スバル インプレッサ 新型は「日常も楽しくしたい」…デザイナー・インタビュー

スバル インプレッサ
スバル インプレッサ全 13 枚

SUBARU(スバル)は、同社の基幹車種であり、エントリーとも位置付けられる『インプレッサ』をフルモデルチェンジした。そこでデザイナーにその特徴や兄弟車の『クロストレック』との差異について語ってもらった。

SUBARU商品企画本部デザイン部主査の井上恭嗣さん(スバルクロストレックとともに)SUBARU商品企画本部デザイン部主査の井上恭嗣さん(スバルクロストレックとともに)

◆インプレッサとクロストレックを行ったり来たり

---:新型インプレッサが登場し、それと相前後して兄弟車であるクロストレック(旧XV)もモデルチェンジしました。この2台をデザインするにあたり、デザイナーとしてはどのように考えていったのでしょう。

スバルインプレッサ(右)とクロストレックスバルインプレッサ(右)とクロストレック

SUBARU商品企画本部デザイン部主査の井上恭嗣さん(以下敬称略):インプレッサとクロストレックという関係で考えれば、これまでと同じですから、そこに不安はなかったですね。ただ、世の中の状況の変化が大きく関係して来ています。それはSUVという市場がもはやメインボリュームでミニバンよりも多くなりましたし、こういうクルマだというイメージの認知も進んでいますので、そこが今回の開発で気にしたところなんです。

もう少し具体的に説明しますと、SUVの形は高くて厚くてごつくて箱型というところが浸透しています。一方で、XVはこれまでもSUVカテゴリーの車といわれていましたが、基本的には乗用車の車高を上げたクルマだったんですよね。ですからSUVが欲しいという追い風があり、そういう方が多くなってきているなかで、クルマの形がお客様のイメージ通りになっていないと選択肢には入れてもらえない。そこが一番苦労した考えの部分です。

---:いまのお話はクロストレックに対しては当てはまりますが、インプレッサはまた違うカテゴリーのクルマです。共通性も持たせつつ、インプレッサもデザインしていかなければいけないわけですよね。

井上:基本的に分厚いものを作らなければいけないということがいままでと違っているところで、そこを共通にしなければいけません。ですので、まずクロストレックの方をこれまで以上に分厚く見せるために、フードを上げたりしてSUVの骨格を作り上げます。

そしてこれならSUVに見えるだろうとなったときに、そこから車高を下げてインプレッサでもいけるかどうかという検証をしていきました。ただ、クロストレックを作り上げてインプレッサをデザインしたのではなく、両方を行ったり来たりしながらですね。ですから、バランスを取る過程は、従来のXVとインプレッサの関係に対してはかなり苦労しましたし、時間をかけています。

◆SUVにも感じられる商品コンセプト

---:いまのようなデザイン過程を経て仕上がったのはわかりました。では、インプレッサのデザインコンセプトはどういうものだったんでしょうか。

井上:デザインのコンセプトはありません。商品のコンセプトである“行動的なライフスタイルへと誘うユーティリティ・スポーティーカー”をそのままデザインしています。つまり商品コンセプト通りに見えるかどうかでやっているわけです。

なぜかというと、今回の商品コンセプトは、お客様の欲してるものに対して的を得ており、確証もある言葉だったので、あえてデザインで言葉を作って段階を踏んでしまうより、ダイレクトにやった方がデザイナーとしてもわかりやすいだろうと考えたのです。

---:しかし、この商品コンセプトを文字通り受け止めるとSUVに向けたものに見えてしまいますね。

井上:それもわかったうえなのです。調べてびっくりしたのですが、インプレッサに乗っているお客様でも、使用実態はクロストレックと傾向が近かったのです。インプレッサのお客様は、クルマを使って遊びに出かけて、そこでアウトドアもやっていらっしゃる。そこがすごく特徴的だったんです。

なので、乗用車に見えるんですが、もっと外に遊びに行けたりとか、アウトドアができたりするようなデザインにしようとしたところが、今回のインプレッサの特徴です。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

◆乗用車に乗りたいか、SUVに乗りたいか

---:具体的にそれを表現してるのはどういうところなんですか。

井上:ライバル車と比べていただくと、少しかっちりとした、しっかりとした印象だと思います。

---:確かに塊感がありますね。

井上:そうですね。もう少し詳しくいうと、角とか線がちょっと多めにできています。全体のボディの形の中で角っぽい部分が多かったりしています。

例えばフォグランプの周りを囲っている形も、普通であれば四角くていいのですが、下側で1回角が多かったりしています。リアフェンダーもリアのドアハンドルあたりから上がってきて、通常はリアコンビランプあたりにその面やラインを伸ばしてくのですが、インプレッサの場合は、リアコンビの下側へ一度下げて、そこから少し上に向かいつつリアに回り込ませることで、しっかりカッチリしたところを表現しています。そうすることでアウトドアだとか、雪だとか雨だとかというシチュエーションでも安心できるイメージをベースに感じてもらえるようにしました。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

歴代のインプレッサを見ると、その時代時代で他のクルマと比べて何かしらしっかりした感じがあると思っていたんですよね。スポーティなクルマというイメージは強いのですが、実際に多くのお客様は、どこかに乗用車で遊びに出かけている。それはスバルの機能もそうだと思うんですけれど、見た目も何かしらしっかりした感じが彼らの趣味に合っているのではないかと考えました。

