(東京オートサロン2023)

大きな長方形のフロントグリルはZらしいのか? 先日のオートサロンで発表された「カストマイズド・エディション」のほうが、やっぱりS30のイメージだよね。…などと話題に絶えないのは、やはり多くのファンを持つZブランドならではのこと。

でも、忘れないでほしい。新型Zの「Zらしさ」の神髄は後ろ姿にこそあるのだよ。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 伝説のACコブラが復活、「GTロードスター」量産開始
  2. トヨタ『ランドクルーザー300』初のハイブリッド登場!実現した「新時代のオフロード性能」とは
  3. ようやくですか! 新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』日本仕様初公開へ…土曜ニュースランキング
  4. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
  5. 【BYD シーライオン7 新型試乗】全幅1925mmの堂々サイズも「心配無用」、快適性はまさに至れり尽くせり…島崎七生人
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  2. 独自工会、EV減速でPHEVに着目、CNモビリティ実現へ10項目計画発表
  3. 三菱が次世代SUVを初公開、『DSTコンセプト』市販版は年内デビューへ
  4. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  5. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
ランキングをもっと見る