MaaS普及とビジネス化の鍵は…WILLER、モービルアイジャパンのトップが語る[インタビュー]

WILLER代表の村瀬茂高氏(左)とモービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏(右)
WILLER代表の村瀬茂高氏(左)とモービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏(右)全 6 枚

2月半ば、都内とオンラインでWILLERが主催する「MaaS Meeting 2023」が開催された。MaaSに関わる企業や自治体が参加し、各々の取り組み紹介やパネルディスカッションを実施した。

参加企業の一つ、ADASおよび自動運転向けのSoCやソフトウェアの開発、提供を行うモービルアイは、日本、台湾、ASEAN市場におけるWILLERとの協業を2020年に発表している。国内でのロボタクシーや自動運転シャトル商用化を目指し、モービルアイが自動運転技術と自動運転車両を提供、WILLERが各地域やユーザーに合わせたサービスデザインと、規制要件の整理やモビリティの管理、運行会社向けのソリューション開発を行う。現在は実証実験中を進めている段階で、MaaS Meetingでも新潟県佐渡市での事例が紹介された。

MaaS社会の実現に向けて、業界のトップランナーたちはどのような構想を持っているのだろうか。WILLER代表の村瀬茂高氏とモービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏に話を聞いた。

◆日本におけるMaaSの課題

---:この数年で、コロナ禍の影響もあり人々の生活が大きく変わりました。そのような中で、MaaSに対する考え方や御社の事業においても変化はあったでしょうか?

WILLER代表 村瀬茂高氏(以下敬称略):コロナの流行というのは我々が100年、200年に一度経験するかしないかの大きな出来事ですが、オンラインでミーティングをしたりとリモートの世界が一気に浸透して当たり前になったということが、副産物として挙げられるでしょう。一方で、オンラインでは伝わりきらない色々なニュアンス、対面だからこそ得られる感動や喜びが実はあったということにも気付かされました。結果として、デジタルの進化はツールとしては利便性が高いけれど、人中心の社会、生活の重要性は見直されたのかなと思っています。

MaaSには自動運転やデジタルといった技術的な要素もあり、今後も移動自体の利便性はどんどん向上していくと思いますが、移動すること自体が目的ではなく、人と人との出会い、人とまちのつながり、ウェルビーイングといった部分が大切だと思います。MaaSが普及することによってマイカーを持たなくても移動や外出ができるというメリットも一義的にはありますが、それに加えて人の生活が変わることでウェルビーイングが実現できるということを改めて感じました。

WILLER代表の村瀬茂高氏WILLER代表の村瀬茂高氏

モービルアイジャパンCEO 川原昌太郎氏(以下敬称略):当社の事業や日本市場に特化して話すと、ここ数年は我々もMaaSに本格的に取り組んだ期間でした。「MaaSと自動運転」というキーワードを切り口に、全国各地の自治体や交通事業者の方と話をしていく中で、交通というのがどうそれぞれの地域・立場の人に対して意味のあるものかということをしっかり見つめることができました。

まだMaaSというのはどうあるべきか、しっかり定義はされてないと思うんですよね。様々な地域や環境に置かれた人たちにとって、交通というものが将来どうあるべきかというのを決めていく過程だという印象を抱いています。その中で、我々は自動運転をベースにMaaSにおけるビジネス開拓をしていきたいと考えていますが、こういう形で当社の進めているソリューションというのが社会に役立てることができるんじゃないかという部分が少し見えてきました。会社としてそのビジネスを基軸として、今後の戦略を立てていくのに非常に有効な数年でしたし、リサーチのフェーズから社会実装を経て、ビジネスとしての意義を見出すことができたと思っています。

モービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏モービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏

---:日本のMaaSにおいては、実証実験から実用化しビジネスとして継続させることが難しい状況にあります。課題や阻害要因は何だと考えますか? また、どうしたらブレイクスルーできるでしょうか。

川原:様々な立場での意見があると思いますが、我々の視点で見ると、どういうクルマを使ってどのようなサービスを提供できるのかという部分がまだはっきりしていないことが一番の課題ではないかと感じます。自動運転を使ったMaaSに限って言うと、我々は安心・安全なクルマを提供するのが一番重要だと考えています。今の日本においては、自動運転の性能含めてですがオペレーション側もどういう風に安心・安全を確保するかまだはっきり見えていない。そういったところを前面に出しながら、実証実験に使うクルマの開発やサービスを進めている企業、団体はまだまだ少ないというのが、日本でMaaSが活性化しない要因だと思います。

モービルアイは、ADAS用のEyeQチップやコンピュータービジョン、高精度な自動運転用地図、自動運転車の安全性を評価できる数式などを駆使し、安全な自動運転のためのソリューションを開発・提供しています。年内にはGeely(吉利汽車)の自動運転レベル2+量産車が欧州で発売されますし、レベル4のロボタクシーをイスラエルとドイツで商用化する予定です 。自動運転機能を持つクルマを市場にどんどん投入しているので、そこから得られるフィードバックを活かし、積極的に課題解決することで一歩先に進めていけると考えています。

