SUVクーペかつピックアップトラック!? 車内は複合現実…アウディのコンセプトカー第4弾が斬新すぎる

SUVクーペで、ピックアップトラックでもあるという新しさ

車内に複合現実を作り上げる「アウディ・ダイメンションズ」

機能性そのものがサプライズ

アウディ アクティブスフィア コンセプト
アウディ アクティブスフィア コンセプト全 49 枚

優れたデザインというのは、ただカッコいいとか美しいとか、機能的に優れた造形や意匠を生み出すだけではなく、様式そのものを刷新してみせることにこそ、その新しさ、もっといえば革新がある。アウディが2021年から提案してきたコンセプトカーの連作の第4弾で、1月27日、オンラインでプレス向けに発表した『アクティブスフィア コンセプト』は、まさしくそうした一台だ。

◆SUVクーペで、ピックアップトラックでもあるという新しさ

アウディ アクティブスフィア コンセプトアウディ アクティブスフィア コンセプト

従前の「スフィア」コンセプト・シリーズとは、「グランドスフィア」「アーバンスフィア」「スカイスフィア」で、それぞれセダン、ミニバン的モノスペース、ロードスター型のスポーツカー相当といえる。今までも存在した車型に、EVパワートレインや自動運転、車内エクスペリエンスといった、直近の未来におけるテクノロジーの進歩やパラダイム変化を、如実に反映したデザインだった。

その点、アクティブスフィア コンセプトの新しさとは、SUVクーペ・シルエットという昨今、世界的に市販車としての流行という、トレンドとしてのツボだけではない。全長4.98×全幅2.07×全高1.60mで、ホイールベース2.97mという、全体のシルエットをよくよく眺めてみると、ボディ上半分レイヤーはエレガントな4ドア・クーペで、ボンネットからルーフラインそしてリアエンドまでの輪郭は、『A7スポーツバック』辺りに通じるものがある。一方の下半分のレイヤーは対照的に、22インチの大径ホイールにチャンキーなトレッドパターンのタイヤを履いて地上クリアランスを確保するなど、本格オフローダーであることをも示している。

アウディ アクティブスフィア コンセプトアウディ アクティブスフィア コンセプト

ところがアメリカ西海岸はマリブにあるアウディデザインスタジオで生まれた、アクティブスフィア コンセプトの新しさとは、じつは「ピックアップトラックでもあること」だ。リアの荷室スペースは、通常のハッチバックゲートではなく、上方にスライドしてチルトするリアガラスと、下ヒンジで後ろに倒れるリアデッキゲートという、上下2分割式を採用している。

原初のSUVは元々トラックの荷台ベッドをハードトップのトノカバーで覆って、荷室もしくは後席にあてたところから始まっているが、このコンセプトカーはSUVクーペのように見えつつもファストバック的なボディからはほど遠い。ボタンひとつ押せば、電動クロスバイクやウォータースポーツ用のギアを積み込める、オープンの荷台ベッドが露出して、しかもリアシート後方からはバルクヘッドが電動でせり出して、外界と室内を仕切るという、きわめて近未来的なピックアップトラックでもあるのだ。アウディはこのクロスオーバーとしてまったく新しい様式のリアラゲッジスペースを、「アクティブバック」と呼んでいる。

◆車内に複合現実を作り上げる「アウディ・ダイメンションズ」

アウディ アクティブスフィア コンセプトアウディ アクティブスフィア コンセプト

もちろんゼロ・エミッションのEVで、約100kWhのエネルギー容量で600km超という航続距離の長さに、800Vテクノロジーによる最大270kWの急速充電対応、さらにクワトロらしいダイナミックな走りも可能となっている。しかしドライビングがもたらすアクティブなエクスペリエンスとは別に、自動運転機能による新たなレベルの自由、いわば「運転しないことによってもたらされるパッシブなエクスペリエンス」にも、画期的な提案がある。

それは操作コンセプトに「アウディ・ダイメンションズ」という、複合現実をアクティブスフィアの車内に出現させたことだ。操作インターフェイスとして実際に肉眼には見えないレイヤーを挟むことで、現実とバーチャルの間からアクティブスフィアを操る、もしくは経験できるのだ。

具体的には、乗員は裸眼でなくハイテクヘッドセットを装着することで、走行中の視界の中で周囲の環境やルートのインタラクティブ情報を、3Dコンテンツとして見ることができる。例えば走行中、前方に山が見えてきたら、標高や天候、トレイルコースの通行規制といった情報が、現実の山とともに目の前にオーバーレイ表示される、といった具合だ。

