2026年からアストンマーティンとF1で共闘…ホンダ“復帰”の背景と意気込み

#14 F.アロンソ / アストンマーティン(2023年F1マイアミGP)
#14 F.アロンソ / アストンマーティン(2023年F1マイアミGP)全 9 枚

24日、ホンダが2026年シーズンからF1に“復帰”することを発表した。2021年限りでの“撤退”から、2022~2025年の“技術支援”という名の参戦継続期を経て、F1の技術規定が大幅に変わる2026年シーズンに新たな船出をすることが正式に決まった。

◆いろいろと注記事項が必要な「F1復帰」

ホンダは2021年シーズン限りでパワーユニット(PU)供給者としてのF1参戦活動を終了、その発表が前年の2020年10月に電撃的にあったことは記憶に新しい。

「カーボンニュートラル実現にリソースを集中」するための「苦渋の決断」を発表してから約2年半、実際の参戦終了から約1年半という長くはない時間を経て、2023年5月24日、ホンダは2026年シーズンからF1PU供給者として参戦を再開することを発表した。

ただ、ホンダは撤退発表後の状況変化に応じるかたちで、2022年以降もレッドブル・グループの2つのF1チーム、レッドブルとアルファタウリに“技術支援”という名目で実質なPU供給を継続中だ。この関係は2025年シーズンまで継続されることが決まっている(2022~25年は技術規定の面で大きくひとくくりにできる期間)。よって、2026年からの復帰についてはいろいろと注記事項が必要な状況ではある。

ホンダの三部敏宏社長は今回の発表の冒頭で、「F1についてホンダの“新たな展開”をお知らせいたします」と語っている。そして、それに続いて語られた内容は「ホンダは2026年シーズンより、PU供給者としてF1に参加することを決定いたしました」というものであった。

◆F1の目指す方向性が、ホンダのそれと合致してきた

F1が技術者を育てる最高の環境であることは今も昔も不変、それがホンダにとっての世界最高峰レース挑戦の大きな理由であることも変わらない。このタイミングでの復帰を決断した最大の理由について、三部社長はこう語る。

「F1を取り巻く環境に大きな変化がありました。(技術規定が新しくなる)2026年からは100パーセント・カーボンニュートラル燃料使用となり、PUの総出力に占める電動パワー比率が50パーセントと、今の20パーセント弱から大幅に高められることになります。ここから得られる技術やノウハウは、電動フラッグシップスポーツをはじめとするこれからの量産電動車の競争力に直結する可能性を秘めています」

2026年からのF1新レギュレーションがホンダの目指す方向性とかなり近いものになった、これがホンダの決断を後押しした最大要因である。そしてそのことがホンダの技術者を刺激するものであったことも三部社長は語っている。F1をやりたい(続けたい)、という声は現場でも強かったようだ。

加えて三部社長は、ファンへの感謝とその思いを受けとめる旨もあらためて語った。

「ファンのみなさんの応援、盛り上がりが私たちのF1活動において大きなモチベーションになっていたことも事実です。その気持ちには、これまで以上に応えていきたいと思っています」

また、北米でのF1人気が上昇していることもマーケティングの面等でF1復帰に向けての好材料であったという。

◆レッドブル・グループとの共闘は2025年で終了

“ホンダ最終年”の2021年にレッドブルのマックス・フェルスタッペンがドライバーズタイトルを獲得、ホンダにとっては30年ぶりの頂点だった。すると翌2022年は、レッドブルがドライバー部門とコンストラクターズ部門(チーム部門)の両王座を獲得し(ドライバー王者はフェルスタッペン)、今季2023年もレッドブルが目下開幕5連勝(フェルスタッペン3勝、セルジオ・ペレス2勝)と“ホンダ”は絶好調である。

レッドブルとアルファタウリが搭載するPUの名称は2022年こそ「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」だったが、今季2023年は「ホンダRBPT」に変化。ホンダは2022年から「HRC(株式会社ホンダ・レーシング)」が四輪・二輪のモータースポーツ活動を統括する新体制を採り、そのなかで2026年からの施行が予定されるF1新規定にも関心を示し続けていた。

