トラック・バス用スタッドレスも進化している! 藤島知子が初試走で体感、トーヨータイヤ『M939』の実力とは

モータージャーナリスト 藤島知子氏
モータージャーナリスト 藤島知子氏全 13 枚

トーヨータイヤのトラック・バス用スタッドレスタイヤの新製品『M939』の試走会が2023年の2月に北海道ルスツの特設コースで開催された。実は筆者である私自身、トラックバス用タイヤの試走会に参加するのは初めての体験だ。

トーヨータイヤの担当者に聞くと、この手のタイヤの雪上試走会は初めての開催とのこと。実走行で新商品の体験をしてもらおうという今回の試走会の開催は、彼らにとってM939が重要なモデルであり、自信作なのではないかと想像すると期待感が高まった。

◆「効き」と「持ち」にフォーカスを当てたM939、環境問題だけでなく物流課題の解決に向けて開発

トーヨータイヤ「M939」試乗会トーヨータイヤ「M939」試乗会

M939の商品コンセプトは氷や雪の路面で重要となる“効き”と“持ち”の両立。それを前提に環境変化に対応する耐摩耗性能を向上させた新商品だという。

環境変化の1つは気候変動。最近はドカ雪が積もることが増えたが、そうした状況でもしっかり走行できる氷雪上性能が必要とされている。一方で、降雪量が減少してきているエリアの場合、アスファルト路面を走る頻度が増加。摩耗ライフの向上も必要とされている。

2つめは労働力不足。労働時間に制約が生まれる2024年問題が取り沙汰されているが、他にもドライバーの高齢化や人材不足になるといわれている。こうした問題は輸送業界が安全かつ円滑に流通を図る上で直面している課題とされており、タイヤを中心に考えてみると、車両やタイヤのメンテナンスにかける時間、それにかかる費用、人員の削減が加速してしまうことが危惧される。そうした課題の解決にひと役買えないか考えたトーヨータイヤは、現場で手が掛からない低メンテナンス性を高めたM939の開発に着手したのだ。

トーヨータイヤ「M939」試乗会トーヨータイヤ「M939」試乗会

“効き”を実現する具体的な技術としては、路面に接するブロック内に波形のサイプと呼ばれる切り込みを高密度に配置することで、路面に引っかかるエッジ要素を増やし、凍った路面や圧雪路では既存の『M929』と比較して制動性能を向上。さらに、ブロックを周方向に連結させたことで接地領域を増やし、旋回時の安定性を向上させている。また、4本の主溝を確保することで、雪が目詰まりしにくいように対策されているようだ。

一方で、偏摩耗を抑制し、摩耗ライフと低メンテナンス性を向上させている“持ち”を高めた技術としては、周方向に連結して剛性を高めたブロックが過度な動きを抑制。さらに、接地圧力が高いセンター部分の幅を拡げ、タイヤの接地幅の圧力を均一化することで偏摩耗を減らすことができたという。

◆M929との比較試乗で実力を検証、特設コースで発進加速・制動・旋回を試す

モータージャーナリスト 藤島知子氏モータージャーナリスト 藤島知子氏

「百聞は一見にしかず」ということで、いよいよ試走の時間がやってきた。目の前に用意されたトラックは日野レンジャー』。マニュアル車で後輪駆動のモデルとなる。車両総重量は7,990kg、最大積載量は2,650kgで荷物を半積にした状態。試走するタイヤは既存のM929と新商品のM939の履き比べを体験させていただく。特設コースは雪が積もった広場にパイロンが設置されていて、発進加速後に時速30kmからのブレーキで制動性能を確認し、8の字で走りながら旋回性能を試せるようだ。

先ずはM929を履いた車両の運転席に乗り込む。2速で発進したあと、シフトアップしながら時速20km程度まで車速を上げてカーブに差し掛かると前輪のタイヤが少しずつ逃げ始めようとする。車体の姿勢を落ち着かせるために、アクセルペダルは少し戻しながら走っていく状況だ。そして、時速30kmに到達して、すぐにフルブレーキを踏んでみる。グググっとタイヤが雪を掴むが、流石に滑りやすい雪とあって、制動距離は少し伸びてしまう。とはいえ、どれくらい滑るのかが感覚的に把握しやすいので、それを予測しながら走らせるといった具合だ。

◆比較したM939で驚き、確かに進化した新製品の実力を体感

トーヨータイヤ「M939」試乗会トーヨータイヤ「M939」試乗会

次に、新商品のM939を装着した車両に乗り換えて走行を開始。すると、出足からスムーズに発進してみせることに驚かされる。駆動する後輪がトラクションを得てしっかりと車体を前に押し出していくことで、安定した姿勢で進むことができた。時速30kmに合わせて強くブレーキをかけてみると、先ほどよりも早いタイミングでグググと路面を掴み始める感触が得られ、タイヤの接地性が高まっていることを実感させる。ブレーキを緩めながら再び走行していくシーンでは、安定した姿勢を取り戻すタイミングも早かった。

アクセルペダルを僅かに足したり、踏み戻したりといった操作にタイヤのグリップが丁寧に反応して走らせていける。こうして、車体の動きがドライバーの運転操作でコントロールしやすいことは、雪道でのすれ違い、交通量が多い街中の走行、幅員の狭い道路などで、タイヤを辿らせたいラインを狙っていける安心感が得られそうだ

8の字旋回では、前後のタイヤがバランス良く接地していた。後輪がトラクションを得ながら車体を前に進めていく一方で、前輪の舵が効く。最初に試走したM929と比べると、M939は手足のように車体の動きをコントロールできている安心感と気持ち良さが得られたほどだった。

働くクルマは荷物を満載にしている状態とそうでない時では荷重のバランスが大きく変化する。その点では、M939の走りをみる限り、空荷で走る時にリヤのトラクション抜けの心配をすることが減りそうだ。いずれにしても、グリップを高めながら走っていけることを考えると、同時に耐摩耗性能を高めているというのが不思議なほど。輸送は地域との信頼関係で結び付いている業界であり、冬場の厳しい環境でも安全で安定的な運行を行わなければならない。今起こり始めている働く環境の変化や、気候変動に対応する技術の進化は歓迎すべきものだと思った。

藤島知子|モータージャーナリスト
幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年からワンメイクレースに参戦。市販車からフォーミュラカーに至るまで、ジャンルを問わず、さまざまなレースに参戦。2007年にはマツダロードスターレースで女性初のクラス優勝を獲得。現在はクルマの楽しさを少しでも多くの人に伝えようと、自動車専門誌、一般誌、TV、ウェブ媒体を通じて活動中。走り好きの目線と女性の目線という両方向からカーライフ全般をサポートしている。

《藤島知子》

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