アウディ アクティブスフィア コンセプトアウディ アクティブスフィア コンセプト

このヘッドセットはドライバーと乗員それぞれ、個別に設定することも可能で、ドライバーにだけ車両状態やナビゲーション情報を表示することもできる。またバーチャル空間に浮かぶように表示されたコントロールパネルやバーチャルディスプレイを、タッチセンシティブゾーン内で指先操作したりジェスチャーを送ることで、機能を実行できるという。ちなみにフロント下部に空いたシースルーのウインドウは走行中の地面に対し、拡張現実の前輪の動きや路面状況を足すことで、乗員の視界をアシストしつつも、よりエキサイティングなものとする。

つまりアクティブスフィアは、これまでのスフィア・シリーズからさらに一歩、拡張現実や複合現実をUIとUX(ユーザーインターフェイスと同エクスペリエンス)にとり込んで、現実世界にレイヤーとしてVRヘッドセットを通じてオプティカル層を設けている。かくして周辺環境のマッピングとトラッキングを通じて、よりよい視認や操作の入り口としているのだ。例えば、ステアリングに手を置けば、空間情報がドライビング情報に切り替わるといった具合に。

◆機能性そのものがサプライズ

アウディ アクティブスフィア コンセプトアウディ アクティブスフィア コンセプト

観音開きの前後ドアはそれぞれAピラーとCピラー側にヒンジが付いていて、乗員が近づけばBピラーのない開口部が自動的に開くようだ。目指したものか、複合現実インターフェイス採用の結果としてそうなったのか、水平基調のインテリアはすっきり整然としていながら、温かみのあるレッドのトーンで統一され、まるでモダン建築のラウンジのような、きわめてミニマリストな仕上げとなっている。センターコンソールと一体となる4座のシートは、ラウンジチェアのようでいながら、いかにもサポート性に優れた形状だ。ステアリングとステアリングコラム、そしてペダル類は無論、フライバイワイヤとなっており自動運転時には収納される。

アクティブスフィアが想定するユーザー像は、アウトドア愛好者かつアスリートな人々。クワトロのヘリテージを未来へ繋ぎつつ、乗り手がアウトドアでよりアクティブに新たな次元へ到達すること、無限の自由を手にできる援けとなる、そこにアクティブスフィアのコンセプトがあるそうだ。アメリカ市場で好まれるSUVとしてピックアップとして、きわめて斬新でありつつソフトウェア・オリエンテッドなハードウェアでもある。そんなアクティブスフィアのリッチでミニマルな、矛盾に満ちたデザインについて、エクステリア担当デザイナーのオリバー・カイリバーのコメントが、もっとも端的にその本質を示しているように思える。

アウディ アクティブスフィア コンセプトアウディ アクティブスフィア コンセプト

「ボディ上層は広いグラスエリアでエレガントなクーペとして、逆に下の層はオフローダーとしてハードに。加えて水、光といったイメージや、冷たさと温かさのコントラストも意識しました。何よりサプライズとなるのは、機能性そのものです。皆をワクワクさせたかった。車の中でできることと、外でのアクティビティを繋げること自体が、サプライズなのです」

自動運転は車内のエンターテイメント化をもたらすかもしれないし、運転にとられていた時間を、ニュースを読んだりゲームをしたり、その他コンテンツ視聴にあてられたら、タイパやコスパは上がるのかもしれない。が、果たしてそれが移動の目的や外出する意味を、もっといえば車のようなパーソナル・モビリティそのものを、より価値あるものとするのかどうか? 家やオフィスでもできることを色々いっぱいしたいのか、より深いエクスペリエンスを求めるのか。

リアルとバーチャルが複合化する中で、プレミアムなモビリティがどう進化していくべきか、アウディはおそろしくクリアなヴィジョンを描いているのだ。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. トヨタ カムリ 新型、全車ハイブリッドに…今春米国発売
  2. マツダ、新型3列シートSUV『CX-80』をついに世界初公開 日本導入時期は
  3. トヨタ『ランドクルーザー250』発売、520万円から…特別仕様車も
  4. ジムニー愛好者必見! ベルサスVV25MXが切り拓く新たなカスタムトレンドPR
  5. シトロエンの新デザイン採用、『C3エアクロス』新型を欧州発表
  6. トヨタ堤工場、2週間生産停止の真相、『プリウス』後席ドア不具合で13万台超リコール[新聞ウォッチ]
  7. レクサス『GX』通常販売は今秋に、先行して100台を抽選販売へ 価格は1235万円
  8. トヨタ ランドクルーザー250 をモデリスタがカスタム…都会派もアウトドア派も
  9. 日産はなぜ全固体電池にこだわるのか? 8月にも横浜工場でパイロットプラントを稼働
  10. 【NLS第1-2戦】NLS耐久シリーズ開幕戦で優勝!「PROXES Slicks」でニュルを快走、週末の24時間耐久予選レースにも期待PR
ランキングをもっと見る