村瀬:サービスを提供する側としての視点になりますが、まず日本でMaaSに取り組もうとすると、リアルタイムの車両の情報や都市交通データが全国的にマルチモーダルに網羅されたオープンデータが提供されていないのでなかなか構築できないという問題があります。

シンガポールでは、国の基準で定められている情報をオープンデータとして全て公共交通事業者が提供しなければいけないので、それを使用すれば誰でもサービスを提供できるという環境が整っている。日本は民間企業が個別の地域で独自にやっているので、それを全事業者分揃えるのはなかなか難しい状況です。設備投資も含め民間で行うとなると厳しい現状がある。

各事業者が集めたデータはあるが使うのにすごくハードルが高い日本に対し、シンガポールはアクセスすれば全てのデータが一気に手に入る。「やればできる」と「すぐにできる」の違いですね。チャレンジできる、というのが非常に重要で、日本も実はチャレンジできるようにはなっているけど、一つひとつ申請を上げて、2~3ヶ月待つ必要があるため、「頻繁に」はチャレンジできません。シンガポールは頻繁にできる状況です。

また、MaaSというものは使っている人たち、地域の皆さん自身がこういうサービスがほしいと考えて作っていけるもの。今の日本は他国と比べて便利なので、交通は変わらないという考えがあったり、現状で満足してしまっていて、交通や移動についてもっと便利に変えたいと考えている人が少ないというのも障壁となっているのではないでしょうか。本当の意味での「自分たちにとって使いやすいMaaS」を作っていきたいと思っています。

◆連携、協力が欠かせないMaaS

---:異なるサービス事業者や団体が連携、協力しなければMaaSは成立しませんが、お二人が他者と取り組みを行う中で重用視している点は?

村瀬:様々な社会課題を解決するとか、協業することによって新たな価値や便益を創出できるとか、異なる会社が特長を活かしながら提携することで何かを生み出す必要があります。まずそれができるかどうか。それから、やはり事業なのでそれぞれが収益を上げて継続できるということも大切だと考えています。

川原:村瀬さんと同じ意見ですが、自動運転を活用したMaaSに関して言うとまだチャレンジ期間だと捉えていて、そういう時期に一番大切なのは熱意があるかです。お互いのビジョンや想いが同じ方向を向いているか。色々な自治体や企業と話をして、最後まで一緒にやりきれるのかを見極めるのが一番重要だと思っています。

---:会社としては2020年に提携を発表し、それ以前からお二人の関係も続いていると思いますが、お互いの会社、人をパートナーとして選んだ理由を教えてください。

川原:モービルアイとWILLERが一緒に組みましょうという合意をしたのは、数年前、シンガポールでのことだったんです。村瀬さんと話をしていて、その時のフィーリングでしたね。まだ誰も成し遂げていない、成功していないMaaSという領域において一緒に事業をしたいと思ったのがきっかけです。

村瀬:モービルアイは自動運転に限らず、クルマの安全において様々な実績を持ち、いつも先進的な安全技術を生み出してきた会社です。僕がやりたいことを実現可能にしてくれる会社であろうというのがまず企業としての決め手でした。また、川原さん個人については、やはり信用できる、考えやスタンスがブレないというところが大きい。川原さんがいたから組みたいと思ったのが事実です。

---:今後のビジョンや理想のMaaS社会についてはどのように考えていますか?

村瀬:移動と一口に行っても、大都市が抱える課題もあれば、MaaS Meetingで紹介した佐渡市のような地方における課題もありますが、いずれにしても人の移動がストレスなく行われるということは、高齢化が進む日本においてメリットをもたらすと思います。その中で自動運転が可能にすることは多く、生活を変える、人と人、人とまちを繋ぐ、ウェルビーイングを達成する、といった様々な面で欠かせない技術だと思っています。

我々が目指しているのは、まず暮らしの足として2~3km圏内での移動を24時間いつでも、高齢者や免許を持たない人でも、自動運転で可能にするということです。そこをしっかりと実現していきたい。人手不足だから自動運転にするというのではなく、ウェルビーイングのためにどう活用できるかをこれから検証していきます。

川原:自動運転サービスは技術面よりも商業面の課題が大きいと思います。莫大な投資が必要ですし、安全性を極限まで高めなければならない一方でシステムコストを安く提供していなかれば社会実装は難しい。当社としては自動車メーカーやサプライヤーとの協業、移動需要を持つ交通事業者との協業を強化し、その両軸で積極的に事業を展開していきます。今後、独シェフラーやベントラーとサービスカー向けの自動運転車両投入を予定しています。

また、モービルアイとWILLERの取り組みは、より良い交通を提供して社会を良くすることを目指しています。それはこれからも変わらない部分。直近では、日本でのロボタクシー運行を目標としていますが、それだけでなくこの2社でないとできないことを実現していきたい。日本でも大小様々な企業が事業を行っていますが、他者と差別化して何ができるかを模索し突き詰めていくことで、お互いにとって嬉しいビジネスが見えてくると考えています。

WILLER代表の村瀬茂高氏(左)とモービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏(右)WILLER代表の村瀬茂高氏(左)とモービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏(右)

《吉田 瑶子》

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