“低価格・低品質”な運送サービスの可能性…物流2024年問題

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◆「送料無料」のまやかし

Amazonの場合、注文金額が2000円を超えると、大半の商品は「送料無料」となる。楽天市場の場合、3980円以上であれば「送料無料」となるショップが多い。ヨドバシ・ドット・コムのように、「送料無料」を基本としているECサイトもある。

大方の人は理解していると思うが、「送料無料」であっても実際には配送コストを要している。商品価格に含まれているがゆえに、「配送コストがかかっていないように見えるだけ」だ。実のところ、「送料無料」はまやかしに過ぎないのである。


◆企業間物流での「見えない構図」

この「商品の購入者は配送コストがわからない構図」はECだけの話ではない。メーカーから卸売事業者、小売事業者に運送される企業間物流においても同様の状況にある。メーカーから商品を仕入れる卸売事業者は、別途送料を支払うことはない。商品価格に運送コストが含まれているからだ。卸売事業者から小売事業者への運送もまったく同じである。

それゆえに、商品を購入する側の企業は高品質な運送を求める。誤出荷を限りなくゼロにするのは当然のこと、指定の時間に届けること、外装のダンボールも含めて破損がないことは必須の要件となる。まして、指定の時間に着いたのにもかかわらず外で待たせたり、トラックドライバーに追加の作業を依頼したりすることもある。

運送事業者からすれば、運賃を支払ってくれる顧客は商品を出荷する側の企業だ。商品を受け取る側の企業から指示を受けたとして、契約外の依頼に対応する必要はない。しかしながら、その結果としてクレームが入ると、契約を切られてしまうかもしれない。このような構図にあるからこそ、運送事業者は商品を受け取る側の企業からの指示にも最大限対応しようとする。結果としてトラックドライバーの実労働時間が想定よりも長くなることは珍しくない。

なぜ、このようなことが起きるのか。それは、商品を受け取る企業からすると、一見「送料無料」であるがゆえに、運送に対する様々な要求がコストアップの一因になっていることを自覚しにくいからである。当たり前だが、誤出荷を限りなくゼロにしようとすれば、出荷前検品の精度・回数を高めなければならない。指定の時間に遅滞なく届けようとすれば、渋滞が発生するリスクを考慮して早めに出発する必要がある。そのすべてがコストアップに結びつき、最終的には商品価格に転嫁されているのである。

◆日本の物流品質は欧米の100倍

欧米では、このような事態は生じていない。商品価格と送料は別立てで請求することが一般的だからだ。商品を購入する側の企業がトラックを手配することも少なからずある。高品質な運送を求めれば、その分だけコストに跳ね返ってくることが明らかであるからこそ、過度な要求をすることもないのである。


《小野塚 征志》

株式会社ローランド・ベルガー パートナー 小野塚 征志

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。 ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。 内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長、経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員、経済同友会「先進技術による経営革新委員会 物流・生産分科会」ワーキンググループ委員、日本プロジェクト産業協議会「国土創生プロジェクト委員会」委員、ソフトバンク「5Gコンソーシアム」アドバイザーなどを歴任。 近著に、『ロジスティクス4.0-物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ-次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『DXビジネスモデル-80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)など。

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