そして昨秋、研究継続のために“一応”のPUマニュファクチャラー登録をHRCが実施。すると、「複数の陣営から話がありました」と渡辺康司HRC社長は明らかにしている。一方でレッドブル・グループは2026年からフォードとの提携に舵を切り、ホンダとの最強タッグは2025年限りになることが決定。そうした流れのなかで、いよいよF1復帰を志したホンダがワークス供給の相手として選び、選ばれた共闘パートナーがアストンマーティンだった。

現アストンマーティンF1チーム(Aston Martin Aramco Cognizant Formula One Team)はかつてフォースインディアやレーシングポイントのチーム名で知られた英国本拠陣営であり、その源流はジョーダンに行き着く(ジョーダンはホンダとの共闘経験あり)。2021年からアストンマーティンの名になり、今季2023年は移籍加入のフェルナンド・アロンソが開幕5戦で4回も3位表彰台を獲得するなど戦闘力を増して、レッドブルの後方で争う2番手チーム集団、“セカンド3”とも呼べる地位の一角をメルセデス、フェラーリとともに占めている。

◆アストンマーティンと一緒に開く、ホンダF1の新章

アストンマーティンは現在メルセデス製PUを使用しているが、2026年からはホンダ(HRC)のワークスPU供給を受け、「Aston Martin Aramco Honda」としてF1に参戦することになった。

今回の発表にはアストンマーティンF1チームのローレンス・ストロール会長、チーム首脳のマーティン・ウィットマーシュ氏も出席。アロンソの僚友であるもうひとりのアストンマーティン現レギュラードライバー、ランス・ストロールの父でもあるローレンス・ストロール会長は力強く、こう話した。

「ホンダはグローバルモータースポーツにおける巨人であり、特にF1で素晴らしい成績をおさめてきました。アストンマーティンのポテンシャルを見出してくれて感謝します。レーシングはホンダのDNAの一部であり、アストンマーティンも同じDNAをもっています。一緒になって、勝ちます」

ウィットマーシュ氏はマクラーレンでの首脳歴が長く、ちょうど10年前の2013年5月、ホンダが2015年シーズンからの参戦開始を発表した際に当時の共闘相手であるマクラーレンの首脳として会見に出席した経緯がある(ただし、2015年より前に氏はマクラーレンを離脱)。

ホンダと縁深いウィットマーシュ氏はこう語る。

「勝つことへのホンダのパッションはすごいものがあります。私は常にホンダに憧れていましたし、ホンダとやりたい、と思っていました」

ちなみにドライバーに関しては基本的にはチーム(アストンマーティン)側の決定事項になるという。2026年まではまだ時間があり、現在のアロンソ&ランス・ストロールのコンビが維持されているかどうかはわからない。もしアロンソが残っていたとすると、2015~17年のマクラーレン・ホンダ時代においてホンダとはあまりいい関係とはいえない面があっただけに下世話な心配もしたくなるが、「天才的なドライバーであり、リスペクトする存在」と三部ホンダ社長と渡辺HRC社長は語っている。あたりまえの話だが、過去は過去、ということである。

現アルファタウリの角田裕毅の起用についても、先のことすぎて現段階で具体的な話などあるはずもないが、広義における可能性が存在することはホンダ側、アストンマーティン側も当然、認めている。

アストンマーティンはファクトリー増強策も進めるなど、今季序盤の好調から近未来のチャンピオン争い参入という飛躍を強く意識している。そして新規定時代にホンダという共闘パートナーを迎えるわけだが、アストンマーティンF1チームのローレンス・ストロール会長は「必要な最後のピース」とホンダを待望し、ホンダもアストンマーティンF1チームを「勝利、チャンピオンへの情熱を最も強く感じましたし、我々を高く評価してくれて、『ぜひ一緒にやろう』と思えたチーム」(渡辺HRC社長)と共鳴する。

2026年からアストンマーティンと一緒に開くホンダF1の新章、その展開に注目したい。

《遠藤俊幸》

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