---:より遊び方向が強い方達はクロスレックに行きましょうという棲み分けができていると。

井上:すごくシンプルに同じことをやっているわけじゃないですか。何が違うかといったら、SUVに乗りたい人と乗用車に乗りたい人だった。最初は僕も悩んだんです、やっていることが同じなら同じクルマでいいじゃないかと。しかし単純に彼らの中では流行りのSUVに乗りたい、私はああいうクルマが好きという方達と、いやいや、私は乗用車がいいです、流行りじゃなくていいです、と。そういうことだったので、それであれば乗用車らしく見せる、SUVらしく見せるという作り分けを、それぞれの専用パーツで注力してやりました。

◆前後左右に伸びやかに

---:ではインプレッサで乗用車らしく見せるためのポイントはどういったところでしょう。

井上:その前にまずSUVからお話をしましょう。SUVは先ほどからお話しているように、高くて分厚いということをどう見せるか、どうやったらそうなるかというところですね。それに対してインプレッサは乗用車なので、私は伸びやかさだと思っています。前後に伸びやか、左右に伸びやか。そういうイメージをクロストレックに対しては植え付けたいとデザインをしています。

今回のインプレッサとクロストレックで、それぞれの専用部分は前後のバンパーとグリルがメインなんです。そこで差別化をしないといけません。それ以外の鉄板とガラスは全部同じなのです。

例えばフロントでは、横長に見せたいんですね。そこでグリルの大きさが違っていて、横長タイプになっています。また隠し味というか、ほとんどの人はそうは見ないと思うのですが、グリルの下の部分に凹み(ナンバープレートの上部あたり)があり、それが左右を一本でつなぐように見せています。これが横長に見せる効果を生んでいるのです。同時に、両端に目立つ部品がちょこんとついていますので、左右をより強調しています。そういうところから見た目の印象を実際の物理的な長さよりも横長に見せられるように工夫しているのです。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

リアも同様で、リアリフレクター同士を凹みの造形でつないでるんですね。また、六連星の周りの部品が先代と変わっているんです。旧型はこの六連星が付くところに小さいサイズのカバーが付いているのでひと部品多い構成でした。今回その部品を大型化したことで横にすっきり通ったイメージになりました。これは『レガシィ』や『フォレスター』、『レヴォーグ』などの上級車で採用した方法を取り入れています。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

今度は前後方向ですね。前後の場合は長く見せるわけです。では何で感じさせるかというと、奥行き感です。つまり、パンパーに穴があって奥行きがあるように見えるとそう感じるでしょう。リアでいうと、リフレクター周りがかなり深く凹んでいますので、そこからジェットエンジンやマフラーとかを思い出してもらえれば、こういう筒状のものがあると前後の奥行を感じるでしょう。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

フロントはフォグランプ周りのボディ色の部分がキーです。ここは実際に穴が開いているわけではないのですが、上半分が暗くなっていて下半分が明るいので、三角形の穴が開いているように見せているのです。そういったことから実際の車体よりも長い印象を与えられる効果を狙ってデザインをしています。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

因みにいまお話したフォグランプの上の暗い部分なのですが、面が下に向いてるのです。通常クルマのデザインは、下向きの面はあまり増やさないんです。光が当たったところがかっこいいというイメージがあるからなんですね。しかしこの大きな面積を下に向けることでクルマのサイズよりものびやかに見せられないかという工夫をしたのです。

◆配色を変えたインテリア

---:インテリアに関してですが、ここはクロストレックとあまり変わっていない印象ですね。

井上:形状は変わっていませんが、配色が変わっています。具体的には、クロストレックは外に楽しく遊びに行くイメージで作られていますので、グレーが基調の明るめのインテリアになってます。インプレッサは乗用車なので、スポーティで少し上質感みたいなものも求められていると思いましたので、基本的には黒で、シルバーのラインが入っているような演出を施しています。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

また、シート表皮もクロストレックはちょっと楽しそうな柄にしているのに対し、インプレッサはスポーティな感じのものを採用しています。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

---:最後にインプレッサのデザインについて語っておきたいことがあればお願いします。

井上:お客様に楽しんでもらえたらいいなと思っています。新型のデザインを見てもっと遊びに行きたくなったという言葉を聞いてみたいなと。ぜひ、山に行ってみたり、海に行ってみたりしていただいて、日常も楽しめる新しい気分になってもらえればいいですね。

---:日常を楽しめるということが大事ですね。

井上:それが難しかったんですよ。普通のクルマを楽しくしろ、毎日使ってるものを楽しく感じさせろというのが今回のプロジェクトだったので。

新型車とか新しいデザインに求められるものとして、もっと先進性が欲しいという気持ちは分かるのですが、買っていただいた後にどう感じるかをスバルデザインではすごく考えています。

新規性とか、奇抜さは優先順位がそこまで高くないということです。もちろん必要ではありますが。例えばユニクロの服はどうですかということです。普通の服ですが、皆さん喜んでこれがいいんだと買っていらっしゃる。なぜかクルマだけが、もっとキラびやかなものとか、ドラマチックなもの、みたいな思考が大きく占めているのです。もちろんそこも大切なのですが、それよりもシンプルで楽しいねというクルマができたらいいなと思ってデザインをしています。

スバル インプレッサスバル インプレッサ

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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